無人店舗の隆盛と社会全体へのコストについて考える
目次
はじめに
近年、無人店舗の増加が注目を集めています。効率化と低コスト化を求める企業にとって、無人店舗は人件費を大幅に抑えられるという大きな魅力があり、特に人手不足が深刻な小売業界にとってはありがたい選択肢となっています。しかし、無人店舗が増えることで新たに生じる課題があるのも事実です。その一つが「社会全体としての防犯コスト」の増加です。
無人店舗がもたらす「効率化」と「外部化されたコスト」
無人店舗の特徴は、防犯カメラやAI監視システムが監視し、商品持ち出しなどの不審行動があればデジタル証拠をもとに即座に警察に通報するという仕組みです。万引きが発生した場合は証拠が揃っているため、警察も対応しやすく、効率的に防犯が成り立っているように見えます。
一方で、有人店舗であれば、万引き防止のためのスタッフや万引きGメンを配置し、万引き犯をその場で捕まえるなど自前の対策が講じられていました。有人店舗では、店員や防犯スタッフが顧客を「見ている」ことで抑止力が働き、事件対応も自社である程度完結させる構造があったのです。
しかし、無人店舗の場合、抑止力はすべてデジタル技術に依存し、万引きが起きた後の処理は警察に委ねられています。このため、無人店舗が増えることで、社会全体としての防犯コストの一部が「警察リソース」という形で外部化されていると言えます。結果的に、店舗の効率化の裏で警察の業務負担が増加し、社会全体でのコストが変化しているのです。
「合成の誤謬」としての無人店舗の増加
一店舗の効率化が「合成の誤謬」として、社会全体のコスト増加につながってしまうかもしれない点も興味深いところです。無人店舗を採用する企業が増えれば増えるほど、警察の負担が増え、最終的には警察のリソースが逼迫し、社会全体として望ましくない状況を生む可能性もあります。このような背景を考えると、無人店舗の急速な普及が、短期的な効率化とコスト削減だけを追求していくのは必ずしも最適とは言えないかもしれません。
無人店舗が社会全体にとって良い存在であるために
無人店舗の普及には、ただ単に「効率を重視する」だけでなく、社会全体の防犯コストや抑止力とのバランスも視野に入れた対策が必要です。たとえば、地域の警察や行政と連携して、店舗のセキュリティを強化し、過剰な負担を社会に押し付けない仕組みづくりも重要です。無人店舗が効率的でありながらも、社会全体に望ましい影響を与えるためには、これからもさまざまな視点からの検討が求められるでしょう。
結びに
無人店舗が便利であることは間違いありませんが、私たち一人ひとりが「社会全体としてどうあるべきか」を考え、防犯対策を効率的に分担する意識が必要だと感じています。無人店舗が企業にとっても、地域社会にとっても「効率的かつ望ましい」形で根付くためには、これからも関係機関や社会全体での協力と調整が必要だと言えるでしょう。