「社会実装を見据えて」~大阪大学医学部附属病院未来医療センター、福田恵子特任講師
フォトニクス(光工学)や医療分野の専門家と企業などが連携し、社会を支える技術を開発する「フォトニクス生命工学研究開発拠点」は、大学の研究成果を実用化することがゴールの一つです。大阪大学医学部附属病院未来医療センターの福田恵子(ふくた・けいこ)特任講師は、以前、厚生労働省医政局経済課に勤務し、新規の医療機器の保険適用に関して企業からの相談に対応していました。この経験を拠点でどのように生かすのか、お話をうかがいました。(聞き手・フリーライター根本毅)
──簡単に自己紹介をお願いします。
臨床工学技士として、国内外で働いてきました。昨年4月、大阪大学医学部附属病院未来医療センターの特任講師を拝命しました。昨年末からフォトニクス生命工学研究開発拠点にも参加させていただき、育成型から本格型に移行した今年4月に課題リーダーに就任しました。
未来医療センターでお世話になるきっかけの一つが、厚生労働省での勤務経験です。医療機器の開発者や製造販売業者等の窓口になる医政局経済課に、約2年半所属しました。医療機器が新しく製品化されても、保険適用になっていないと病院で使う場合に混合診療となってしまいます。そのため保険適用を目指すことになるのですが、それまでにたどるプロセス、つまり設計開発、臨床試験、薬事承認、保険適用希望書の提出などさまざまな段階において経済課が保険適用を見据えた相談を受けます。
今回、拠点に関わることになったのも、未来医療センター長が私の経歴を考慮して推薦してくださったおかげです。
──薬の保険適用のニュースはよく見かけますが、医療機器も広く使われるためには保険適用が必要なんですね。
そうです。ただ、医薬品と医療機器では少し違いがあります。例えば、医薬品は薬事承認されると、一定期間が過ぎた後にほぼ自動的に保険適用されます。一方、医療機器は多くの場合、保険適用希望書を提出しなければ保険適用されません。美容用の医療機器など、保険適用をせずに市場に出すこともできるんです。
保険適用されると医療機関等で使ってもらえますが、マーケットが限られます。一方で、アップルウオッチのような家庭用医療機器なら、自由に一般の方が買えて、マーケットの幅が広くなります。どちらを目指すのが戦略的によいのか、開発品によって異なります。
──企業はどのような相談をするのですか?
医療機器の保険適用区分にはいくつかの種類があり、どの方向を目指すのか相談しながら手続きを進めないとうまくいきません。例えば、新しい機能を持つ機器ならば、今までにない機器で既存品より有用性が高いと証拠を示す必要があります。それをもとに、技術料(診療報酬点数)や償還価格を希望することができます。
経済課は今、「できるだけ早く相談してください」という考え方です。なぜかというと、保険は薬事等の評価をもとに評価されるため、開発がほぼ終わってから相談されると、出口がほぼ決まってしまうからです。早い段階であれば、「こういう考え方や、ああいう考え方もある。この考え方ならば、こういう治験が必要ですよね」とアドバイスできます。私たち未来医療センターも、アカデミアの先生に「経済課に相談に一緒に行きましょう」と言っています。企業に導出する前であっても、出口をイメージしながら研究開発をした方がスムーズに進みます。しかも、経済課への相談は無料ですので、何度もステージが変わるごとに相談し、出口を見据えた開発がよいです。
──研究課題の課題リーダーを務めていますね。その研究課題について教えてください。
育成型の時は研究課題が四つで、それぞれの課題リーダーは大阪大学大学院工学研究科や産業技術総合研究所の先生方でした。今年4月に本格型に移行するタイミングで、研究課題も課題5「生体情報解析による生体分析・診断法の開発」と課題6「研究成果の実用化・活用/普及の把握、人材育成」が加わりました。課題5の課題リーダは医学系研究科の先生、課題6は医学部附属病院未来医療センターに所属する私となりました。この二つの課題が加わることによって、社会実装を見据えて開発をしていく姿勢が明確になったと思います。
未来医療センターには、アカデミア等の優れた基礎研究の成果を臨床研究・実用化へ効率的に橋渡しする研究を長く行ってきた知識と経験があります。これらをフル活用して、課題6に取り組みます。
──具体的にどのような取り組みを始めていますか?
