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【Phidias Trio vol.11 “In-between”】作品紹介: 夏田昌和《Scherzo synchronisé》(2024)

2024年12月13日にPhidias Trioの定期公演「In-between」が行われます。
今回はヴォルフガング・リーム、ホセ・マリア・サンチェス=ベルドゥ、ルイージ・ダラピッコラの作品に加え、夏田昌和さんの委嘱新作を初演します。

公演に向けて演奏作品について紹介をさせていただきます。
今回は、夏田昌和さんの委嘱新作《Scherzo synchronisé》(2024)です。

夏田さんご自身による作品解説です。

Scherzo synchronisé, pour violon, clarinette et piano
ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための「同期するスケルツォ」

2つのトリオと短いコーダを伴うスケルツォ。但し古典的なスケルツォのように一貫した急速な3拍子による訳ではない。スケルツォの主部では、冒頭で続けて奏される2つの動機とその反行形や逆行形が中心となり、そこに幾つかの短い楽想が逐次投入されていく。それらの多くは軽みがあり、Scherzando (諧謔的)な性格を持つものだが、中にはテンポを落として憂いを帯びた抒情的な楽想もある。最初のトリオではテンポはやや緩んで安定し(その代わりに拍節は非常に流動的となる)、3楽器がホモフォニックに、あるいは時にホケットを成しながら、単一の旋律を「行きつ戻りつ」しながら奏でてゆく。スケルツォが回帰した後の2番目のトリオは、曲頭のモティーフに用いられている2和音(それぞれ6つの音高から成り、合わせると12音となる)の進行を、時間的に極度に拡大しつつ、少しずつ変容していくことによって出来ている。この第2トリオの前半では3楽器が単一のパルスを共有しながら(私が偏愛するS.Reich の典型様式 ! )音価を漸進的に縮小させていき、後半では同様の和声進行をジグザグ状に伸縮する音価で、ピアノの残響を伴うアタックとクラリネット&ヴァイオリンの最弱音によって実現する。再度スケルツォが回帰してクライマックスを築いた後、コーダ部分では次第に同期を解かれていくクラリネットとヴァイオリンが、下降する旋律と化した冒頭モティーフをしっとりと秘めやかに歌い合う。 奏法も発音原理も性格も異なる3つの楽器が、絶えずぴったりとシンクロしながら音による軽やかな”運動”を繰り広げる、というのが作曲時のベーシックなイメージであった。よってここには「対位法」は殆ど存在しない。3楽器の中心にはピアノがあり(故に私が器楽作品で頻繁に使用する4分音もこの曲にはほんの僅かしか用いられていない)、その鍵盤に”プリセットされている”12音を如何に均等に振り分けて用いるかが、各モティーフの音高組織を決定する上での関心事となった。自由で大らかな(そして対位法的では全くない)12音技法ともいえよう。

夏田昌和

夏田昌和(なつだ まさかず)
1968年東京生まれ。東京藝術大学大学院修了後、パリ国立高等音楽院にて作曲と指揮を学び、審査員全員一致の首席一等賞を得て同院作曲科を卒業。作曲を野田暉行、永冨正之、近藤譲、Gérard Grisey、指揮を秋山和慶、Jean-Sébastien Béreauの各氏に師事。芥川作曲賞や出光音楽賞をはじめ作曲と指揮の両分野で受賞や入賞、入選多数。作品は、国内外の音楽祭や演奏会にて幅広く紹介されている。日仏現代音楽教会の設立に参画し、様々な演奏会や教育・啓蒙プログラムを企画・運営中。2021年には第6回両国アートフェスティバルの芸術監督として3種6公演を成功に導いた他、2024年1月の神奈川県民ホール「C×C 夏田昌和×アルノルト・シェーンベルク」も大きな反響を呼び高く評価された。また指揮者としては海外現代作品の紹介、邦人作品の初演やCD録音に数多く携わり、2022年12月に日本で4度目、今世紀初の演奏となったアイヴズ「交響曲第4番」の正指揮や、2024年3月アンサンブル・ヴェネラ公演におけるメシアン「トゥーランガリラ交響曲」の指揮なども話題を呼んだ。

今回のプログラムを見ると、「歌(Gesang)」、「ファンタジー」、「カノン」、「ソナチネ」、そして夏田さんの作品には「スケルツォ」と、西洋のクラシック音楽、特に19世紀あたりまでの潮流の中でキーワードであったものが並んでいます。

現代の音楽家が、過去の潮流にどのように対峙し、新しい道を切り開いていくのか、ということに関して、これまでのフィディアスの公演でも様々な切り口から取り上げてきました。

今回のvol.11 “In-between”では、それぞれの作品そのものが、過去の音楽や芸術の潮流に存在したスタイルや要素を取り扱っています。それは過去にあった音楽と真っ向から対峙することを意味し、そこから真に新しいものを生み出していく道は、ある意味で狭く険しいものとなるかもしれません。
しかし、過去と未来の「はざま」にあるこれらの作品たちは、ある種のストイックさを感じさせながらも、豊かさ、ピュアな新鮮さを持っていて、音楽というものにまだまだ存在する、未知の深い世界を感じます。

そんな今回の公演のために書いていただいた、夏田昌和さんの新作は必聴です!
12月13日、杉並公会堂にてお待ちしております!
(Phidias Trio)


【公演詳細】


Phidias Trio vol.11 “In-between”

2024年12月13日(金)
19:00開演(18:30開場)
杉並公会堂 小ホール(杉並区上荻1-23-15)
一般3,000円 / 学生2,000円(当日券は各500円増し)


【プログラム】
夏田昌和:Scherzo synchronisé(2024 委嘱新作・初演)
ヴォルフガング・リーム:Gesangsstück (2002)
ホセ・マリア・サンチェス=ベルドゥ:Qasid 3 (2000-2001)
ルイージ・ダラピッコラ:パガニーニのカプリッチョによるカノン風ソナチネ (1942-1943)


 どんな時代にあっても、過去から学ぶべきことは多い。しかし、新しい芸術を生み出すためには、その先の未来に目を向けなければならない。音楽家たちはいつも過去と未来のはざまに立たされることになり、そこに多くの葛藤や格闘が生まれる。だからこそ「今」の音楽たりえるのである。
 今回のフィディアス・トリオの公演 “In-between”=「はざま」では、このことを様々な角度や視点から炙り出す。ヴォルフガング・リーム、ホセ・マリア・サンチェス=ベルドゥ、ルイージ・ダラピッコラの作品に加え、夏田昌和による委嘱新作を初演する。
 彼らはどのように過去の潮流と対峙し、独自の道を見つけていったのか。多種多様なそれぞれの答えは、未来を照らす揺るぎない光となるはずである。


【出演】
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン・ヴィオラ 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳


2017年に結成。これまでの主催公演では、現代の優れたクラリネット三重奏の作品を取り上げるとともに、 オーストリア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、トルコ、韓国、日本の若手作曲家の新作を初演し、 好評を博す。また、ハニャン現代音楽祭(韓国・ソウル)や、日本作曲家協議会主催「日本の作曲 家2021」等、数々のプロジェクトに招聘されている。2021年12月に出演した日本現代音楽協会 主催「ペガサス・コンサート vol.3」の公演の模様は、NHK-FM「現代の音楽」にて、2週に渡って放送された。読売新聞に掲載の「評論家4氏が選ぶ今年の公演ベスト3」にて、2023年の主催公演「Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”」が選出される。
https://phidias-trio.com


お問合せ:
phidias.trio@gmail.com

主催:Phidias Trio



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