ミレイ『目の見えない少女』(1856)―対話型鑑賞レポート①
次回の対話型鑑賞は10月8日日曜日になります。
10月22日日曜日
ミレイ『目の見えない少女』
先日の対話型鑑賞は、イギリスの画家ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896)の『目の見えない少女』(1856)を鑑賞しました。
・ラファエル前派とは?
ミレイはラファエル前派というグループに属していました。
ラファエル前派は、イギリスの若い芸術家たちが集まって、1848年に結成されました。
当時のアカデミー(画家を評価する機関)は、ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンティ(1483-1520)を参考に絵画を描くことを強いていました。
たしかに、ラファエロの聖母は完成された理想美を湛えています。
ラファエロの絵画を観れば、誰もが魅了されるはずです。
しかし、芸術表現とは、ラファエロが創り出した方法をただ真似ることではありません。
完成された理想美を真似して絵画をつくることは、予め完成された綺麗な部品を組み立てて一つの機械をつくるかのようです。
ラファエロがつくり、アカデミーが強いた形式をうまく組み合わせて絵画を描くのは、味気のない作業のように感じます。
ミレイら若い画家たちは、もっと別の表現を求めていました。
そこで彼らが主張したのが、ラファエロ以前の絵画、すなわちルネサンス初期や中世の絵画を参考にすることでした。
ミレイらは、ラファエロ以前の絵画から、豊富な素材、強烈な色彩、複雑な構図を取り入れていきます。
つまり、綺麗に整った理想美によって省かれたものたちを自らの絵画に取り入れました。
とはいえ、ラファエロ以前の絵画をそのまま真似したわけではありません。
敢えて言えば、新しい表現のために、使い古されたラファエロの方法以外の表現を利用したのです。
・ラファエル前派における写実性
ラファエル前派の一人であるウィリアム・マイケル・ロセッティ(1829-1919)は、ラファエル前派の絵画を次のように特徴づけています。
ここでは、2と3について特に注目します。
3は、これまで見て来たことに当てはまります。
アカデミーの課した型を丸暗記し、技量を誇示するのではなく、自ら選んだ事柄をもちいて絵画を描くことを主張しています。
ラファエル前派はアカデミーが見過ごしていた、ルネサンス初期と中世の芸術に注目しました。
ミレイの『イザベラ』を観てみましょう。
中世の祭壇画から影響を受けているため、遠近感が歪になっているのがわかります。
中世芸術は、神の秩序が自然の秩序よりも優位にありました。
そして、神の秩序の表現のために、自然の秩序である遠近感が歪むことが多くありました。
しかし、ミレイは決して神の秩序の表現のために空間を歪ませたのではありません。
新しい芸術の創造のために、中世芸術の技法を参考にしたのです。
つまり、彼は中世芸術の精神までも継承したわけではありません。
ここで2「自然を注意深く研究し、それの表現方法を知ること」をみていただくと、非常に面白いことがわかります。
自然の秩序を二次的なものにした中世芸術を参考にしつつも、彼らのベクトルは自然に向けられていました。
改めて、1枚目の絵画、ミレイの『目の見えない少女』を観てみましょう。
前景には草や服の質感、小川が見事に描かれ、後景の個々の物も緻密に描かれているのがわかります。
風が肌に触れる感じをも絵画から伝わってくるほどに、徹底的な自然描写が貫かれています。
なお、これは、当時、写真技術が発達し、個々の物を緻密に描くように影響を受けたとも言われています。
このように、相反すると思われる、中世芸術と自然の要素を含みもっているのがラファエル前派であります。
完成された美の機械的な結合ではなく、様々な複雑な要素の有機的な統合が達成されています。
おわりに、そして次回
ラファエル前派の絵画を観ていると、リアルさと非現実さを同時に感じることがあります。
綺麗に整えられた純粋さの表現ではなく、様々な要素を複雑に含みこみ、観る者に多様な表情をみせるのがラファエル前派の絵画の特徴と言えるかもしれません。
ラファエル前派の紹介が長くなってしまいました。
次回こそは、対話型鑑賞のレポートにたどり着きたいと思います!