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戦前型 Contax II とレンズ群
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第二次大戦前の Zeiss Ikon (Dresden)製の Contax II (1936年) と Carl Zeiss Jena 製のレンズ3本。カメラに装着しているのが Sonnar 1:2 f=5cm (1936年)、あとは長いほうが Sonnar 1:4 f=13.5cm (1938年)、短いほうは Biogon 1:2.8 f=3.5cm (1937年) である。ターレットファインダーだけはソ連製レプリカで28, 35, 50, 85, 135 切替式。
SonnarとBiogonの設計者はともにベルテレ(Ludwig Jakob Bertele, 1900.12.25-1985.11.16)。Tessar や Planar を設計したルドルフ(Paul Rudolph, 1858.11.14-1935.3.8)よりは1.5世代ほど後の設計者である。レンズは同形式のものが色々なメーカーから長く製造されるのに対して、カメラボディはレプリカ品を除けばその製造元限りの存在で普遍性に欠けるためか、設計者の名前はあまり前面に出てこない。Contax II の設計主任はフーベルト・ネルヴィン(Hubert Nerwin, 1906-1983)である。
この時代のレンジファインダー Contax は Leica に対抗して作られているという話は本当だと思う。実機を所有していないので様々な情報の寄せ集めで推測するのだが、 Leica は当時の技術で無理なく製造できる堅実な設計のようである。Contax は角張ったデザインもさることながら、シャッターは縦走り金属鎧戸式フォーカルプレインで最高速1250分の1秒、レンズマウントはバイヨネット(しかも反時計回り装着)、ドレーカイル・ブロックプリズム式の長基線長距離計、というように尖がった技術力を投入した力業の設計である。
戦後型の IIa より戦前型のII の造形が好きで使っている。ファインダーに少し曇りがあるが連動距離計の動作に問題はないし、シャッターも全速正常に作動しており、88年を経ても十分実用に耐える。しかしながら、この年代のカメラはもはや文化財とも言える存在で、所有者には保護者としての責務もあるのではないかと感じる。カメラ本体重量は590gで Nikon FM と同じなのだが、ペンタプリズムが無い分だけ小さく見えるので手に持つとズシリと重く感じる。薄い本革貼りで握ると中の金属の硬さが手に伝わってくる。
以下の作例、一部9月19日の記事と同じコマがあるがご容赦を。
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2024年7月
桜葉を見上げて。まずは標準レンズ。無コーティングで逆光には弱く光が滲む。デジタル一眼に装着する場合はビューファインダーで見ながらコントロール可能だが、フィルムのレンジファインダー機ではそういうわけにもいかない。ある程度出来上がりを想定しながら露出を決める。
Contax II は世界初の一眼距離計で、標準レンズを装着している時はファインダーを覗いて二重像を合致させて焦点を合わせたら、そのままフレーミングしてシャッターを切ることができる。Leicaも1954年のM3から一眼距離計になった。
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2024年7月
雨が降ってきたので東屋の屋根の下から。
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2024年7月
小さな向日葵の群生。
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2024年7月
露出計内蔵ではないのでスマートフォンのアプリで測定する。
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2024年7月
曇天。なぜか焼却場の煙突を繰り返し撮ってしまう。
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2024年7月
当時の広角レンズといえば35mmで、これより短いレンズとしてTessar 28mm F8があるが距離計非連動であった。 戦前型 Biogon はレンズ構成的にはSonnarの応用である。巨大な後玉が干渉するため戦後の Contax IIa には装着できない。
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2024年7月
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2024年7月
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2024年7月
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2024年7月
逆光が透過する葉のような被写体は露出決定がなかなか難しい。もう一段オーバーのほうが良かったと思う。
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2024年7月
単体露出計とスマートフォンアプリで測定し、絞りと露出を決定してから、二重像合致式距離計で焦点を合わせ、フィルムを巻き上げ、別体ファインダーで構図を決めてシャッターボタンを押すという手順。かつて一眼レフと並行して距離計連動カメラも使っていたので、さほど面倒だとは感じないが、現代の基準で考えたら当然速写には向かないだろう。
しかしロバート・キャパはこのカメラで決定的瞬間を撮影しているのだから速写も不可能ではないはずだ。その時の光線状態に合わせて絞りと露出を決めておき、焦点は最も確率の高い距離に合わせておき、フィルムを巻き上げて待機すればよいだろうか。
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2022年4月
デジタルでの例。マウントアダプターは Nikon S 用が流用できる。コントラスト深く諧調は繊細だと思う。シャッターを押せば写る状態にセットしてから動くエスカレータに乗る。このような手順はフィルムでもデジタルでも変わらない。
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2024年7月
当時は望遠と言えば135mmで、連動距離計の精度の限界がこれくらいだと聞く。絞り開放で近距離をテスト撮影してみたが、ちゃんと焦点は合うようだ。
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デジタルにて。描写傾向は好みだがなかなか使いこなせていない。
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標準レンズの Sonnar 5cm F2 。コーティング無しなので反射光が白い。レンズ単体では合焦機構が無いので、デジタルで使うにはヘリコイド付きのアダプターを付ける。ContaxRF → LeicaM → SonyE という形でアダプター2段構えである。α7のボディに付けてあるアダプターには短いヘリコイドが仕込まれていて、最短撮影距離を稼ぐことができる。別の機会にお見せするかも知れないが、カラーで使っても色再現は良好である。
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広角の Biogon 3.5cm F2.8 。後玉が大きく重い。リアキャップは当然専用品となる。色がくすむのでカラーには向いていない。
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望遠の Sonnar 13.5cm F4 。レンズ単体で530gあって重い。製造から86年経過しているがグリースの劣化もなく気持ち良い操作感を保持している。光学性能と共に機械加工の精度を感じさせる。カラーの色再現も問題ない。
古いContaxとレンズの中古市場価格はLeicaより安いと思う。Nikon SシリーズのボディにZeissレンズを付けてみるのも面白そうだ。厳密には距離計連動のレシオが異なり特に望遠レンズでは合焦しないと言われるが、実写実験して実用上問題ないという報告も見受ける。