ポスト実証主義
実証可能なテーマだけが科学の正義なのか?本稿は学術における実証主義への過度な傾倒に対する懸念を示す。
【実証主義】
知識の対象を経験的事実に限り、その背後に超経験的実在を認めない立場。フランスの哲学者コント(1798-1857)により提唱される。
科学において客観的事実は極めて重要であるのは間違いないが、昨今の科学においてそれは再現可能な実証に基づくことが一般的である。その点で「実証主義」が学術を席巻するのは当然として、再現可能な実証に基づく客観的事実以外を排除する(科学的研究として認めない)態度はいかがなものか?
実証可能性が著しく低い、あるいは無いテーマを軽視する態度は、科学分野の研究者に実証難易度の低いテーマを追求させ、反対に実証難易度が高いテーマを忌避させる傾向を生み出しかねない。実証主義を崇拝する風潮は、科学の偶発的発展(思いもよらぬ形で客観的事実として成立すること)を阻害する側面を持つことを認識しなければならない。
そういった側面を特に考慮すべき分野の一つが災害科学である。例えば、ある対策についてその効果を事前に検証できない場合、実証主義的態度はそのような対策を軽視し、科学的根拠のない対策として実施されづらい。発災後に検証できるようになった、つまり実施していれば学術的成果を得られたとしても、実証主義的態度によって阻害された対策が事後においても検証されることはない。結果として、事前に効果を検証できない対策をテーマとした研究が進展することはない。再現可能な実証のみを重視する実証主義的態度は学術的価値と社会的意義を乖離させかねないのである。