ラザール・ベルマン先生の思い出 その1「勇気を出してスロヴァキアへ」
先日はベルギーでの留学生活について書きましたが、その中でも特に印象に残っているのが、憧れのピアニスト、ラザール・ベルマン先生の講習会に参加したことです。講習会のことは、ブリュッセル王立音楽院に置いてあったパンフレットで知りましたが、最初は「あのベルマンに習えるの?」と非常に興奮したのを思い出します。
「ラザール・ベルマン」は旧ソ連出身の、ロシアン・ピアニズムを代表するピアニストです。長らくイタリアに住んでおられましたが、亡くなってもう18年になります。私は学生時代から、リストのピアノ曲やカラヤンとのピアノ協奏曲のCDを聴いていて、大好きなピアニストの一人でした。ベルマンの演奏は、まず技巧が鮮やかで華があり、歌を美しく聴かせてくれながらも、情に流れ過ぎることがなく知的で、まさに私の好みにピッタリでした。何よりも、テンポの運びや動かし方、歌う時の間の取り方が美しく、なんてセンスがいいのだろう!と思っていました。今はYouTubeで沢山演奏が聴けますね。いろいろ聴いてみましたが、素敵なアヴェ・マリアを見つけました。こちらなどもいいですね♪ ラフマニノフの協奏曲第3番はホロヴィッツの演奏が好きですが、ベルマンもやっぱり素晴らしいです!
さて、その講習会ですが、毎年スロヴァキアのピエスタニーという街(温泉保養地として有名?)で約2週間行われているようでした。何しろ情報はそのパンフレット1枚だけで、よく読むと、初日にベルマン先生が審査するオーディションがあって、受かれば何度かレッスンが受けられる、受からなければ聴講のみ、とのこと。しかも前年にレッスンを受けた人は、オーディションが免除されるそうなので、一体新たに何人がレッスンを受けられるのかも分からないような状態でした。
はるばるスロヴァキアまで行って聴講だけになるのかも・・・と思いましたが、それでも、ラザール・ベルマンに1度はピアノを聴いてもらえて、生演奏やレッスンが聴けるのなら!と参加を決意。スロヴァキアに入国するにはビザが必要らしく、ブリュッセルの外れにあるスロヴァキア大使館まで出向いて手続きをしました。行程としては、まずウィーンに飛んで、電車で首都のブラティスラバに行き、そこからバスでピエスタニーへ行くという計画。若い頃の私は、あまり物怖じしない性格でしたが、それでも「バス乗り場では英語が通じるのかしら?」などと心配になってきて、出発の前日は胃が痛くなったのを思い出します。
そして出発の日、首都のブラティスラバまでは、問題なく着きました。そこからローカルなバスに乗りましたが、講習に参加しそうな人は誰も乗っておらず、ちょっと不安。運転手さんの近くにはラジオがあって、そこからはスロヴァキア民謡の悲しげな旋律が流れています。一面のひまわり畑の中を走るのですが、何だか不思議な世界に迷い込んだような気分で、不安と期待が入り混じる中、目的地に向かいました。
講習会場に着くと、各地から大勢の参加者が来ていて、ようやく一安心。翌日のオーディションでは、ベルマン先生のCDでよく聴いていたリスト作曲「ダンテを読んで」を弾いて運よく合格、レッスンが受けられることになり、大喜びしました。そこからは、毎日レッスンを受けたり聴講したり、ベルマン先生の弾いてくださる音の深さに感動しながら、有意義な日々を過ごしました。
この講習会は翌年も参加しましたが、2年目はオーディション免除なので、ゆったりした気持ちで現地に向かい、沢山友達も出来て、より楽しく過ごせました。ルームメイトのかなり年上のドイツ人女性と一緒に、水着を買って温泉に行ったのも、楽しい思い出です。(東洋人は私だけで、恥ずかしいようなちょっと不思議な気分でした・・。)
次回は、ブリュッセルに帰ってからのベルマン先生との思い出を書きますね!