未来を担う若手研究者たちへの4つのQ
フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学がホストになり、大阪大学 大学院工学研究科・フォトニクスセンター、産業技術総合研究所 生命工学領域フォトバイオオープンイノベーションラボ(PhotoBIO-OIL)、シスメックス株式会社が中心となって立案しました。拠点ビジョン・研究内容をさらに魅力あるものとし、今後10年における研究開発や社会貢献を実りあるものとすべく準備をすすめています。
今回の記事は、ビジョンデザインワークショップにも参加した若手研究者たちに、さまざまなクエスチョンを投げかけました。
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ビジョンデザインワークショップ1日目のレポートはこちら
ビジョンデザインワークショップ2日目のレポートはこちら
ビジョンデザインワークショップ3日目のレポートはこちら
■今回、集まった若手研究者について
今回は4名の若手研究者に集まってもらい、日々の研究やビジョンワークショップに参加した時の感想、そして科学の未来について、さまざまなお話を伺いました。ファシリーテーターは、藤田研究グループのメンバー・熊本康昭さんです。
鳥羽 由希子さん (とば ゆきこ/写真左)
薬学研究科・特任助教
木村 輔さん(きむら たすく/写真左から二番目)
産研AIセンター・特任助教
天満 健太さん(てんま けんた/写真正面)
工学研究科・博士後期課程
Li Mengluさん(リー・メンルー/写真右から二番目)
工学研究科/産総研・特任研究員
熊本康昭さん(くまもと やすあき/写真右)
大阪大学大学院工学研究科
応用物理学・藤田研究グループ
■Q1:あなたが日々取り組んでいることを教えてください。
鳥羽 由希子
私はヒトiPS細胞などの幹細胞を使って、肝臓の細胞の作製を試みています。特に、新薬開発の効率化などを後押しする技術の開発に重点を置いていますね。
多くの薬は肝臓において代謝されます。したがって新薬開発過程では、候補化合物が肝臓でどのように代謝され効果を発揮するか、毒性を発現する可能性はないか、などを精査する必要があります。だからこそ、ヒトiPS細胞などの幹細胞から大量に高機能かつ均質な肝細胞を作製することができれば、新薬開発過程における肝細胞を用いた重要な試験を手軽に実施することが可能です。安全・安心な医薬品の効率的な開発に資する技術の実現を目指しています。
木村 輔
今は研究室で、情報工学の分野である時系列解析・予測について研究しています。それらと並行して、大阪大学内の様々な研究領域へのAI導入を推進する産業科学AIセンターに所属しています。
去年(2020年)は、主に新型コロナウイルスの感染過程のモデル化に基づく感染者数予測や、工場間の重要なパターン抽出に基づくリアルタイム故障予測の研究に従事していました。また大変ありがたいことに、先端エレクトロニクス領域、ナノテクノロジー領域、ナノフォトニクス領域等の研究へのAI導入に関わらせていただきました。
天満 健太
僕は新しい光学顕微鏡の開発を行っています。光学顕微鏡では見たいもの(試料)に光を当て、相互作用によって試料から出てくる光を検出することで像を得ます。私の研究ではこの当てる光や、出てくる光の検出方法を工夫することで従来の顕微鏡では観察の難しい細かい構造を観察することが可能です。
また、研究以外の活動にも取り組んでおり、国際光工学会(SPIE)の学生団体に所属しています。最近はコロナもあって難しいのですが、同世代の学生研究者間でネットワークを形成するために学生学会を開催したり、近隣の小学生を対象としたアウトリーチ活動を行っています。
リー・メンルー
I am working on visualizing cellular activity by using label-free Raman microscope, including cancer drug response, hepatocyte function and differentiatioin. Now I belong to Department of Applied Physics, but I obtained my PhD in Department of Biotechnology. This experience makes me understand the importance of interdiscplinary collaborations.
(私はラマン顕微鏡という無標識分子イメージング技術を応用し、ガン治療薬に対する細胞応答や肝細胞の機能や分化を研究しています。現在の私の所属は応用物理学ですが、博士号はバイオテクノロジー分野で取得しました。この経験から私は、学際領域の共同研究のの重要性を理解しています。)
■Q2:ビジョンワークショップは、どうでしたか?
