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【アルバム紹介】エコーズ・オブ・ジャパン / 民謡クルセイダーズ(2017)

今回は日本民謡をめちゃめちゃクールに昇華している、民謡クルセイダーズのアルバム「エコーズ・オブ・ジャパン」をご紹介します。

何につけ欧米に憧れた時代も過ぎ、日本文化の再評価が進んでいる昨今。漫画・アニメにかわいい文化、果ては和食や落語まで「クールジャパン」として世界に発信しようという時代になっています。

そんな時代にあって、「民謡にどうやって光を当てていくか」という問に、ひとつの解を提示するアルバムと言えると思います。とにかくおすすめ。

アーティスト:民謡クルセイダーズについて

民謡クルセイダーズ(MINYO CRUSADERS)は、2011年に東京で結成。

"(the) Crusaders"とは聖戦、特に中世ヨーロッパの「十字軍」を指す言葉です。まさに、民謡の復興を目指す、というグループの意気込みが見て取れます。

レーベルは、スペースシャワーTV系のPヴァイン(国内向け)と、イギリスのMAIS UM DISCOS(海外向け)。

今回紹介する『エコーズ・オブ・ジャパン』(2017)のほか、南米コロンビアの伝統舞踊音楽「クンビア」を演奏するグループ、「フレンテ・クンビエロ」との合作EP『民謡クンビエロ FROM TOKYO TO BOGOTA』(2020)をリリース。

2019年と2020年に海外ツアーを敢行するなど、世界的な注目アーティストです。

日本民謡とラテンの融合

さて、メンバーを見てみると、

フレディ塚本(ボーカル)、Meg(ボーカル、ピアニカ)、田中克海(ギター)、Moe(キーボード)、大沢広一郎(サックス)、イデ ソノオ(ティンバレス)、小林ムツミ(ボンゴ)、Irochi(コンガ)

Wikipedia「民謡クルセイダーズ」より(2022/2/16参照)

……こりゃ手厚い。人数も多いですが、気になるのは、ティンバレスにボンゴ、コンガとラテン系パーカッションの3連発

それもそのはず、公式HPには「東京キューバンボーイズ」や「ノーチェクバーナ」が列挙されており、日本民謡とラテン音楽の融合を志向していることが窺えます。

かつて戦後間もない頃、偉大なる先達…東京キューバンボーイズやノーチェクバーナが大志を抱き試みた日本民謡とラテンリズムの融合を、21世紀に再び再生させる

民謡クルセイダーズ公式HPより(2022/2/16参照)

アルバム紹介

では、そんな民謡クルセイダーズのエッセンスの詰まったアルバムをご紹介しましょう。収録曲を眺めると、有名民謡ばかりですね。この中から何曲かピックアップ。

01.「串本節」

さて、原曲はこれです。

(あら、適当に原曲っぽいのをチョイスしたんですが、なんとなんと、金沢明子さんではないですか(後述))

とにかく原曲は、本州最南端の町、和歌山県串本町に伝わるベタベタな民謡。それが大阪や京都の花街に入って全国的に有名になったそうです。

それがなんとまぁ、民謡クルセイダーズの手にかかれば、イントロから全く別の曲ではないですか。モサモサした2拍子の、伝統的なクンビアのリズムになっています。

ちなみに、串本節は、民謡クルセイダーズ以外にも有名なアレンジが存在します。

2017年公開の映画、「機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER」で挿入歌として使われた、マンボ風の串本節。こちらもラテン系ですね。

実は日本語と南米諸語は、どちらも母音が多い言語らしいです。子音と母音の比率は、曲の進行感に大きな影響を与えるものですので、もしかすると実は、ラテンと日本民謡は相性がいいのかもしれません

(脱線)金沢明子について

ちょっと脱線させていただきますが、金沢明子さんもあんな問題作やこんな問題作を歌っている人ですね……。

「イエローサブマリン音頭」は、ビートルズの"Yellow Submarine"をアレンジ(?)したものです。仕掛け人は大滝詠一。

軍艦行進曲のモチーフも入ったりとやりたい放題ですが、カバーとかリミックスってのは本来これくらいやらないといけないんじゃないか、と私の中で密かに目標にしている曲です。

……小見出し一つ使っちゃいましたが、とりあえず閑話休題。

02.「ホーハイ節」

1曲目に紙幅を割きすぎたので、あとはサクサク飛ばしながらご紹介。

津軽の盆踊り民謡である、ホーハイ節。原曲は、これぞ日本、という感じの拍子さえ見えない謎曲。君が代とかも拍子感ないですし、伝統なんでしょうね。

アルバム曲に耳を移すと、冒頭のシンセで度肝を抜かれます。ピンク・レディーかっつーの。いや、まぁサビの「ホーハイ」のとこなんですけどね。アフロ風のアレンジになっています。

08.「炭坑節」

なんとなくクイズ番組を彷彿とさせるイントロと、炭坑節とブーガルーの奇妙なマリアージュ。

この曲に限らず、日本民謡には「あ〜・ヨイ・ヨイ」とか、「ドッ・コイ・ショ」みたいなキメや合いの手がよく入っていますよね。こいつはちょっと扱いが難しくて、こういうアレンジの際に除いてしまうと原曲の風合いが損なわれるし、そのまま入れるとダサい。

民謡クルセイダーズはこの辺の処理が上手いようで、この曲でも「ヨイヨイ」の後、あまりキメすぎずにそのまま間奏に突入しています。すごい。

一応、原曲は福岡の民謡です。

他にも、リズムとスピード感が見事に融合した真室川音頭や、そう来たかと思わされる相撲甚句など、まだまだあるのですが、全てを説明し尽くしては皆さんの楽しみを奪いますから、この辺で。

終わりに:ルーツミュージックとしての民謡

リーダー(Vo)の田中克海さんのインタビュー記事で、自分にとってのルーツミュージックを考えたときに、民謡にいきあたったとのことです。

少し前に、草津節を出発点にして、日本民謡全般に共通する、そして現代の日本人にもしっかりと受け継がれているリズム感について紹介しました。

私も、クラシック音楽を15年以上続け、バンドのライブに行ったり、たまにはクラブで少し踊ったりします。気付けば身の回りは、欧米由来の音楽ばかり。

ただ、例えば曲を作るとき、例えば電子レンジの中で回る冷凍パスタを見ながらなんとなく体を揺らしているとき。日々のふとした瞬間に、「とどのつまり、ルーツミュージックは日本民謡なんだ」とハッとすることがあります

何にハッとするって、おっとダサいリズムだ、ということなんですが……。それはつまり、自分が意識的か無意識的か、非日本的なものに憧れているんでしょうね。

しかし、こうしたアーティストに出会うと、それも考えものだなと思ってしまいますね。今度盆踊りでも行ってみようかな

とにかく、そんなこんなで私の一押し、民謡クルセイダーズでした。ご贔屓に。



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