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【アルバム紹介】andLOIDs -all time best from nanou- (feat. Hatsune Miku) / ナノウ(2013)

今回は、ボカロP・ナノウのベストを紹介します。

2004年に初リリースされたVOCALOID。2006年リリースのニコニコ動画と共に歩んだ、2000年代発モンスターコンテンツですね。今では、ボカロ出身アーティストがヒットチャートをなめるなど、一大文化圏を築いています。

実は、私自身そんなにボカロ好きではなく、というかむしろ食わず嫌い気味です。というのも、登場初期、ボカロはアニソンの系譜を引いた結構コア(アングラに近い?)なコンテンツだったと記憶しています。あの独特の雰囲気と曲調が好きになれず、そのままずるずると、という感じです。

ですが!今日はそんな私でもお勧めできるP、「ナノウ」のベストを紹介します。

アーティスト紹介

2008年ごろから活動を開始したプロデューサー、ナノウ。自身のコメントから以前は「ほえほえP」とも呼ばれていた氏の作品は、バンドサウンドが心地いい。絶対バンドマンだろうな、と思って調べたら案の定、ロックバンド「Lyu:Lyu」(現:「CIVILIAN」)のGt.Voとのこと。楽曲中では、自身の生演奏もふんだんに使われているようです。

聴きやすいバンドサウンドと、初音ミクの声が見事に調和した作風で、『文学少年の憂鬱』、『ハロ/ハワユ』などヒットを連発。そんな氏のベストアルバムが今回紹介する『andLOIDs -all time best from nanou-』です。ジャケ写のIがネクタイになってるのかわいい。てか、ネクタイだけでキャラクターわかるのヤバすぎるな。

※Apple Music上で、ボカロ曲が「アニメ」ジャンルになってるの、本当に良くない。Appleさんどうにかしてください。

ナノウは好き、ナノウは聴ける

私がボカロを敬遠していた偏見の一つに、「ガチャガチャした超絶技巧」というのがあります。打ち込み系音楽は技術的制約がなく、かつノイズがないので、音符が単調だと音がのっぺらぼうになりやすく、超絶技巧に走る傾向があります。これはYOASOBIとかを聴いても明らかですね。

そこに来て、ボカロはボーカルも打ち込みなわけです。それが新たな表現を生み出した例も多いと思いますが、私は基本的にはあんまり好きじゃない。
※ボカロの肉声ではありえないボーカルの使用が、現在のボカロ系アーティストに続く、新しいジャンルの扉を開いたと思っています。これは曲調の好き嫌いとは関係なく、とても良いことです。念の為。

あともう一つ、ボカロ食わず嫌いの理由として、アニソンの系譜を引いているが故の「複雑かつ過度にエモいコード・曲展開の多用」があります。J-Pop全般にこの傾向がありますが、特にアニソンは、一般に「エモい」と言われるコード進行を過度に多用し、雑然としている、テクニカルになりすぎている印象を受けます(田中秀和進行など、決してそれが悪いというわけではないのですが……)。その影響を多分に受けているボカロ曲も然り。聞いていて少し疲れます。

その点、ナノウは安心のバンドサウンドが基調。ガチャガチャしすぎておらず、コード進行も突飛ではない(ものが多い)です。まぁ非常に良くない言い方をすると、ナノウの曲はあんまりボカロっぽすぎないとも言えると思います(こんな風にボカロ曲を一括りにすると怒られますが……)。あとやっぱり、生楽器畑の人はシンセ等の打ち込み楽器の音もしっかりしていますね。

ボーカルと曲の調和

あともう一つだけ褒めてから曲を紹介します。

ナノウの曲では、初音ミクのボーカルが見事に曲に調和しているんですね。アマチュアアーティストの曲って、ボーカルが浮いている曲が多い。これはミキシングの問題もあるでしょうが、それ以前に、ボーカルが曲の一部になりきれていない。

曲って作るとわかるんですが、意外に伴奏がいい加減でも、ボーカルを乗せるとそれっぽくなります。だから、コード伴奏と単旋律、みたいな曲でも成立しちゃう。でも、これは伝統的な音楽理論からするとあんまり良くないんですね。

ボーカルが白玉の時(伸ばしている時)は、伴奏がリズムを刻んで曲を進める。逆にメロディが動くときは、伴奏は背景に徹する。対旋律(オブリガート)が主旋律と絡んでハーモニーを形成する。こういうふうに、伴奏は旋律を助け、旋律が伴奏を助ける。これ、基本です。

ナノウは、これが自然体でできているから違和感がない。もちろんミックスも良い。綺麗にボーカルが伴奏と融合しています。最高ですね。

各曲紹介

さて、肝心のアルバムを紹介します。個性豊かな曲が並んでおり、ナノウの音楽性の深さを感じられるこのアルバム、このために全曲リミックス・リマスターしているとのこと。

アルバムの始まりは01.「プレゼント」から。アニメのOPのような聴きやすく爽やかな曲調で、オープニングにぴったりです。次いでメノウの初投稿作品となった02.「カナシキヒステリックガール」。スウィングにベースソロなど、ジャズの要素がマイナー調のサビとマッチしています。名曲。3曲目は、くるりを彷彿とさせる朝らしいイントロで始まる03.「朝焼け、君の唄」。頭サビにもなっているモチーフを自分も歌い出したくなるような、明るい恋愛歌になっています。
※頭サビ:イントロ=サビになってること。

つい涙腺が緩んでしまいそうなバラード05.「ねぇ」や、ニコニコで殿堂入りした07.「文学少年の憂鬱」などの名曲を挟みつつ、08.「ハロ/ハワユ」へ。鹿乃をはじめとして、様々なアーティストにカバーされている不朽の名作。私がナノウと出会った曲でもあります。本人曰く「ダメな人の歌」とのことですが、だからこそ聞いていて勇気づけられるものがあります。

グロッケンの印象的なイントロで始まる、10.「Waltz Of Anomaries」の個人的聴きどころは、3:58ごろから始まるコーラス。ボーカロイドはこんな使い方もできるんだ、と改めて驚かされます。対して12.「ヒトニナル」の聴きどころは歌詞。「才能が無かったんだ。人として生きるだけの。」という歌詞を初音ミクが歌っているというのは、少しドキッとしますね。

13.「サクラノ前夜」は家出をテーマにした曲。イントロから登場するビブラフォンとドラムのリズムが、家出から家に戻るまでの感情を引き立たせています。そしてアルバムの最後は、14.「Glory 3usi9」。初音ミク -Project DIVA- F 2ndのタイアップソングにもなった書き下ろし。バックでなっているシンセが疾走感を演出しています。

終わりに

こうしてアルバムを通しで聞いてみると、初期と後期では明らかに曲作りが上手くなっているのが分かりますね。

オタクどもを熱狂に巻き込んだニコニコ動画も、今やYouTubeに押され風前の灯。(それは単にカワンゴの失策では?と思いつつ、)そもそもネット自体がメジャーになり、オタクだけのものではなくなった今、「バズる」曲もどんどん変わってきています。

そう思うと、本作は一番ボカロ界に熱気があった時期のアルバムなのかもしれません。私の勉強も兼ねて、またいずれ年代別でボカロ作品・Pについてまとめる機会も取りたいですね。

だいぶ文字数も多くなったのでこの辺で。またお会いしましょう。

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