鳥羽 由希子
今回、ビジョンワークショップにお声掛けいただいた際、1セッション3時間でそれを3日間、日本社会の未来について話し合うのは大変そうだと感じました。20年後にどのような社会であって欲しいかを事前に考えて行こうとしていましたが、全然思い付かず…。
ただ実際に参加してみると、私たちのアイデアを引き出す工夫がたくさん施されていると感じました。「どんな未来ならワクワクするか?」という問いかけは、40代になった私を想像して理想を書き出す作業だったので、アイデア出しのハードルを一気に下げてくれました。
チームやワークを行う空気感のおかげで、2回目以降のワークショップでは気軽に発案・発言することができました。同じチームの先生方からの意見も面白いことばかりで、私よりも思考回路が柔軟だと感じました。
3回目に出てきたビジョン案を見て、誰しも何年後も幸せに生きていたいと考えるのは当たり前で、多くの場合、その幸せは健康であることが土台になっているのだと感じました。ライフサイエンスに関わる研究者として、より一層、多くの人の健康維持に貢献できる研究を続けたいなと思いました!
木村 輔
産業科学AIセンターのスタッフがリレー参加する形で、私は2回目のみ参加させていただきました。バックキャスト思考(理想な未来の姿から逆算し、今、取り組むべき施策を考える発想法)と「人」中心思考の難しさを体感し、特に、「人(ペルソナ)に寄り添った課題発見」と「実現したい高い理想のアイディア」に加えて、「その実現可能性を構築する」に落とし込む時に、経験や知識も含めて何というかバランス感覚のようなものを習得するには、日頃から訓練が必要になると感じました。
また、この技能の習得は若手研究者として今後のファンド(研究を支える基金)の獲得の助けになると思いました。なぜなら、難易度の高いファンドに採択される研究課題の多くは、まさしく「研究のターゲットに寄り添った課題の明確化」と「達成できるか分からない高い抜本的な目標」と合わせ持ちつつも、確かな研究計画や事前準備によって「実現可能性」が裏打ちされているからです。今後、アイディア出しをする際には、ワークショップの経験を反芻し、トリプルダイヤモンド・モデルを含めた各技能の習熟度を上げていきたいと思います。
天満 健太
僕は参加して、新鮮な経験であり、勉強になりました。なぜなら、参加されている方々は年齢も分野も様々で、物事の見方や捉え方が普段交流のある人達とは異なっていたからです。
また、バックキャスト思考によるビジョン策定も、研究活動とは一風変わって楽しかったです。最初は難しさもありましたが、積極的に意見交換を行って、考えをまとめていけば方向性のあるビジョンができることは驚きでした。バックキャストで考えるときは、何よりもワクワクすることが大事だということも理解できて良かったです。
今回の機会から研究や人生の大先輩の意見から学びを得つつ、自分の考えを共有して形にしていく過程は良い経験となりました。
リー・メンルー
This is my first time to join vision workshop. In this way, more ideas were gradually created. Tiny ideas were finally grouped to a common or a central idea. Therefore, we could know what most people care and then develop project which can solve these problems.
(このようなビジョンワークショップに参加するのは初めてでした。ワークショップでは様々なアイデアが少しずつ生まれていき、その小さなアイデアがたくさん集まり、やがてメンバー共通の考え、あるいは1つの大きな考えにまとまっていきました。この過程を通して、多くの人が気にかけているテーマがわかり、それらに取り組むプロジェクトがつくられるのだと思います。)
■Q3:産学連携や企業と共創することへの期待や可能性について教えてください。
鳥羽 由希子
私の研究の最終ゴールは、安全で安心な医薬品を作り出す過程に貢献することです。研究の成果を使うのは企業ですので、企業での現状や要望を積極的に取り入れて研究を展開したいと考えています。大学に蓄積された知識や技術と、企業に蓄積された知識や技術が融合する環境が整えば、研究の幅は格段に拡がるはずです。
また、産学連携のような決まった機会だけでなく、色んな人たちと気軽にお話しできる場も欲しいですね。私の知識は自分の研究分野という偏ったわずかなものですから、長年研究に携わってきた企業・大学の先生方と「こんなこと思い付いたんだけど、どう思いますか?」と話せたら、楽しそうだと思います。多くの先生方に話しかける頻度が増えれば、コラボレーションのハードルは自ずと下がると思いますので。
木村 輔
僕は「研究成果の社会導入」と「社会問題の解決」、この二点のスピード向上に期待しています。情報工学においては兎にも角にも、まずはデータの収集が重要です。最悪の場合(データがない場合)、研究のデザインを決めることすら難しいといえます。
また、どれだけ良い研究ができたとしても、研究室単体では、その成果を社会導入すること、つまり社会貢献が難しい場合があります。これら二点について、社会の最前線で製品・サービスを提供し、その結果さまざまなデータの蓄積や、製品・サービスの技術向上を進める企業様と協力できることは大変ありがたいです。
天満 健太
大学での研究活動がより多くの人の手に届く形で、具現化できるようになると嬉しいです。現状、大学の研究に関係の薄い友人、知人は自分が行っている研究活動にどのような意味があるのか知らないのがほとんど。逆に研究している側としても、製品にして多くの人に届けようという考えはまだ薄いように感じています。
産学連携や共創活動では、このような大学での研究と世間とのギャップを埋めることができるのではないかと。このギャップが埋まれば、より多くの人が研究者という職業を身近に感じ、志すことも増えるのではないかと思います。
リー・メンルー
The aim of our research base is to measure and quantify biological information using advanced photonics techniques. Interdisciplinary collaboration bewteen academia and company could be sparked. Actually, the vision workshop gathered people from universities, research insititutes, and companies to figure out visions and methods. It can be considered as a start of collaboration. After the ideas were actually realized by our research base, more collaborators could be attrated.
