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※ネタバレあり※ラストマイル雑感

2024年8月23日に封切された映画ラストマイル
凄い作品だった。
ネタバレなしの感想となると、
「凄い!とにかく全人類観て!」
としか言えない。
脚本の野木亜紀子さんが繰り返し視聴に耐えうる作品を届けたいと、どこかのインタビューで仰っていた通りの作品で観るたびにいろんな想いが湧いてくる。
タイトルを感想とせず雑感にしたのはこの何層にも重なった超重圧&濃厚な作品をきれいな言葉でまとめるのは無理だと諦めたからです。

ここからは思いつくままに、それぞれの登場人物に想いを馳せながら映画本編はもちろんこれまで見聞きしたパンフ・公式本・雑誌・ラジオ等からがっつりネタバレありで書いていきます。
注)無駄に長いです。

初見での衝撃

劇伴/音響がすごくないですか!?
連続爆弾事件と知ってはいたもののあまりの爆発シーンの迫力にマジでびびったし、そこに至るまでの不穏な音楽が最高だった。
ベルトコンベアの規則的な作動音もとても効果的に敷かれていたし、この音を体験するためにはやはり劇場で観るべきだなと思った。

野木さんの脚本だし、番宣で満島ひかりさんが悲しい物語と話していたので覚悟はしていたけど想像以上に悲しいというか現実社会の描かれ方がエグくて初見はそこがしんどかった。
何よりも仕事に心身が壊されていく様子があまりにもリアルで、えっ?これ私のこと?って混乱した。(まさに今休職中なの、私)
エレナが五十嵐からデリファスを脅すのか?と詰められたシーンで、それは力の強いものが力の弱いものにすることですと言ったところで、自分が上司から他に人のいないところで詰められたこと思い出してしまって、やっぱりあれは脅されてたんだなって・・そこは辛かったのでそういうシーンに耐性の無い方は要注意だなと思った。
それぐらいあまりにもリアルに描かれていたってことです。

舟渡エレナ

彼女はとにかく自分の責務を果たそうと必死だった。痛々しいぐらいに。
これも1回目では分からなかったけど、最初からずっと何かに怯えているようにも見える。これでもかとアクセサリーを身に着け、赴任初日に真っ赤なコートに身を包む。すごく分かる、分かり過ぎる、これが彼女の武装だってこと。
本作のエレナパートは彼女が1日目の朝、通勤電車の中で目を覚ますところから始まり、4日目にパトカーの中で眠るところで終わる。丸3日間ほとんど眠っていない(眠れていない)。
お家のベッドでゆっくりと眠って。
そして起きたら白い手帳を買いに街へ出かけてほしい。

予告で決め台詞のように使われていた「止(と)めませんよ、絶対に」と言っていたエレナが「せーので止(や)めるんですよ」と心変わりしたのは
羊急便まで出向きそこで八木と話したからなのかな。八木から出た「ラストマイル」のワード。そこに誇りをもって働いていたはずなのに気付けば遠くに来てしまったと八木は言う。エレナも遠くに来てしまったことに気付いたのだろうか。最初から一斉ストライキを提案するつもりで来たのではないような気がする。

筧まりか

彼女は世界の代わりに罪を贖(あがな)ったのだろうか。
それとも自分の罪を贖ったのだろうか。
ここで”償う”でなく”贖う”という単語を当てた真意を是非野木さんに聞いてみたい。辞書で調べてみたけど償うより贖うの方が罪そのものよりも罪の意識の埋め合わせをするというニュアンスが強いみたい。
あと贖うは”買い取る””代償”という意味もあり、キリスト教の概念だと奴隷の自由を買うときに使われた言葉らしい。
そう考えると彼女は恋人の山崎が奴隷のように使われていた(そして自死にまで追い込まれた)その代償として自分の命を差し出し、その事実を明らかにしたかったのだろうか。
もちろんそこには会社や世の中への恨みもあるだろうし、彼を救えなかった自分への罰も有るのかもしれない。
エレナもミコトも彼女をばっさりと断罪している。
(エレナはそのバイタリティーを他で使えと言い、ミコトはそんな根性なら要らないと言った)
私は野木さんの脚本のこういうところが大好きだ。

山崎佑

あなただったのか!!!!
中村倫也くん!!!!!!!
初見で短い悲鳴をあげたよね。
すごいリアリティのある役作りで心が痛かった。
演じてても辛かったのではないかな。
飛び降りる前にこれでベルトコンベアが止められると若干笑みを浮かべていたのがぞわっとした。
2.7m/s→0m/sにしようとしたけれど、コンベアから降ろされて、もうろうとする意識の中でおそらく彼はまたコンベアが動き出す音を聞いたのではないだろうか。
ああ世界は止まらない。
そこでの彼の絶望を想像すると非常に胸が苦しい。

