100回を超える講演のアンケート結果から解った、プレゼンテーションの「すべし」と「すべからず」
プレゼンテーションが苦手でした。それは自分もだ、という方が多いと思いますが、恐らくそんな多くの方より私の方が深刻でした。なにせ、自分ではうまく出来ていると思っていたのです。しかし結果が伴わない。提案が通らなかったり、アンケートを取ると結果が散々だったりする。どうしてなんだろう。昔から話すことは得意なはずなのに。聞く人が悪いのかな。といった、我ながら最悪の状態でした。ジャイアンの歌ではないですが、自覚がない下手くそが最もたちが悪い。
そんなある日、上司がチームのためにプレゼンテーションの研修を用意してくれました。会場はあの「東京アメリカンクラブ(TAC)」です。外資系金融機関の幹部が集まる、と言われる、ほとんど都市伝説のような高級社交クラブ。これまで得意だと勘違いして避けてきたこの手の研修ですが、それなら出てみよう、と初めて出席することにしました。
くしくもこの研修がターニングポイントになりました。プログラムの一部で収録した自分のプレゼン動画を視聴し、はじめて「プレゼン下手」を自覚できたのです。これは改善しなければ、と改心しました。以後、プレゼンの都度自分で「反省会」を開催するようになりました。可能な限りでアンケートをとって、評価の推移をチェックするようにしたのです。これまでチェックしたアンケートの結果は、100はくだらないでしょう。そんななかで、だんだんとプレゼンテーションの「すべし」と「すべからず」が解ってきました。
そうこうするうちに、外部の講演にお声がけいただくことも増えていきました。多い年は年間60回ほど講演や研修講師、パネルディスカッションなどをやらせていただきました。そんな機会は、何より格好のフィードバックを与えてくれます。アンケート結果に一切の忖度がないからです。量も桁違いです。100人〜1,000人分のアンケートを見ながら一人で反省会をする。それを繰り返すうちに、高い評価をいただけるプレゼンのポイントがより明確に見えてきました。このnoteでは、そんなポイントをまとめてお届けします。
ロジカルに話す
これからのお話は、すでに見ていただいた見出しの通り、大きく3つのパートにわかれています。この大見出しは、アリストテレスの「弁論術」で、三種の説得手段として説明されているlogos(ロジック)、pathos(感情)、ethos(正当性)に基づいています。同著は、いわば古代ギリシア時代に書かれた「プレゼンの教科書」です。その後、人類の歴史を通じて読みつがれ、シェークスピアが劇中の演説を構成する際も参考にした、と言われています。私もこれを大いに参考にしています。ここではまず「ロジック」を見ていきましょう。
<構造を持つ>
ロジカルな話しの組み立て方はいくつもありますが、私がプレゼンでもっとも応用しやすいと考えるのは、「木のように構造を整理する」というテクニックです。木(テーマ)があって、枝(大見出し)があって、葉っぱ(小見出し)があって、と話しを整理するのです。すると、個々の話題の関係性が明確になり、聞き手は話しを理解しやすくなります。また、大見出しを通しで読んだ内容=結論となりますので、序盤で「結論が頭に入った」という安心感を与えることができます。
<構造を示す>
この構造は、話しを構成するときの設計図とするだけでなく、話しの中で聞き手に開示する必要があります。工場見学のガイドが、「全部で3つの工程があり、それぞれに工場がありますが、まずは最初の◯◯から見ていきましょう」などと説明するイメージです。このnoteの構造に関しては、まず大見出しを見ていただきました。小見出しは<太字>で表現しており、さらに小さい見出しは太字でハイライトしていますので、まずはざっと下にスクロールしてもらい、太字部分だけをチェックしてみてください。このように全体の構造を示されると、話しがロジカルであると感じるのではないでしょうか。
<常に構造に立ち返る>
ただ、このような話しの構造は、それだけではなかなか頭に入ってきません。具体性がないし、見ていて楽しくないからです。本の目次を読むのが苦痛だ、という人はいませんか?あれと一緒です。ですので、構造の開示は完結に済ませ、話しをすすめる都度、あるいは要所要所で、また最後のまとめとして、構造に立ち返っておさらいしてあげる。そうすると、個々の話題に関しても、全体の構造に関しても、いずれも理解がぐっと深まります。
感情を有利につかう
どんなに論理的な話でも、大嫌いな上司からされたら腑に落ちないでしょう。逆に、尊敬する大好きな先輩に「あなたならできるよ」と言われれば、根拠など何もなくても勇気がでてくるでしょう。このように、話しが説得力を持つかどうかは感情に大きく左右されます。プレゼンでも同様です。また、意外と見落とされがちなことですが、プレゼン中聞き手の中にはネガティブな感情も起こりえます。ですので、(ポジティブな感情−ネガティブな感情)の総和を最大化する、という心がけが重要です。
<ネガティブな感情をもたれないようにする>
説得しようとしないというのは、特に上司やクライアントを相手にしたプレゼンで重要な心がけです。人は誰しも「説得」されたくはありません。自分で「納得」したいのです。ゴリゴリに理論武装をして、全ての反論を瞬時に論破していくような姿勢は、良かれと思ってやっていても悪印象を与えてしまうことが多い。論理的に説明すればするほど上司が頑なになる、という経験はありませんか?それは、「説得マインドセット」がネガティブな感情を引き起こしてしまっているからです。
