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腰痛を学ぼう②ガイドラインから考える腰痛の正体

こんにちは。理学療法士のよーへいです。理学療法士として働いていると、看護師さんなど他職種のスタッフさんから「そう言えば最近、腰が痛いんだけど、どうしたらいい?」と言われることがあるんじゃないかと思います。

いや、この対応が実に難しいんですよ・・(面倒くさいという意味ではありません!)

ここは真面目に腰痛の原因を探るため、疼痛の分布や発生時期などを問診したり、徒手的な検査をいくつか行っていくべきか、それとも単なるコミュニケーションの一つであって、それとなく簡易的なアドバイスをしておくべきか・・・

どっちだ??

今回はその問いの答えにはなりませんが、腰痛の正体について腰痛診療ガイドラインを参考に説明していきたいと思います。

特異的腰痛と非特異的腰痛

腰痛診療ガイドライン2019の中ではまず腰痛の原因は6つに分類されると説明してあります。具体的には、1)脊椎由来、2)神経由来、3)内臓由来、4)血管由来、5)心因性、6)その他です。

腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版より作成

そして、これらの多種多様な原因は、特異的腰痛と非特的腰痛の2つに大別できると説明しています。特異的腰痛に関してガイドラインの中では以下のように説明しています。

診断法が確立し,病態に対応してした治療法が存在している疾患であり,脊椎腫瘍や椎間板ヘルニア、尿路結石などが当てはまる.
腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版より引用

非特異的腰痛に関しては

他の一群は,疾患の診断と治療が確立していない疾患・症候群である.これは、診断・治療いずれかにも不十分な手技しかない,あるいは医療者誰もが納得すり共通の診断治療法がないものであり,筋・筋膜性腰痛や椎間板性,椎間関節性,心因性腰痛などが当てはまる.
腰痛診療ガイドライン2019より引用

こうやって見ると、腰痛の正体をわずかな会話だけで見破っていくのは至難の技に思えてきますね。ちなみにガイドラインで「特異的腰痛はこれ」と示したのは一部であったため、書籍「そうだったのか!腰痛診療~エキスパートの診かた・考えかた・治しかた~」を参照し、下図で色別に示してみました。

赤字が特異的腰痛
青地が非特異的腰痛

色分けをすると、腰痛の原因の多くが特異的腰痛のようですね。妊娠からくる腰痛に関しては、この記事を書く前までは、胎児・胎盤による体重増加や重心の前方移動など機械的なストレスの増加が腰痛の発生機序として書かれている書籍があったため、どちらかというと非特異的腰痛に当てはまると個人的には考えていました。しかし、妊娠に関する診断や対応が確立していることを踏まえるとやはり特異的腰痛として捉えることはできますね。また。非特異的腰痛を対象としたeHealth戦略の効果を調べた研究(Suman2019)の中では、妊娠している人は対象から外すと記述してありました。これらを踏まえ、私自身の中では認識を改めました。
※誤った情報であれば、ぜひコメントで指摘していただければ嬉しいです

腰痛の85%は非特的腰痛?

腰痛の原因の種類に関しては特異的腰痛の方が多いと話しをしてきましたが、腰痛を抱えている人の多くが特異的腰痛であるかというと、それは話が変わってきます。

書籍や腰痛に関する論文のintroductionでは「腰椎の85%は非特異的腰痛である」という文句がよく引用されています。これはRichard A. Deyoの論文(1992、2001)から引用されているようですが、原文はインターネットでは閲覧できず、原著論文が読めなかったため、詳細は不明です。ガイドラインではこの論文に関して以下のように記述してあります。

機械性腰痛(mechanical low back pain)には腰椎捻挫(あるいは特発性腰痛)70%, 椎間板・椎間関節の加齢変化 10%などを示して “ おそらく 85%程度は病理解剖学的診断を正確に 行うことが困難 ” と記載された.その根拠は米国の総合診療医の情報を統合したものであるため, その正確性と詳細は不明であった.
腰痛診療ガイドライン2019より引用

