外部化された知性:Chat GPTと新しい思考法
AIコンサルタントとしてのChat GPT
Chat GPTは一種の「デジタルコンサルタント」であり、目的が明確であれば、必要な情報を漏れなく提供してくれます。たとえば、引っ越しの際の手順や、運動プランを組み立てるとき、私たちは一般的にネットで検索し、個人の体験やレビューを頼りに情報を集めます。しかし、AIに質問を投げかけることで、その場で完璧なガイドラインが提供され、準備や検討に要する時間が大幅に削減されるのです。従来であれば情報収集に長時間を費やし、最適な判断に到達するまでに手間がかかっていましたが、Chat GPTの登場により、これらが効率化されるのです。
おまけに重要なのが、コンサルタントと記載したように個別化できる部分が強みです。引っ越しで必要なものはネット検索をしても出てきますが、それは一般化された内容ばかりです。著者がひとり暮らしなのか4人家族なのかでも引っ越しの方法や費用などは大きく変わります。Chat GPTの提示した情報がズレていれば前提条件を伝えることで、即座に新しい回答を出してくれるという部分が強いのです。
Chat GPTと対話で行うブレインストーミング
Chat GPTは単に情報提供にとどまらず、私たちのアイデアや問いを基に、ブレインストーミングも肩代わりしてくれます。たとえば、「体力をつけたいが、自分に合った方法は何か?」というような漠然とした疑問に対し、まずは効果的な運動を提案し、さらに負荷の調整や、家でできるトレーニング方法など、細かな要望に対応したカスタマイズを行います。これは単なるアドバイスではなく、私たちが持つ「問い」や「仮説」を深掘りし、視点を拡張させる手助けです。個々の対話を通じて、初めて見えてくる選択肢や新たな発見が生まれ、私たち自身の思考が導かれていくような体験を可能にしています。
ブレストは相応の時間をかけなければならないと考えられてきました。なぜなら、まずブレスト段階では、アイデアの数が多ければ多いほど良いからです。コンサル用語で「MECE」という言葉がありますが、漏れなくダブりなくという言葉です。ブレスト段階では、ダブってもいいから漏れなくしたいということが求められます。そして、ブレストが終わった後で整理して、ダブりを消していくわけです。漏れをなくすためには過剰なアイデアが必要になります。
その段階をGPTはすっ飛ばしてくれます。漏れもダブりもないブレスト結果を一瞬で提示します。もちろん、前提条件や聞き方によっては足りない部分が出てくるかもしれませんが、それはまた指示すればよいだけです。また、GPTは過去データからの類推なので、まったくもって突飛な考え方というのは出てきづらいです。であれば、そこにこそ人間のリソースを投入すべきで、ある種の「ブレストをやったというだけの証拠」作りの時間はChat GPTですぐに終わらせてしまって、その結果を見て、さらに追加できそうなことを探したほうが有意義でしょう。
「前頭前野」の外部化としてのChat GPT
私はChat GPTを「脳の外部化」として捉えていますが、より厳密には、Chat GPTは「前頭前野」(と海馬)の役割を代行していると考えています。前頭前野は論理的な思考、計画、意思決定といった知的活動の中枢であり、Chat GPTはその役割を果たすことで、私たちが日々抱える思考の負荷を劇的に軽減してくれます。ネットワークで得た情報を下に類推しますし、またネットワークから新しい情報を持ってくることもできるので海馬の役割も果たしています。ただ、重要なのは前頭前野の外部化です。なぜなら、海馬の機能自体は前述のようにネットワークが出た時に既に実現されているからです。
特に、煩雑な情報整理や論理的な構築において、外部にChat GPTという知的リソースを持つことで、私たちは感情や直感により集中することができるようになります。これにより、思考が「知的領域」に閉じ込められることなく、幅広く多角的な視点で物事を捉えられるようになるのです。
感情領域の保持:AIと「扁桃体」の境界
とはいえ、Chat GPTには感情がありません。人間の「扁桃体」によって生み出される不安や喜びといった情動は、AIには模倣できない領域です。これは、私たちが持つ感情や直感が、思考の中心にある重要な理由の一つでもあります。Chat GPTは、前頭前野のように合理的で体系的な思考を支えてくれる一方で、感情的な動機や漠然とした思いに対する理解を持たないため、あくまで「知識」や「論理」に基づくサポートに限定されます。このため、私たちは感情をもとにAIと連携することで、従来にはない「知的共鳴」を得ることができ、知性と感情のバランスを見出すことができます。
ある意味では、今後人間に求められるのは、完璧に見えるけれど、どこかワクワクしない答えに対して「ノイズ」を提供することです。「言っている意味は分かるけれど、何か気に食わない」などの感情や違和感をノイズとしてぶつけることで、完璧に見える回答の改善を促すことができるかもしれません。もちろん、感情の赴くままに行動していても良い結果にはなりませんが、人間の特性としての「扁桃体」をうまく活用することで、AI時代でも人間の役割として重要なものは残るでしょう。
AIによる「自己外化」と深まる自己認識
私はChat GPTを自己反省や自己理解のための「自己外化ツール」としても活用しています。頭の中で曖昧だったアイデアや、漠然とした思考をGPTに投げかけることで、それらが整理され、言葉として明確に形を持ち始めます。自分が考えていることや感じていることをAIとの対話を通じて確認することで、「何を知りたいのか」「どう捉えるべきか」といった自己への問いがより深まります。これは、自己認識のプロセスを加速させ、客観的な視点を得るための重要な手段となります。
ここで大切なのは、自分なりの視点やこだわりです。前述の曖昧だったアイデアを形にした時に、違和感があるならそれを追求することで本当に大切なものが見えてきます。Chat GPTはあくまで集合知のようなものですので、私に「完全に」個別化された回答を出してくる訳ではありません(実際のところは、ある程度の対話をすれば私が気に入りそうな出力の仕方をしてきますが。ただ、やはり一般的な回答の枠をはみ出てきません)。ただ、提示された物を受け取るだけでなく、そういった違和感を大切に持つことが良いでしょう。
Chat GPTと共に創る未来の可能性
Chat GPTは私たちの「知性の外部化」を実現し、新たな次元での思考を可能にしてくれます。人間が本来持つ感情や直感とAIの知性を使い分けることで、私たちの思考の幅と深さはさらに広がるでしょう。情報を調べ、整理し、論理的に思考することの負担が軽減されるため、私たちはより創造的なアイデアや、感情に寄り添う思考に集中することができます。今後、AIとの協力によって個人の能力は大幅に拡張され、情報収集の時間を減らし、より自由に考えることができるようになるでしょう。
知性と感情の共存がもたらす新たな人間性
AIの力を借りることで、知性と感情の両方を活かした思考のプロセスを生み出すことができ、これは私たちの「人間らしさ」に新しい意味をもたらします。人間とAIが共存する時代では、私たちが持つ感情や直感とAIの知識をいかに連携させるかが、今後の思考と行動の質を大きく左右するのです。人間は、知性と感情という異なる側面を使い分けながら、未来の課題に向き合い、進化し続ける存在であり、その進化は今、私たちの手にかかっているのではないでしょうか。