拠点メンバーの持つシーズの把握に努めています。まず、各課題リーダーに特許取得の状況やベンチャー設立の意向、今後のスケジュールなどを共有していただきました。現在、ヒアリングを実施している最中です。この面談を元に、短期、中期、長期をどのように進めていくかご一緒に検討していきます。
これまでヒアリングした感じですと、この2、3年でベンチャーを立ち上げて出口に進んでいきたい、というものもあれば、5年以上かかりそうなものもあります。その色分けをし、時期によって何を優先するかを見極めながら、支援をしていく形になると思います。
──現時点で、どれくらいのシーズがありますか?
今だと10弱はある感じです。これから出てくるものもあってもいいかと思います。若い開発者等にどんどん入っていただき、ディスカッションをすることにより、アイデアは膨らんでいくと思いますので。
──これまでヒアリングをしていて、どんなことを感じましたか?
先生方、みなさんすごく熱心です。「確かな仮説をもとに熱い思いでこの研究が進んでいるんだな」と感銘をうけました。
また、研究の話をうかがった後、医師らも加わってディスカッションをしていると「こんな疾患や診療科で展開ができるのでは」とさらに現実的な話に展開するためわくわくしますね。フォトニクスを使った医療やヘルスケアとは、痛みもなく非侵襲的な技術となり、今後、確実に必要な技術となります。超音波診断装置やCT装置が登場した時もそうだったと思いますが、本開発により医療現場においてゲームチェンジャーになることを期待しています。
──そのほかに、拠点の活動で印象に残っていることはありますか?
一般的なことですが、先生方にメールを送るとすぐに返信が返ってきます。そういうことって、仕事を一緒にする場合は結構重要ですね。レスポンスが遅いと、「何か問題があるのかな」「大丈夫かなあ」といろいろ考えてしまいますが、サッと返信があれば「互いに理解し合えているかな」「よし次進んでいくぞ」という感じになりますから。
実は、大阪大学に来る前は、大学は学部が異なると交流が難しいと聞いていました。しかし、大阪大学は医学部、歯学部、薬学部、工学部が同じキャンパスにあって、結構フランクに交流できます。もっとガチガチの縦割りかと思っていましたが、そうではなくて、風通しがいいし交流しやすくていいなあと思っています。
さらに拠点では、企業や地域団体、自治体などいろいろな方と一緒に活動するので、刺激を受けます。
未来医療センターが入っている建物の8階に、新しい診断・検査技術を開発する場、および拠点のメンバーや病院の医師等がフランクに交流する場を設置しました。ここでは気軽にみんなが立ち寄り情報交換等できればいいなと思っています。
──拠点では、地域連携も担当していますね。
はい。大阪府や大阪府箕面市との連携も強化していかなくてはなりません。今後、開発品のプロトタイプができた場合に、市民の方に触ってもらって、それが本当に使いやすいものなのか、必要なものなのか等の意見を伺おうと考えています。拠点が目指す「実現したい社会像」(拠点ビジョン)は、「ひとりひとりが健やかに輝く、いのちに優しいフォトニクス社会」です。私たちが開発する機器には、市民の意見を取り入れる必要があります。
──医療機器の開発に市民の意見を取り入れようというのは、先進的な取り組みなのでは?
そうだと思います。ヘルスケアでは地域で使ってもらって意見を聞くというのはあると思いますが、医療では新しい取り組みになるのかなと思っています。
──今後のお考えをお聞かせください。
まず2、3年でベンチャーを立ち上げたり、一定のものにしたいという開発者を応援する。そこで一度結果が出ると思いますので、みんなで達成感を味わいつつ今後についてさらに検討していく。10年間続ける活動ですので、期間を定めてフィードバックしながら着実に進めていくことが今後の活動の仕方なのかなと考えています。
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