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体温
誰かの体温。その心地良さを知ってしまったら、自分の体温だけでは物足りなくなってしまう。誰かとハグしたくなるのは、少しでもその体温に触れていたいからで、この手を離したくないからで、この手を離してしまったら、またひとり、だからだ。寂しさを体温で埋めたい。1秒でも寂しさを埋められたら、その1秒は確実に生きていられる。
誰かと一緒にいる時間が増えるほど、ひとりを自覚することが増える。人と出会ったことで生まれた寂しさ、を埋めるように人と会う。猛烈に人見知りなはずなのに、懲りもせず、びくびくしながら人を求める。そして見事に傷ついて癒されてモヤモヤしながら安心している。自分ひとりじゃ生まれない衝突に安心している。
本当はあなたと手を繋ぎたい。心を埋めるための体温がほしい。けど、自分から人に近づくのが苦手でほとんどいつも諦めている。だから向こうから手を繋いでくれたときには嬉しくて泣きそうになる。まるでそれが当たり前みたいに、何も言わず、私が握った手を握り返してくれる。その体温に、もう何もかも満たされた気持ちになる。
ひとりの寂しさを感じられる人間でよかった、なんて言わないけど、ふたりの心地よさを感じられる人間でよかったことは、たしか。ひとりの沈黙は孤独だけど、ふたりの沈黙は孤独じゃない。ただ側に人がいるだけで、息がしやすくなる。
体温は、たまに感じられるぐらいがちょうどいい。いつもくっついていたら、ひとりの呼吸ができなくなる。苦しくて、ふたりの心地良さすら忘れてしまう。眠たくなったら眠る、そのリズムで、触れたくなったら手を繋ぎたい。