未来社会の理想の大学とは? 大学の教職員や高校生たちが考えた
「メタ大学をつくろう」「出る杭を育てる大学に」――。大学の教職員や学生、自治体職員、高校生など約30人が集まり、未来社会の理想の大学について考えるワークショップ「ユニバーシティー・デザイン・ワークショップ」が3月11日、フォトニクス生命工学研究開発拠点(フォトニクス拠点)の活動の一環として大阪大学で行われました。「拠点を持続的に運営するには大学が変わらなくては」という考えをベースに、参加者たちがわいわいガヤガヤとアイデアを出し合いながら大学の本質に迫りました。一般人として参加した私が、当日の様子をレポートします。(フリーライター、根本毅)
教職員、学生、会社員、高校生……
フォトニクス拠点は1年半前にも計3日間のワークショップを開催し、みんなで「実現したい社会像」を考えました。その成果が、拠点ビジョン「ひとりひとりが健やかに輝く、いのちに優しいフォトニクス社会」です。
今回のワークショップにも多様な人たちが集まりました。大阪大学の教授や職員、大学院生、自治体職員、阪大病院医師、民間企業の社員、研究機関の研究者、コンサルタント、フリーランス、そして高校生。会場に着くと4チームに振り分けられ、あちこちで名刺交換が始まっていました。私は第2チーム。既に顔見知りになっている人も何人かいます。開始時間が来たため、いよいよワークショップの始まりです。
「いろんな意見が出た方がいい」
拠点リーダーの藤田克昌・大阪大学教授のあいさつの後、大阪大学の桑畑進・工学研究科長が登壇しました。会場から笑いが起こる楽しいスピーチでした。
「拠点のワークショップはまさに私が思っているやり方をしていると知り、あいさつをさせてもらうことにしました。日本人はアメリカ人と違って、大学の講義では後ろに座ろうとするし、『自分は普通』と一生懸命に言います。でも、べらべらしゃべって、いろんな意見が出た方がいいんです」
面白いけどあいさつにしては少し長いかな、と思い始めると、「今回は『こんなべらべら最初にしゃべるようなやつはいらん』というディスカッションをしてほしいと思います」と締めて、笑いを誘いました。桑畑研究科長は「議論に参加するとやりにくいだろう」ということで、ワークショップの途中で退室していました。
アイデアの発散、収束、具体化を
さて、次はワークショップの狙いや進め方の説明です。進行役の公益財団法人・大阪産業局の浅岡陽介さんは「前回のワークショップを通じて拠点ビジョンが定まり、実現に向けてメンバーが研究に取り組んでいます。今回は、拠点の活動を支える大学について議論したいと思います」と話し、具体的な進行について説明していきました。
<進め方>
【午前】
ステップ1:アイデアの発散(付箋に書いて貼っていく)
・大学に対する期待=緑色の付箋
・大学が抱える課題=青色の付箋
・「大学ってこうだよね」という常識を疑う=黄色の付箋
・上の3点をふまえて考えた理想の大学像=ピンクの付箋
ステップ2:アイデアの収束
内容が近いアイデアでグループ分けし、理想の大学像をより明確に。
【午後】
ステップ3:理想の大学像を実現するアイデアの具体化
課題や解決策を議論する
各チームで発表
ステップ1では、大学に対する期待や課題を抽出し、常識を疑った上で理想の大学を考えます。その「常識を疑い、常識を着想に変える」例として、
「大学はお金がかかる」→「大学はすべて無料で通える」
「大学は授業がある」→「授業がない大学」
「大学がある」→「大学がない社会」
が挙げられました。
いよいよスタート
というわけで、チームごとに各自が自己紹介した後、アイデア出しのスタートです。アイデア出しのグランドルールは「質より量」「他者のアイデアを批判・否定しない」「他者のアイデアへの乗っかりOK」「思い切ったアイデアも大歓迎」。気軽に考えることにしました。
みんな熱心に付箋に書き込んでいきます。
私もいくつか考えました。一つは「小中高の後に大学に行き、その後に社会人になる」という常識を疑うこと。社会人で大学に通う人ももちろんいますが、まだまだ少数派です。常識となっているこの流れから大学を外して、人生の好きな時期に大学に行けたらいいのにと思いました。一度社会に出た後に大学に入ったならば、勉強に対するモチベーションや、学ぶポイントも違ってくると思います。
同じチームの高校生は、将来はエンターテインメントにかかわる仕事をして、人々を楽しませたいそうです。「一刻も早く就職したいんですけど、ルートを調べると大学に行かざるを得ないと分かったんです。だから私にとって大学は義務なんです」と話し、付箋に「大学を卒業しないと就職できない企業が多くある」「大学の卒業(進学)を学力だけで決めずに人間力も見てほしい」と書いていました。
壁に付箋を貼り付けていく
付箋に書き込んだ後は、壁に貼り付けていきます。
