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つくった表情の奥をつきやぶりたい|フォトクリエイト「教えて!フォトクリエイトの撮影」
東京マラソンをはじめとした日本全国のマラソンからホノルルマラソンなどさまざまなマラソンの撮影で活躍するフォトグラファーの野口朗さん。
フォトクリエイトが多く撮影しているマラソンの撮影の中でも、ゴールで選手を祝福し、走り切った一瞬を撮影する声かけスナップの極意をうかがいました。
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【野口朗(のぐち・あきら)】神奈川県出身。自分を見つめ直す時期にサーフィン中に遭遇した夕焼けに感動しカメラマンを目指し、紆余曲折を経てカメラマンとして活動を開始。我が子の誕生から育児をしている過程で、子どもの撮影やスクール写真撮影に興味を持ちフォトクリエイトに登録。2013年にホノルルマラソンを撮影し、以降フィニッシュ後の声かけスナップの奥深さに魅せられ、現在も活動中。
野口さんのInstagramはこちら
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──
マラソンの撮影ってどんな感じなんですか?
野口さん
まず、フォトクリエイトではオールスポーツコミュニティというサイトで写真を販売しています。
たくさんのランナーの写真を撮影しているのですが、
大きく分けると2つありまして。
折り返し地点とか35km地点とかでランナーが走っているかっこいい瞬間やフィニッシュの瞬間をタイムがわかるようにランニングスナップを撮影するフォトグラファーと
スタートする前やフィニッシュゲートを越えてから「がんばって!」とか「お疲れさま!ナイスラン!」と声をかけて撮影するフォトグラファーがいます。
大会によっては、フィニッシャーズブースで撮影するフォトグラファーもいますね。
──
フィニッシャーズブースでの撮影といいますと?
野口さん
フィニッシュ後、一息ついた後のランナーにポーズや表情をつくってもらい撮影する。いわゆる記念撮影に近い感じです。
このフィニッシャーズブースの撮影、ランナーの方が表情をつくれるといいのですが、フィニッシュから時間が経ってしまっているので、疲れて気持ちが乗らないケースも多くて……。
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こんな感じでいい表情をできれば最高なのだが、
疲れ切っていい表情を引き出せないことも多い
──
フィニッシャーズブースのイメージがわかりました。オリンピックの表彰式のイメージですよね。逆に声かけスナップはフィニッシャーズブースの撮影とどう違うのですか?
野口さん
フィニッシュゲートを越えた直後のランナーに声をかけ、ゴールほやほやの表情を撮影するのが声かけスナップです。
フィニッシュ直後なので感情があふれる表情だったり、つくっていない素の自分っていうのかな、むき出しの姿の撮影、そこが違います。
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走り切った清々しさが表情に出やすい
──
そこが撮影の楽しさにもつながりますか?
野口さん
フルマラソン完走という、私にはできないすばらしいことを成し遂げた方々を一番最初に祝福できる。
そして、その瞬間を撮影できる。
これが声かけスナップの醍醐味でしょうね。
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──
ランナーを祝福できるってすばらしいことですよね。声をかける時に意識することはあるのですか?
野口さん
撮影する前に、必ずランナーと目を合わせることかな。
ずっとこうレンズを覗き続けながら声をかけるのではなくて、一瞬でも目を合わせる。
いい表情を撮るにはコミュニケーションもすごく大事です。
──
ちなみに、どんな声をかけるのですか?
野口さん
大会によっては、国旗なんかがデザインされたシャツを着て走る外国の方も多いのでその国の挨拶だったり、日本全国で大会は開催されるのでご当地情報を調べて声をかけることもありますね。
地元のプロスポーツチームのユニフォームで走るランナーには、事前にチームの情報を仕入れて声かけをすると「よく知ってるねー!」なんて言われて喜んでもらえたりしますよ。
自分なりの声のかけ方を研究するっていうのが大事だし、私はそれが楽しくてモチベーションにもなります。
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いい表情を引き出す最大の秘訣
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──
ここからは声かけスナップで嬉しかったエピソードをお聞きしたいです!