八木竜平

八木さんのシーンで毎回泣いてしまうのが、エレナからX線検査機が届くからそっちで運搬して設置しろと言われた後に地図広げて部下に指示だすところ。なんでそこ?って場面かも知れないけど、得意先から無茶ぶりされてとにかく荷物を止めるなってすぐに頭を回転させて次の行動に繋げているのがプロの仕事として素晴らしくてそこに感動してしまう。
あと本社の会議室から電話かかってきて、人の時間使うなってところでそうだ!そうだ!って心の中で叫んだ。
管理職になってつくづく思うけど要らん会議が多すぎる。本当に人の時間を食いつぶさないでほしい。
上司と部下の間でも板挟み、取引先と下請けとの間でも板挟み。
あるある過ぎてもはやノンフィクションだった。
八木さんに幸あれと願わずにはいられない。

松本里帆

作中ではシングルマザーの設定だけど、シングルかどうか関係なく自分に余裕がなくて子供にきつく当たってしまうの、これまた分かりみがあり過ぎて泣いてしまった。
夜仕事から帰ってきて、朝ごはんのお皿も「まんま」だったら私ならブチ切れるけど怒らないだけ優しいよ。
洗濯機はちゃんと新品に交換してもらって下さい。
これ誰が弁償してくれるんだろうね。

佐野昭/佐野亘

本作の中でこの親子が出てこなかったら私は立ち直れないぐらいダメージを受けたままになっていた。まさにヒーロー。
この作品の中で唯一の救いじゃないかな。
実際の彼らには何の救いもないし、焼け石に水程度の配送料のUPしか見返りもないのだけど。
洗濯機にこんなにも涙するなんて誰が思おうか。
ここの伏線回収は素晴らしかったな。
亘さんは休憩時間もきっちり1時間取ろうとしてどこか仕事に対して冷めた目線なのかなと思いきや、荷物が落ちそうなときには率先して助けに行くし、爆弾の箱も危険を顧みず取りに行く。
冷めているのではなく仕事に対して正しい正義感をお持ちの方なのかな。
亘がお父さんに誰も親父のことを大切にしてくれていないよというシーンの火野正平さんのお芝居が本当に素晴らしい。
あの切ない表情は思い出しても泣ける。

梨本孔

孔がいちばん視聴者に近い立場だったのかな。
というかたった4日間の間にやたらバイタリティのある訳あり上司が着任して、爆弾騒ぎに巻き込まれ、自分の同じ役職だった人が自殺未遂を起こしていたことを知り、やっと打ち解けてきた上司が首になり、その後釜がまさかの自分という最高に目覚めの悪い悪夢を見せられて気の毒過ぎる。
「あなたの番だよ、」
っていきなり言われてもねえ・・・
もうマジックワードの意味も知ってしまったし。

ちゃんとご飯食べて、家に帰って寝るんだよ。
あと、飛び降り防止用のネットはセンター長権限ですぐに購入して設置してください。

MIU404

私は星野源さん、かつMIU404の大ファンだ。
なので最初にラストマイルに404の二人がそのままの役で出演すると知った時に本当に嬉しかった!
最初にMIU404のサントラ「伊吹藍」が流れた時、来たーーーーーー!!!!!生きててよかったと心から思った。
そして彼らが機捜404のままバディを組んでいたことに感動した。
相変わらず伊吹は伊吹のままで、それに対して志摩は、志摩は、、、なんでそんなに伊吹に対して優しくなってんの?????
びっくりなんですけど。
山崎の部屋がなんか~きゅるっとしてたと報告する伊吹語をすっごく嫌そうな顔で女性の匂いがするって翻訳する志摩最高(笑)
キモくてすみませーんって謝ってるのは私たち視聴者にも言ってるようでおかしかった。

What do you want?

私たちの欲望は止まらない。
欲しいから買う。
買うために働く。
このベルトコンベアは永遠に止まらないし止められない。
だったら止められないものを止める方法を探すより、
このコンベアに何を流すか、どう流すかを考えた方がより現実的で建設的じゃないかと思った。

野木さんがパンフのインタビューの中でこう言っている。

劇中では「ホワイトパス」と呼ばれる人々。彼女たちのような人が今、立ち止まって何かしないと、本当に動かない、変わらない。(中略)でも、末端はずっと頑張っているし、もう立ち上がれ、とかそういう段階ではない

ラストマイル  
パンフレットより

私はどちらかというとエレナや八木の立場に近い。
私も含めてその立場にいる人達が本作を観て、それを持ち帰り、自分がいる世界のゆがみに気付くきっかけになったらいいなと思った。

What do you want?
難しい質問だ。
今の気持ちで率直に答えるなら
"LAST MILE" Blu-ray/DVD Box Directors edition with special making ASAP!!!

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