印象的だったのが、チームによってアイデア出しのやり方がさまざまだったこと。テーブルを囲んでメンバーそれぞれがアイデアを話すチームもあれば、各自がものすごい勢いで付箋を壁に貼っていくチームもありました。和気あいあいとした雰囲気の中、あちこちで議論に花が咲いていました。
いろいろな課題や理想が貼られていきます。
「学部があるのは古くさい」
「授業が分かりにくい」
「教授が偉そうにしている」
「今、社会にないものを作ってほしい」
「ブラック企業」
「研究費が減っていて、やりたい研究がやりにくい」
「そもそも入試いる?」
「大学を出ることがステータスになる」
「最先端のようで遅れている」
「みんな責任回避しすぎ」
「大学増えすぎ」
「他学部との交流手段がサークルだけになりがち」
「座学は林さんに任せる」
「サブスク大学」
「サブスク大学」とあるのを見て、「定額で好きな授業を受けられる現状の大学はサブスクなんじゃないかな」と思いつつ、「定額で好きな大学の好きな授業を受けられるってことかな」と考えたりしました。
「他学部との交流手段がサークルだけになりがち」なのは、私も学生時代に感じていました。理学部の私が部活動に参加していなければ、医学部や文学部の友達はできなかったでしょう。狭い世界で学生生活を送ることになっていたはずです。
アイデアをグルーピング
アイデアがたくさん出たところで、次はこれらのグルーピングです。ざっと見た印象ですが、言葉や表現は違ってもいくつかの問題意識に収束されるように思いました。例えば、学部や専門分野ごとに小さな村ができあがっていて、交流を妨げる見えない壁があること。例えば、研究費が少なくて自由に研究ができなくなってきていること。参加者はみな、新しいことをどんどん取り込む、自由で柔軟な大学を求めているように感じました。
昼休みを挟み、これらをもとにチームごとに「理想の大学」について考えました。
私たち第2チームの付箋には「創造」と「人」に関することが多かったため、これらを軸にディスカッションしました。さらにチーム入り乱れて議論した後、各チームの発表です。
チームごとに発表
第1チームの発表は高校生が務めました。一つ目の理想に掲げたのは「大学村の創設」です。「やりたいことがまだ見つかっていない高校生はいっぱいいますが、学部を決めて大学に入らなくてはなりません」と指摘し、分散したキャンパスを1カ所に集めて各学部のつながりが強い「大学村」とするよう提案しました。「村にすると、社会人やリタイアした人、主婦も学び直しや再チャレンジがしやすいと考えました」。課題として「場所の確保や教育者の人材確保」を挙げ、オンラインやVR/ARを活用する解決策を示していました。
もう一つの理想は「学費がいらない大学」。大学運営の資金調達の方法として、出張者向けのホテル経営や大学発スタートアップなどを提案しました。
私たち第2チームも、高校生メンバーによる発表です。全体に共通するテーマとして掲げたキャッチフレーズは「出る杭を育てる」。一つ目の提案として「新しい学問を作ることにチャレンジするため、研究費に『出る杭枠』を作る」よう求めました。
二つ目は「出る杭を育てるには大学教職員の仕事への意欲を上げることも必要なので、世代間の壁や分野の壁を壊す必要があります」と説明し、「自分たちの常識のスタートラインが違うんだということを全員が理解した上で、交流していくことが大事になってきます」と訴えました。解決策の一つとして「学長に立つ人が若くある必要があります。そのためにインスタライブでの総長選挙を提案します」と話すと、会場は大いに盛り上がりました。
第3チームも高校生が発表を担当しました。このチームの提案は「メタ大学」。国立大学の教養課程を一本化し、さらに高校生や社会人、留学生でもオンラインで聴講できるようにするというアイデアを披露しました。教養課程を一本化すると、各大学は先端教育に専念でき、大学の独自性をはっきりと打ち出せます。
第4チームは高校生がいなかったこともあり、大学院生が発表しました。理想の大学像として、才能を持った小中学生が飛び級できるといった「自由な学びができる大学」を掲げました。
最後に、藤田教授の総評です。
「準備の段階では、どれだけアイデアが出るか不安でしたが、ものすごくたくさんの付箋が貼られました。昼休みにまとめのテーマを選んでいると、解決方法として共通する部分があることにも気づきました。オンライン授業という解決策がありましたが、教員に時間を作れるほか、高校生や社会人も受講できるようになります。そのような気付きがありました。また、アイデアを得ること以外に、互いに知り合うこともできて、頭のトレーニングやリフレッシュにもなったと思います」
確かに、有意義な頭の体操になりました。和気あいあいとした雰囲気が良かったのだと思います。
最後に記念撮影をして終了。皆さん、お疲れさまでした。