鳴かず飛ばずの吉原女(よしわらめ)No1



働けど働けど楽にならず、

もっと仕事をしなければならないのかと暗い気持ちになる。
私は、あなたの笑顔のために頑張る。パパ、あなたと息子のりくの為に頑張る。

ターナーの絵のような夕暮れの空を見て。
高校生の時、ターナーの絵を観て感動した。あの頃の気持ちと今の気持ちとでは、感動も違うのだろうかとふと思った。年月を経て、気持ちは、くすんでしまったのではないだろうか。

持っていた指輪を売った帰り道。なんだろう、この喪失感は。片思いにも似た、でもそうじゃない、失恋にも似た、でもそうじゃない、だるさとやるせなさとせつなさの混じりあった、何とも言えない喪失感。
手放した指輪への惜しい気持ちなのか、パパへの抗議の気持ちの表れなのか、自分でも分からない。

お金を産むことのできない夫。
こんな生活を8年もしている。
コロナのせいにしてお金を産まない私。
あの仕事をしたほうがいいのか?
でも嫌だとも思う。
他の仕事をすれば……今までもどの仕事もクビになって。普通の仕事からは、かなり空白もあるし。
やはりやらなきゃダメなのか?
こんなにブヨブヨになってしまった身体で戻れるのだろうか?

鳴かず飛ばずの吉原女(よしわらめ)
私は、そんなに売れない中堅の吉原の女だ。
コロナで緊急事態宣言が出た3月から仕事を全くしていない。もう9月も半ば。あそこに戻らないと経済的にも危ういのだが、どうしても戻れない。
あそこが嫌で、嫌々ながら、この8年間仕事をしてきた。
もう限界。
そんな時にコロナでお店がお休みになって、これ幸いにと私は、休み続けるようになった。
コロナ太りで体重が10kgも増えて、こんなたるんだ醜いお腹じゃ、人前にさらけ出せないから、痩せてからにしないと、という調子のいい理由をつけて休み続けている。

9月某日、とある女優さんの自殺が報道された。パパは、かなり動揺している。私もだ。二人して落ち着かない。落ち着かなくて、そして落胆している。
二人で、ぎゅっと抱き合って落ち着かせた。
パパは、一日中元気なく、しかめっ面をしている。

私は、統合失調症。夫は、うつ病。二人揃って精神疾患を患っている。
私は、統合失調症だと自分のことを思っていなかった。だが、年を追うごとに自分がそうであることに気付かされていった。

以前勤めていた高級店で、元看護士の長山さんは、私のことを妙だと、変だと薄々気付いていたようだった。
長山さんは、わたしには、厳しかった。「薬、すっごい量飲んでいるよね。」「水ばっかり飲んでいるよね?ちょっと量多ぎ!」よく言われていた。
そんなことほっといてくれと内心思っていたが、にやにやとして「そうかなぁ?」と流していた。

今は、大衆店に在籍している。
仕事を辞めれば、病気をもらうこともなくなる。水虫、淋病、膀胱炎、カンジダ、毛ジラミ等色々もらった。
この仕事は、膝をつくので、膝の黒ずみもかなり濃かった。だが、このコロナの間に随分と薄くなってきている。
膀胱炎から腎盂腎炎にかかり、入院したこともあった。
辞めれば、それらから解放されるんだ。
でも私に他の仕事が務まるのか?この年になって気付いたのが、私は、普通の人より記憶力が劣っているのだ。同じ事を聞き返すことなど当たり前。
そんな人間に普通の仕事が務まるのだろうか。
この仕事くらい稼げるものが、果たしてあるのだろうか?
そんな想いを何度も反芻してコロナの時期を過ごしている。

嫌な時
お店で待機している中で、一番嫌なのが、いつまで経っても名前が呼ばれないこと。お客がつかなければ、名前は呼ばれないのだ。売れっ子ではないのは、自覚しているが、こうも呼ばれないと人格まで否定されているかのような気持ちになる。
どうしてこんなにも人気がないのだろう。太ったから?口が立つほうではないから?もっと痩せなくては?と堂々巡りをする。
今も籍を置く吉原。戻る気は、ないのに気付くと吉原のほうが稼げる……とかつい思ってしまう。どうしたものかと考える今日この頃なのだ。

#創作大賞2024 #エッセイ部門




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?