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より人生を豊かにする『シンプルで合理的な人生設計』

『シンプルで合理的な人生設計』のまとめと感想です。本作は、『幸福の「資本」論』の続編的な位置づけですが、前作も簡単に解説されているので、こちらから読んでも問題ありません。前作に引き続き、素晴らしい内容ですので、簡単にご紹介します。

選択肢を減らすことで得られる豊かさ

 選択肢が多いと、私たちは一見豊かに見えるかもしれません。しかし、実際には選択肢が多すぎると判断するためのエネルギーを消耗し、結果的に幸福感が減少してしまうことが研究でも明らかにされています。本書では、選択肢を減らし、重要なことに焦点を当てることの重要性が強調されています。選択肢が少ないと、判断に要するコストが減り、余ったリソースを他の重要な決断に使うことができるのです。これにより、私たちはより豊かな人生を送ることができるというわけです。
 選択肢の多さが問題になるのは、現代社会では日常のあらゆる場面で選択を強いられているからです。食事を選ぶとき、洋服を選ぶとき、さらには休暇の過ごし方に至るまで、私たちは無数の選択肢の中から何かを決めなければなりません。選択することで疲れ果て、結果として重要なことに集中できなくなります。だからこそ、選択肢を減らすということは、シンプルながら非常に強力な手段なのです。
 現代は情報に溢れる時代でもあります。選択肢以外でも、「気になること」が私たちの脳を汚染し、支配していきます。デジタルデトックスなどの言葉もあるように、私たちはデジタルツールから一時的に離れる時間を作ることも非常に重要です。

リスクと不確実性の違い

 リスクと不確実性は似たような言葉として使われがちですが、実際には異なる概念です。統計学的には、リスクは、事前に計算できるばらつきであり、過去のデータを元にある程度予測することが可能です。リスクとリターンはベルカーブで表現でき、最悪と最高の期待値が分かるということです。
 一方で、不確実性とは、予測不可能な事象のことを指します。この不確実性の存在が、人生において最も難しい判断を迫られる場面です。リスクについてはそれを避けるためには、データを分析し、計画を立てることが有効です。しかし、不確実性に対しては、どう対応するのかを事前に準備することは難しく、適応力が求められます。特に日本では、急な自然災害で人生そのものが一変してしまうこともあるでしょう。こういったものが不確実性に含まれ、リスクとリターンでは推し量れない領域です。もちろん、こういった大規模災害以外にも様々な面で不確実性が潜んでいます。
 本書では、この不確実性をどう乗り越えるかが人生の成功に繋がるとされています。不確実性を避けるのではなく、それを受け入れ、常に変化に対応できる柔軟な思考と行動を持つことが重要だというメッセージです。リスクを管理しつつ、不確実な未来にも対応できるようにするために、どのような選択肢を持っておくべきかを常に考えることが求められます。

環境を変えることの力

 人生をシンプルにするために、私たちは時折「考え方を変えるべきだ」というアドバイスを受けますが、実際には環境を変える方が遥かに効果的なことが多いです。私たちの考え方はある種、私たち自身です。その年齢まで(良きにせよ、悪しきにせよ)上手くいったからこそ出来上がった一種の生存戦略です。それを変えることは、無理ではないが、ハードルが高いでしょう。
 だからこそ、環境を変えた方が楽だよと語られています。例えば、仕事や住む場所を変えることで、それまでの問題やストレスの多くを解消することができます。環境を変えることで、無理なく新しい習慣や視点を取り入れることができるのです。
 また、私たちの行動の大半は無意識のうちに行われているという事実も重要です。日々の行動の40%以上が習慣に基づいており、意識的に選択しているわけではありません。このように、私たちの多くの行動は環境によって左右されているため、環境を整えることは、より良い人生を築くための最も効果的な方法の一つと言えるでしょう。
 この点については、前述の「選択肢を減らす」ことも重要です。選択肢を減らしておき、習慣がより少なくより有用なものであれば、無意識のうちに消費されるエネルギーが少なくなります。いちいち考えることは無駄にエネルギーを減らします。厳選された良質な習慣で人生を構成することで、より良い人生をローコストで実現できるのです。

