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「フォトニクスとAIを連携」~大阪大学産業科学研究所 産業科学AIセンター長、櫻井保志さん

 人工知能(AI)技術は、現在と未来のテクノロジーを語る際になくてはならない要素です。フォトニクス生命工学研究開発拠点にはAIの専門家集団もメンバーに加わり、「未来のあるべき社会像」に向かって共に研究開発を進めています。今回は、大阪大学産業科学研究所産業科学AIセンターの櫻井保志センター長を訪ねました。迎え入れてくれた「会議室」は、なんと10畳の和室。リラックスして議論できるようにと特別にあつらえたそうです。畳の香りに包まれながら、最先端の技術について聞きました。(フリーライター:根本毅)

 フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学と連携しながら、大阪大学 大学院工学研究科・フォトニクスセンター、産業技術総合研究所生命工学領域フォトバイオオープンイノベーションラボ、シスメックス株式会社などの企業と一緒に研究を行っています。

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──拠点には大阪大学産業科学研究所(産研)の産業科学AIセンターが参加しています。産研と産業科学AIセンターはそれぞれどんな組織なのでしょう。
 産研は80年以上の歴史があります。理化学研究所のような世界に誇れる研究所を関西にも作ろうと、関西の企業の方々の期待と支援を受けて設置されました。世界的な研究成果をどんどん世に出し、分野もデバイス、情報、材料、量子ビーム、分子、生体、ナノテク、そして我々のAIと幅広く網羅しています。
 産業科学AIセンターは、2年半前の2019年に産研の中に設立されました。ビッグデータやAIの時代を迎え、科学研究もAIを駆使した取り組みが必要になったためです。今では産研の中だけでなく、大阪大学のさまざまな部局と連携し、AI導入や科学研究DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。また、産研は産学連携が活発な組織ですが、AIセンターも非常に多くの産学連携、共同研究をしています。
 AI教育にも取り組んでいます。AIを使えばどういうことができるか直感的に理解してもらえるような、1日間の講座です。講座の後にはコンサルティングをしていて、AIを使ったデータ解析だけでなく実践を通じたテクニシャンの育成なども行っています。

──最近特にDXという言葉をよく聞きます。世の中にだいぶ浸透してますね。
 そうですね。科学研究では、実験をする時にどういう条件やパラメーターなら良い特性の材料ができるかを類推するソフトウエアだったり、デバイスの故障を予知する技術だったり、といった技術開発が考えられます。私たちは、研究段階のAIと、その実用化の段階のAIの両方に取り組んでいます。

──櫻井教授の研究室で取り組んでいる研究について、もう少しお聞かせください。実験の適切なパラメーターを教えてくれたり、装置の故障を予測してくれたりするのは、深層学習(ディープラーニング)ですか?
 科学研究DXのための実験パラメーター推定については深層学習をベースに開発中ですが、故障予測は異なる技術を使っています。実用に合わせてさまざまな技術を使い課題を解決しようと考えています。

──故障の予測について教えてください。
 私たちの独自技術で、リアルタイムAI技術と呼んでいます。深層学習はたくさんのデータを使い、長い時間をかけて、ハイスペックなコンピューターでモデル学習させるものです。一方、リアルタイムAI技術は、一つのデータがあったら一つのモデルを瞬時に作り、瞬時に予測します。時系列の解析を最も得意としています。
 例えば、両手両足にセンサーを付けて、歩いたりストレッチをしたりする例で説明しましょう。歩いている時は、AIはそれぞれのセンサーの動きのモデルを作り、それを使って次の位置を予測します。ストレッチが始まったら、モデルを切り替えて予測します。新しい動きがあったらデータを得ながら学習し、新しいモデルを作って予測します。
 これを発展させると、故障の予測や、円とドルの為替レートの6週間先の予測ができます。使うほど新しいパターンを見つけて新しいモデルを作り、どんどん賢くなって予測性能が良くなります。こうした技術開発を企業と連携して取り組んでいます。

──深層学習はたくさんのデータを与えて教えてやらないといけませんが、リアルタイムAI技術はデータが少なくていいんですね。さらに、時系列に強いという利点がある。
 そうです。さらに、必要なメモリー量が少なくて済むというメリットもあります。ですから、大型の高性能なコンピューターではなく、スマートフォンや小型デバイスでAIの学習ができます。一般に、AIを機器に組み込む場合、機器に個体差があったり、使う人によって使用環境が違ったりすることがあり、どういうモデルを標準装備したらいいか分からなくなるケースがあります。しかし、リアルタイムAI技術はモデルを固定させずに変化させていくので、個体差や使用環境、経年劣化などに対応していきます。小型デバイスが自分で勝手に賢くなる、世界で初めての技術です。

──設備の故障を予測するという時は、AIにどんなデータを与えるんですか?
 機器を動かしているデータや、稼働している時の振動や電流などです。例えば、正常の時の振動と違う、ということを自動で見つけて故障を予測します。

──ほかにはどのような使い道が想定されますか?
 医療でしたら、てんかんの発生を予測するとか、ヘルスケアのデバイスとスマホを使って個人の健康状態を予測するとか、そういうことが可能になるのではないかと思います。我々のリアルタイムAI技術は共通のモデルではなく、個別のモデルを作って予測します。個別化、高速、ローコストがキーワードになります。

──すると、フォトニクス生命工学研究開発拠点との親和性は高そうですね。
 フォトニクスの技術で細胞の変化を捉え、AIを使って疾患の発見や創薬などができるようになるかもしれません。拠点は医学分野と連携しているので、フォトニクスを使った計測技術と我々のAI技術を組み合わせれば、社会に貢献できる新しい価値が生み出せると思っています。

──設備の故障を予測する技術を人間に応用すれば、さまざまなセンサーの情報から体調悪化や発病を予測できるのでは?
 そうですね。産業科学AIセンターは製造業との関わりが深く、生産の品質向上や生産性の向上、設備のメンテナンスの最適化をしています。これを医療応用に置き換えると、個人差を意識した体調管理や、新しい計測データを基にした病気の予兆の発見などが考えられます。実用化は非常に難しいとは思いますが、いろいろな要素技術はできています。それほど遠くない将来に実現するのではないでしょうか。

──拠点への期待をお聞かせください。
 医学と工学とAIが一体となって取り組むことができる素晴らしい拠点です。二つの分野が連携することはよくありますが、この拠点はフォトニクスを中心に工学と医学とAI、そして大学と企業が一緒になって議論します。それも、それぞれの技術からだけではなく、未来のあるべき姿を見つめています。シーズとニーズ、現状と未来の両方を見るような取り組みができると思いますので大変楽しみです。

──これから、どのような取り組みをするのですか?
 今、フォトニクス分野のデータを見せていただき、より良い解析方法について検討しているところです。さまざまなフォトニクスの技術がありますので、おのおのについて議論しながら、AIのソフトウエアの開発やデータ解析をしていきます。フォトニクスとAIの連携によって新技術を作ってから、それを医療に展開する流れの方が良いかもしれません。いずれにしろ、楽しみです。

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