野口さん
いろいろあるんですけど……何から話そうかな(笑)。
じゃあまずは好きな大会から話しますね。
「名古屋ウィメンズマラソン」というマラソンがありまして、他のマラソンだと男性の割合が高いマラソンが多いので、女性がその陰に隠れてしまい、フィニッシュ後も控えめな表情になってしまったりするんです。
でも、この大会はそうじゃなくて、フィニッシュ後に女性ランナーがはち切れんばかりの笑顔を向けてくれるんですよ。
それがもうほんとにかっこよくて。
毎年この撮影を任せてもらえる限りは頑張ろうって気持ちになります。
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女性ランナーが輝いている瞬間を逃したくない
──
最初からいいお話が聞けました。他にはどんなエピソードが?
野口さん
大会で全国を飛びまわっていると、いろんな大会でお会いする方が出てくるんですよね。
うーん……。
(しばらく悩んで……)
たくさんいろんな方とのエピソードがあるのですが、今回は3人に絞ってお話しますね。
1人目は、その中に自撮りが好きな石井さんという方がいまして……、本当にどこにでもいる方で(笑)。
大会でお会いしたり、言葉を交わしたりするのは一瞬なんですけど、「次はどこ行くの?」なんてランナーの方から話してかけてくれると、周りのランナーも話しかけてくれたりするんです。
そういったランナーとのつながりが増えていくのは、やっぱり嬉しいなぁ。
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フィニッシュ後の石井さんとの2ショットに写る野口さん(右)
──
お2人が写っている写真も素敵です!他の方も教えてください!
野口さん
2人目は、大会でよく顔を合わせていた香港の方がいて、フィニッシュ時に「また来たよ」「ありがとう」なんて会話もいつも2言3言交わしてました。
でも、世の中がコロナ禍になり、多くの大会も中止になってしまいました……。
それでもコロナ禍前、最後にお会いできた京都マラソンでプレゼントとメッセージをいただいたんです。
日本語と英語の素敵な文章で色々と褒めてくださって、本当にありがたかったなぁ。
その後3年経ち、コロナが明けてまた大会で会えたんです!思わずハグしちゃいました(笑)。
──
その名の通り感動の再会ですね!ハグしたくなる気持ちもよくわかります。
野口さん
3人目は、ホノルルマラソンでよくお会いする私より年上のみどりさんという女性がいるんですよね。
ある時「もう年だからこれで最後にしようと思う」なんて言うので、
「そんなこと言うもんじゃないです。また来年お待ちしてますから」って返したんです。
そしたら翌年に「また来たよ」って声をかけてくださって……。
その後も、名古屋やホノルルで何度もお会いしました。すごくチャーミングで素敵な方です。
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他の方とのエピソードが語れず、もどかしそうでした
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──
素敵なエピソードがたくさん聞けました。では、改めて野口さんにとって、声かけスナップとはどのようなものでしょうか?
野口さん
つくった表情の奥をつきやぶりたい。奥にある感情というか、むき出しのものを撮りたいんです。
たとえば、フィニッシュ後には、走り切れて感動のあまり泣き出しそうなランナーがいます。
そういう時は、「よく走った!おめでとう!」と声をかけて、いい意味で泣いていただきます(笑)。
涙腺が崩壊して涙が流れる瞬間なんて素敵な表情ですよ。
なかなかその瞬間なんて大人になって味わえないし、逆にその瞬間に立ち会うこともなかなかありません。
そんな感動をカタチにする醍醐味を味わえるのが声かけスナップだと思います。
──
最後に、この記事を読んでくださった方にメッセージをお願いします。
野口さん
ランナーの方々のアンケートなんかを見ていると、一人ひとりが本当にいろんなものを背負って走っているのが分かります。
そんなランナーのストーリーの最後の瞬間を1枚の写真で表現できるのが好きだし、これからも続けていきたいなって思ってます。
もちろん体力は必要だし、天候に左右されたり大変なことはあります。
でも、あれだけの笑顔に出会えたり、感情が伝わってくる撮影ポジションってないんじゃないかな。
私もこの魅力をどう伝えようか日々悩んではいるのですが、分かってくれる人は必ずいると信じています。
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インタビューを通して、野口さんの撮影に対する熱い想いやユーモア溢れるお人柄が伝わってきました。
私もマラソンに参加して、フィニッシュ後に野口さんにお会いしたら、どんな声をかけてもらえるんだろう。
そして、その時写真を通してむき出しの自分に出会えるのであろう。
インタビューを終え、自然とそんなことを考えてしまいました。
貴重なお話をありがとうございました!
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