服装、言葉づかいに注意する。エイリアンにならない。というのも有効な心がけです。人を見た目で判断するのはよくない、と私も思います。しかし、人を見た目で判断する人は一定数いますし、その人達の考え方を変えるのは、ましてやプレゼン前の一瞬で変えるのはほぼ不可能です。この人は異世界の住人だ、と最初に思わせてしまっては、なかなかすっと話が入ってこないものです。ならば、自分が変わるほうが得策です。なるべく相手やTPOに合わせた服装、言葉づかいを心がけることで、不要なネガティブを排除することができます。私の場合、服装とアンケート結果には実際に相関がありました。
無駄な動きをしないというのも重要です。プレゼンターの無駄な動きは、聞き手としては妙に気が散るものです。冒頭の東京アメリカンクラブでのプレゼン研修で、自分のプレゼン動画を見た私は、自分が終始フラフラしていることにショックを受けました。スティーブ・ジョブズを気取ってあちこち歩きながらプレゼンしていたのですが、挙動不審な酔っぱらいにしか見えませんでした。歩きながらプレゼンする、というのは最上級者のなせる技なのです。相当習熟するまでは、体をしっかりホールドし、要所要所で手を動かす、くらいにしておくのが得策でしょう。これはZOOMなどでプレゼンする場合も同様です。
<ポジティブな感情をもってもらう>
名前を呼ぶというのは、もっとも費用対効果の高いテクニックです。人は自分の名前にただならぬ注意と関心を払うものです。これを活用し、聞き手の名前を、なるべく話のなかに埋め込むのです。「〇〇部長、この◯◯理論は聞いたことがあると思いますが」「例えば◯◯部長がインターネットで◯◯を見ていたとして」など、名前はあらゆる文脈で話に織り込むことができます。聴衆を知らない講演のようなケースでも、手前にいる人に話を聞くなどした際に名前を聞いておき、その後の話の中にその人の名前を織り込む、というテクニックが駆使できます。これは、経験上、会場全体の集中力と満足度を高めてくれます。
対話をこころがけるというのは、この感情パートの集大成と言っていいでしょう。冒頭で「説得しようとしない」と説明しましたが、ではどうすればいいのか、というと「対話をこころがける」のです。企画のプレゼンであれば、複数オプションを用意して、決済者である相手に選択の余地を残しておく。あえて粗さを残しておき、議論を通じて磨きをかける仕掛けにしておく、というのも一つの手です。「私はここに、あなたを説得しにきたのではありません、あなたと対話しに来たのです」という雰囲気を醸し出すのです。講演の場合でも、聴衆への語りかけができます。簡単なアンケートや、答えを期待しない問いかけなら、慣れない人でもできるでしょう。エイリアンにならない、という心がけも、ここで対話を意識すればなおさらなのです。
「確からしさ」をつくる
最後の大見出しはethos(エートス)です。英語にするとauthenticity(オーセンティシティ)。この言葉は「正当性」などと訳されますが、最近は「自分らしさ」という意味でよく使われます。要は、その言葉が自分の経験や生き様からでたものなのか、とってつけたものではないと言えるか、ということです。話の「正当性」とはそのような意味なのですが、全てのプレゼンに自分の経験や生き様を必ずしも反映する必要はありません。というか、不可能です。ここでは、それができない場合の技術も含めて紹介していきます。
<自分自身の「確からしさ」>
まさにこのnoteの冒頭で、私はこの技術を駆使しています。ほかでもない私が、プレゼンテーションの話をする「正当性」がどこにあるのか。それを、自分の経験を明かすことで担保しようとしたのです。この試みがうまくいったかどうかは、皆さんの評価を仰ぐほかありません(うまくいっていたらスキをお願いします!ドキドキ)。
<歴史や伝統の「確からしさ」>
すでにお気づきかもしれませんが、この技術もこのnoteで活用されています。「アリストテレス」や「シェークスピア」です。プレゼンテーションのコツを語るのに、いくら自分の体験や経験を吐露したところで、私がこれを語る正当性には限度があります。そこで、歴史と伝統がもたらす確からしさを拝借したというわけです。
<データによる「確からしさ」>
さらに、データによる確からしさで二重の補強を試みています。ここで解説する内容は、100回を超えるアンケートを分析した結果である、というくだりです。このように、話の正当性や確からしさは、すべて自分からでてくるものである必要はありません。また、自分からでてくるものも、ほとばしるカリスマ性である必要はありません。むしろ、私のような凡庸な人間が、挫折や失敗を経て成功にいたった体験談のほうが、多くの人の共感を集められます。
ここで説明した「確からしさ」の担保を、具体的にどうのようにやっていたかは、ここで再度冒頭に立ち返って確認してみていただけると幸いです。それをもって全体の構造を再確認いただくことで、全体を通してお話したことが、より深く理解していただけることもお約束します。
おわり
<新刊発売中>
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