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『5000日後の世界』誕生秘話
「ビジョナリー(予見者)」と称されるケヴィン・ケリー氏の最新刊、PHP新書『5000日後の世界』が絶賛発売中です。その発刊経緯を、担当編集者に語ってもらいました。
世界的に著名な雑誌『WIRED』の創刊編集長であるケヴィン・ケリーさんは、しばしばテック界の「ビジョナリー」(=予見者、先見の明のある人)と称されます。本書に推薦を寄せてくださった落合陽一さんをはじめ、多くの方がケヴィンさんのファンを公言されています。インターネット黎明期からシリコンバレーのスタートアップを数多く取材し、スティーブ・ジョブズやビルゲイツにもインタビューしてきた伝説の編集者です。
そう聞くと、刃物のように鋭い人物を想像しがちですが、ケヴィンさんの素顔はとても気さくなナチュラリスト。若いころは世界をバックパックで周ったのちに自転車でアメリカを放浪。ヒッピー・スピリットがテクノロジーと出合い、生まれたのが、初期のインターネットカルチャーであり、ケヴィンさんだったのです。
彼の自宅は、サンフランシスコの自然豊かなエリアにあります。緑あふれる庭に佇む家のチャイムを鳴らすと、自宅では日本人のように靴を脱ぐ主義だというケヴィンさんが、裸足(!)でわれわれを出迎えてくれました。ケヴィンさん所蔵の何千冊もの本に囲まれ、数日にわたり彼と対話した記録が、本書です。
本書で、著者は「ミラーワールド」の到来を予言します。ミラーワールドとは、AR(拡張現実)の世界であり、スマートグラスをかけると現実の風景の上に「もう一つの仮想世界」が重なって見える、というもの。ミラーワールドではすべてがAIとつながり、世界中に住む100万人の人とリアルタイムで協働することも可能になります。SNSに続く新たな「巨大プラットフォーム」の到来です。最近Facebookが社名を「メタ」に変更し、「メタバース」の開発に1万人を雇用すると発表して大きな話題を呼びました。ケヴィンさんの言う「ミラーワールド」はこのメタバースと同じものであると考えていただいて良いでしょう。
「ミラーワールドでは、何万もの新たな勝者が生まれるだろう」と、著者は言います。リアルタイム自動翻訳機が発達し、世界のどこにいても誰とでも仕事ができる世界では、会社とは異なる形態の組織が生まれ、政府の役割も変化します。
さらに本書では、クリーンミート(人工培養肉)などのバイオテックやGAFA後の世界など、5000日後(約13年後)の世界を鮮やかに予測していきます。本書の後半では、数々の予測の根底にあるケヴィンさんの思考法「テクノロジーに耳を傾ければ未来がわかる」についても、詳説しています。
最後に、本書はPHP新書の「世界の知性」シリーズの一冊です。本シリーズは海外識者へのロング・インタビューを編集した「新しい翻訳書」として、累計50万部超発行され、好評をいただいています。ぜひ、シリーズの既刊書とともにお読みいただければ嬉しいです。
PHP研究所総合政策研究部 大岩 央
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