産業保健師のためのアルコール関連課題への予防的支援と保健指導
はじめに
産業保健師は、労働者の健康と安全を支援し、職場環境における身近な医療職として機能すべく日々業務に従事しております。
以下に、産業保健師の役割をいくつか説明します:
産業保健師の役割
職場の健康促進と疾病予防:産業保健師は、職場における健康課題を特定し、その改善に向けた方策として、健康増進企画の立案や実施を通じて、労働者の健康を支援します。定期健診やその他健診に関連した取り組みを通じて、疾病の早期発見や予防を促進します。
労働者の健康問題への対応: 産業保健師は、労働者が直面する健康問題やストレス課題に対応し、適切な支援やリソースを提供します。心理的な負荷やアルコール依存などの問題に対しても、適切なケアや相談を行い、関係者(産業医、人事や上司)と連携しながら労働者の健康をサポートします。
法令遵守とコンプライアンスの確保: 産業保健師は、労働安全衛生法や労働基準法などの法令を遵守し、職場の健康と安全に関する規制に従って活動します。
職場環境の安全性の確保: 産業保健師は、職場環境における安全リスクを評価し、労働者が安全かつ健康的な環境で働けるように支援します。安全装置の設置や安全教育の提供など、事故や災害のリスクを最小限に抑えるための対策を推進します。
アルコール課題という現代の職場での健康問題に焦点を当てる
さて、アルコール課題を持つ従業員への支援はいかがでしょうか?重篤なアルコール依存の従業員さんの支援は頻度は多くないものの、1度出会うと病識がない段階からの受療勧奨や職場でのトラブルの解決支援のため、1ケースに対応する時間と労力が多くかかるものと推察します。
また、嗜好品と扱われる飲酒。飲酒機会や量が多く、「いずれ危ないという予見的リスク」を支援するケースは多いものの、「今すぐに問題ではない、と顕在化していない課題」として扱われたり、重篤に移行するケースの発生頻度が多くないため、アルコール課題への支援に関して、保健師自身も知識を補充したり、最新情報をアップデートする機会は実は少ないのではないでしょうか?
厚労省が令和6年2月「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表
アルコール問題がもたらす影響
産業保健師が直面する職場でのアルコール関連問題の影響
産業保健師が直面するケースとしては、以下のものが挙げられます。
①健康診断結果で肝機能数値が高値、肝硬変傾向がある:顕在化している
②問診で多量飲酒(毎日3合以上など)の記載があり、アルコール摂取量が多く、いずれ健康への悪化するリスクが予見される
③職場の上司から「酒の匂いがして出社している」などの相談があった :顕在化している
①②のターゲットは従業員本人で、自己保健義務のもと、受療勧奨や悪化しないような飲酒行動を是正する保健指導、が主な支援プランかと思います。
一方、③は「相談者が上司」で「ターゲットは上司・本人」と、相談者が1人ではなく、かつ対象の本人が”こまっていない”ことで、本人へのアプローチに頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか。
かつ、放置しておくと顧客先や仕事へトラブルを招きかねないですし、業務中の飲酒運転などあれば、事故につながることも想定される、事業リスク・安全リスクを持ち合わせたケースとなります。会社も安全配慮義務の遂行のため、どうにかしたい、と産業保健スタッフへ支援を求めることは当然です。
産業保健師の役割① 予防的支援と保健指導の重要性について
予防的支援と保健指導の重要性の強調
①②のケースの支援だと、まだ問題が顕在化してはいないので、対従業員個人への支援が中心かと思います。そのフェーズで重要となるのが、「現在の状態から推察される健康リスクの共有と予防策の提示、本人が予防策に取り組めるよう行動変容への支援」がキーです。
保健師として必要なスキルとすると、現状の課題の把握:分析力、健康課題の抽出:現在・将来的な予見(観察力、分析力)、そのためにできること(プランの提示:企画力、折衝力)が必要です。
そしてそれを推進していくのに必要な、HumanスキルとTechnicalスキル。
Humanスキルはどんなときも、どんな職位においても、目指す事柄を実行するにあたり必要な対人関係で必要なスキルです。(コミュニケーション、ホスピタリティ、説明力等)
Technicalスキルは、基礎知識・技術となる部分で、アルコール課題の支援に必要な基礎知識(病態、心理的支援・フィジカル支援)が今回は必要で、さらにそれを展開するための保健指導の技術が必要となります。
産業保健師の役割② 周囲の相談で開始したアルコール課題の支援における産業保健師の困りごと
コミュニケーションの障壁、限られたリソース、組織の理解不足など
・コミュニケーションの障壁、組織の理解不足:対従業員個人もそうですし、個人へのアプローチを開始する前に上司や人事へ協力を求めることも必要です。ケース③の場合は、リスクの範囲を考えると、産業医だけでなく、会社のリスクにもつながる懸念がありますから、従業員周囲の関係者とともにこの問題を解決することが必要です。
それには、保健師が周囲へ情報整理・分析のもと、Humanスキルを活用し、組織の理解不足を補充し、周囲に協力してもらえるような働きかけるアプローチスキルが必要となります。
限られたリソース:とはいっても、1人職場の保健師では日常業務でも膨大な業務量がありますので、1つのケースに親身になって関わりたいけど、十分に関われない時間と労力の限界があるかと思います。そういう環境だからこそ、役割を補完しあえるよう、周囲の関係者とともにサポートする体制を構築することが必要となります。
まとめ
たかが、アルコール支援、されどアルコール支援。。
自己研鑽に必要なものがたくさんありますね。。。