また,近年Suzuki(2016)らは、X線検査、神経学的検査、身体検査に加えて、局所麻酔およびブロック注射を実施した上で、確定診断をつけたところ、腰痛の内訳として「椎間関節性22%」、「筋・筋膜性18%」「椎間板性13%」「狭窄症11%」「椎間板ヘルニア7%」、そして診断が不明であった「非特異的腰痛」は22%に過ぎなかったと報告しています。この論文では、痛みの原因を特定できたとのことで、「椎間関節性」「筋・筋膜性」などを非特異的腰痛ではなく特異的腰痛として扱っているということが印象的ですね。

図はSuzuki2016をもとに作成

このように「非特異的腰痛」は論文によって判断基準が異なる可能性があるため、しっかりと内容を確認する必要があります。しかし、それを踏まえても世の中に存在している大半の腰痛の正体は,ガイドラインが示す非特異的腰痛(特に筋・筋膜性,椎間板性,椎間関節性)であると考えられそうですね。

重篤な特異的腰痛に注意するためのサイン

その一方で、相談にきた友人やスタッフさんが抱える腰痛が、もしからしたら迅速に医学的な処置(服薬,点滴,手術,化学療法など)を必要とする特異的腰痛であれば絶対に見逃したくありませんよね。この低い可能性を見逃さないように、ガイドラインの腰痛の診断の手順の中では、「危険信号(Red flags)の有無」や「神経症状の有無」の確認を説明しています。

危険信号(Red flags)は重篤な疾患を見逃さないようにするためにの、注意すべき症状・徴候を指します。

重篤な脊椎疾患(腫瘍,感染,骨折など)の合併を疑うべき徴候

「体重減少」は悪性腫瘍の症状の一つに当てはまります。その腫瘍が脊椎あるいは脊髄に転移することで、腰痛が生じることがあります。

「発熱」は感染症での症状の一つに当てはまります。そして、感染による炎症症状によって「時間や活動性に関係のない腰痛」が生じることもあります。

「神経症状」には足の筋力低下(力がはいらない)や足の痛み・しびれ、足の感覚障害(感覚の鈍さや違和感)を指し示し、これらは「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」の症状の一つに当てははまります。

注意点として、危険信号が一つ当てはまるからと言って、必ずそれが特異的腰痛を示すわけではありません。また、その腰痛が特異的腰痛なのか否かの判断(診断行為)は、非医療者はもちろん、医療者である看護師や理学療法士は行えず、医師のみしかできません。医師の注意深い問診と身体検査、そして必要に応じて画像検査や血液検査の実施によって、腰痛の原因が特定されていきます。

その一方で、医師以外の、多くの人が「危険信号」や「神経症状」の意味を知っていることには意義があると思います。腰痛が生じた際に、その2つの徴候がないのか注意深く確認しておくことで、適切な病院の受診行動に繋がる可能性があると思います。

○まとめ
今回は腰痛に原因について解説してきました。まとめると、

・腰痛の大半は診断・治療方法が明確ではない非特異的腰痛である
・非特異的腰痛は病態解明により今後内容が変わる可能性がある
・重篤な腰痛を逃さないための「危険信号」「神経症状」を知る

という3点が重要ポイントかと思います。

腰痛の相談を受けたとき、さりげなく「危険信号」と「神経症状」の有無は聞きたいところですね。

あくまでさりげなく、、、(笑)。

次回、非特異的腰痛に含まることが多い「椎間板性腰痛」に関して、少しまとめてみようと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献

  • 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛策定委員会:腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版.南江堂,東京,2019.

  • Suman A: Effectiveness and cost-utility of a multifaceted eHealth strategy to improve back pain beliefs of patients with non-specific low back pain: a cluster randomised trial :2019.

  • Suzuki H : Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study:2016.  

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