キーストーン・ハビットがもたらす変化

「キーストーン・ハビット(要となる習慣)」という考え方は、1つの重要な習慣が他の多くの行動にも影響を与え、ポジティブな変化を引き起こすという理論です。例えば、運動を習慣化することで、健康を管理するだけでなく、自己肯定感が高まり、仕事の生産性が向上するなど、他の領域にも良い影響が及びます。「要となる習慣」は、少しの変化が大きな成果を生むため、人生をシンプルかつ効果的に設計するためのカギとなります。
 重要なのは、すべての習慣を変えようとするのではなく、1つの「要となる習慣」を見つけて、それを習慣化することです。1つの良い習慣が、他の領域にポジティブな波及効果をもたらし、結果的に人生全体を変えることができるのです。
 この考えも非常に重要です。例えば、私は知り合いからストイック過ぎると言われることが多いです。自分としては、「休憩時間も予め十分用意して一日を設計しているのだから、別段ストイックでもない」という気持ちなのですが、この考え方自体がストイック過ぎるというのです。それはどうでも良いとして、ストイックの厳選となったのは、たった一つの軽い習慣からでした。
 私はポモドーロテクニックという方法で、集中→休憩を繰り返しています。休憩時間は5分なのですが、この時にやることを「Fit Boxing」に定めました。これが私にとっての「要となる習慣」になりました。単に休むだけでなく、椅子から立ち上がって運動(もどき)をすることが、私の生活を劇的に変化させ、最終的には前述のようにストイック過ぎると言われる生活を難なくこなせるようになったのです。
 まず、5分で簡単に運動ができること。ゲーム感覚で取り組めること。データが集まるので、後から振り返ることができることなどが、ゲーム(アプリケーション)として提供されています。正直、現代では当たり前の機能ばかりですが、これによって運動に目が行き、健康に目が行き、最終的にはあらゆる改善のきっかけになりました。
「要となる習慣」はどんなに小さなものでも良いです。まず続けられるほど、バカバカしい習慣でよいのです。それがいつの間にか大きな変化をもたらすかもしれません。最近だと、「毎日3回だけ腹筋をする」というのをやっていたら、現在は毎日60回くらい腹筋をしています。多分、この回数は少しずつ増えていきます(1週間前は30回だった気がします)。

好きなことに集中し、成果を最大化する

 好きなことに人的資本(自分の労働力)を集中させることが、人生において最も効率的な成功の方法です。好きなことに没頭することで、努力が苦痛ではなくなり、成長も加速します。特に現代の社会では、好きなことを仕事にできる環境が整いつつあり、その中で成功するためには、集中力と持続力が求められます。
 本書では、自分が得意であり、かつ好きなことに資源を集中させることの重要性が強調されています。多くの成功者は、好きなことに集中し、それを長期間続けることで成功を収めています。人生のリソースを分散させず、集中することで、他者との差別化を図り、自分だけのニッチな領域を見つけることができるのです。
 この部分は、前著であったことのおさらいになります。人生100年時代だからこそ、定年で仕事が終わりではなく、その後も続きます(あるいは、仕事を辞めた後、やることがなさすぎて絶望して死んでしまう人も多いようです)。そのため、定年後も働けることを見越して仕事を選んでおいた方が良い、という趣旨になります。
「好きなことだけ」で仕事としてお金を貰うことは厳しいです。だからこそ、少しずつずらして差別化を測って、ニッチな領域でのびのびと生きることを推奨しています。

FIRE運動と合理的な生き方

 FIRE(Financial Independence, Retire Early)運動は、経済的に独立し、早期退職を目指すライフスタイルのことを指します。大抵のFIREは「とにかく仕事を辞めること」と捉えられていますが、本書の意見は異なります。嫌な仕事を早く辞め、「自分が好きなことに時間を使う」ということが本来であれば重要だと言うのです。
 本書では、合理的な生き方が最も成功への近道であるとされています。その合理というのは、これまで解説してきた通り、「選択肢を減らす」「リスク・リターン、不確実性を理解する」「環境を変える」「要の習慣を見つける」「好きなことに集中する」などです。
 日本人は時折、感情や伝統に縛られがちですが、合理的な思考と行動は、長期的に見て非常に有効です。FIREはその一例であり、自分の人生を合理的に設計し、好きなことに時間を費やすための手段として広がりを見せています。合理的な生き方が、最終的には大きな幸福と自由をもたらすということを忘れてはいけません。
 また、著者の言葉を借りると「合理的であるということは、日本の中では希少価値である」というのです。希少価値とはニッチであり、ニッチだからこそ生き残れるわけです。周りにいる人たちが合理的な人ばかりだと、合理的は差別化にならず活躍できません。そのため、周りが感情的な人ばかりであれば、むしろ喜んで合理的になりましょう。

まとめ

 本書は、選択肢を減らし、環境を整え、集中することで、豊かで効率的な人生を築くためのガイドラインを提供しています。人生のあらゆる局面でシンプルさを追求し、合理的に考えることで、私たちはより豊かで満足感のある人生を送ることができるでしょう。
 この著作も前著と同様に非常におすすめです。

 前著からさらに踏み込んで書かれている内容もありますし、また、新しい観点も提供してくれる内容になります。そのため、こちらから読んでも問題ないです。もし、前著が気にある方はそちらをまとめていますので、ご確認ください。


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