手からこぼれ落ちていくもの
たしかそれは3月の終わりくらいだっただろうか。まだ暖かいとはいえない気候だったはず。やや厚手のコートを羽織り、いそいそと帰宅の途につく。繁忙期も落ち着き、定時の17時に帰れるようになった頃だった。
いそいそとした足取りは急ブレーキがかかった。目の前の信号が赤に変わったから。ふうと息をついて、んーっと伸びをした。信号を待っている間、ふと目線を左にやると、キラキラとしたネオンが光っていた。
もしかしたら、来週には大きく事態が変わっているかもしれないね、と会社の人と話していたけれ