(私たちの研究拠点では、アカデミアと産業界の学際領域の共同研究も促進されると思います。実際に今回のワークショップでは、大学、研究所、企業の人々が集まり、ビジョンを考え、それに向けたアプローチを発見し、コラボレーションの足がかりを掴んだとも言えます。今度実際に私たちの研究拠点において成果が生まれていけば、さらに多くのコラボレーターが集うかもしれません。)
■Q4:日本の科学に期待することや、打ち出していくべきことは何だと思いますか?
鳥羽 由希子
国際化や産学連携の推進により、日本の科学はさらに発展していくだろうとワクワクしています。これまで「研究室」といった小さな単位で遂行していた課題を、国内外問わず連携して取り組むことにより、研究の加速化だけでなく、大きな課題へも挑戦できるようになると考えるからです。
また、博士課程への進学を後押しするような策は、とても良いことだと思っています。日本学術振興会の評価方法の見直しや支援制度の拡充など、若い人材を育成する機会が増えたと感じています。私たちの研究成果の大部分は、学生の協力により実現できました。学生たちへの支援の機会を増やすことは、日本の科学の進歩に必ず繋がると思っています。
木村 輔
日本が抱えている高齢化・少子化や自然災害の社会問題をむしろチャンスと捉え、これらの問題解決を行い、世界を牽引する科学技術の発展に期待しています。先ほども話しましたが、情報工学の観点から言うと、一にも二にもデータ収集が重要です。今、日本が抱える社会問題は、遅かれ早かれ多くの国が直面する課題であると予測できます。
一方で、これらに関するデータは、その問題が表面化するまで、集めたくても集められないデータであるといえます。例えば、人口における高齢者の割合が大きくならない限り、高齢化社会に関するデータは多く生成されないからです。この点において、今現在このような社会問題に取り組んでいる日本は、これらのデータの収集や解析において世界最速で研究を進めることができます。なので、この点を強みとして、世界を牽引する科学技術の発展に期待しています。
天満 健太
個人的な意見ですが、研究や論文の質に関しては諸外国に劣っているようなことはないと思います。ですが、労働環境や待遇等を見直していかないと、今後、研究者の数は減っていくのではないかなと思います。そのことは日本の研究レベルを下げていくことにも繋がりかねません。
まず、そのような研究の地盤となる部分について改革を打ち出していくべきかなと思います。また世界から見て、「日本のこの研究室で学びたい、この分野を勉強したい。」というような研究拠点が増えればいいと思います。
リー・メンルー
Japan is advanced in photonics and life sciences. The combination of these two powerful swords is not so sufficient. Our research base will serve as a bridge to develop the most advanced photonics technology and introduce that technology to life sciences. In this way, we will be able to develop both fields. New research fields and applications will be created.
(日本はフォトニクスとライフサイエンスの分野において先進的だと思いますが、この2つ分野の連携はまだ十分ではありません。そんな中でこの拠点は、最先端のフォトニクス技術をライフサイエンス分野へとつなぐ橋渡し役になり、さらに両分野を発展させることになると思います。新しい研究分野や応用も生まれると期待しています。)
■若手座談会を終えて
フォトニクス生命工学研究開発拠点のビジョンワークショップに参加した若手研究者たち。1人ひとりが日々の研究と向き合う中、バックキャスト(目標となる未来から、今何をすべきかを考える発想法)で取り組むワークショップにとても刺激を受けたそうです。若手研究者をはじめ、さまざまな専門家や企業が拠点ビジョンともう一度向き合い、ブラッシュしてきました。2021年11月末より新たなビジョン「ひとりひとりが健やかに輝く、いのちに優しいフォトニクス社会」を掲げ、活動していきます。このビジョンを達成するために必要なターゲットや研究開発課題も設定しているので、ご興味ある方はこちらをご覧いただき、ぜひこれからもフォトニクス生命工学研究開発拠点を応援してくださいませ。