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日記#12 常武鉄道の電車史①
常武鉄道の電車についてその設定と意図を語りたい。
初回は通史を語り、次回以降に各形式の紹介を行っていく。
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まず前提として常武鉄道は直流電化、交流電化、非電化という三つの動力方式を有しており、更に通勤型、近郊型、急行型、特急型、機関車という5種類の車両を有している。そのため車両の分類は動力、車種の二象限で見る必要がある。「電車史」で扱うのは「直流」と「交直流」の車両である。常武にはこのように様々なタイプの車両が在籍しているため、どのタイプの車両に投資の力点を置くのかは社内政治でしばしば争点になっている。このような事情を念頭に置きながら電車史を見ていただけると、より理解が深まるはずだ。
通史
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常武の電車史は1955年から始まる。戦前から電化されていることの多い他の私鉄に比べると遅いスタートとなったが、お陰で新性能車のみで運用を組むことができたのはアドバンテージだ。新性能車とはカルダン駆動方式と全鋼製車体を採用した車両のことを指す用語で、この二つの技術が電車の性能、接客を大幅に引き上げた。それ故、カルダン駆動、全鋼製車以後の電車を新性能車、以前の電車を旧性能車と呼んで分類しているのだ。
電車運転開始から1970年代までは、未曽有の勢いで増える沿線人口に対応すべく四扉の通勤型の大量投入が続く。中でも特徴となったのは通勤電車の冷房化率を100%とする取り組みだ。当時鉄道車両用の冷房はまだ普及の途上にあり、新型車両でも非冷房が当たり前の時代であったが、常武は全ての車両を冷房つきとした。これも新性能車のみで運用が成り立つ状況だからこそできたと言える。
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1973年に第四次中東戦争が発生すると、中東産油国が原油の価格決定権を強め、世界的な原油価格の高騰が起こった。いわゆる石油危機である。さて、石油危機によって常武の動力近代化計画は変更を迫られた。もともと全線非電化開業し蒸気機関車が主役だった常武だが、終戦以降は石炭から電気、石油動力にシフトする方針となり、1951年に第一次動力近代化計画が打ち出された。電化についてもこの計画に基づいて行われているが、この時点で想定されていたのは直流電化が可能な上野-龍ヶ崎間を電化、それより先は非電化のまま、ディーゼル車を導入するというものだった。実際、電化と並行して気動車やディーゼル機関車の開発も進められ、1970年代になると蒸気機関車に変わってディーゼル機関車が幅を利かせるようになった。しかし石油危機で原油価格が高騰すると、軽油を大量に消費するディーゼル車は経営を圧迫するようになり、代替が要請されたのだ。
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ディーゼルに代わって採用されたのは交流電化方式による電化である。
日本にとって交流電化は戦後に実用化の進んだ新しい技術であった。
交流電化以前の時代、常武線における電化可能範囲は龍ヶ崎より南に限られていた。それは沿線の柿岡地磁気観測所の観測作業に影響を及ぼすため直流電化が禁じられている特殊な事情によるものだったが、交流電化が実用可能になって以降は電化も選択肢に入るようになったのだ。こうして1976年から常武本線の交流電化が始まり、78年に水戸まで電化が完了した。
交流電化の完成によって常武の電車史は新たな局面に入った。それまでの直流型電車に加えて交直流型が登場し、東京近郊・通勤輸送に限られていた電車の活躍は土浦、水戸に至る長距離輸送にも広がった。その結果ディーゼル機関車は常武本線の主力から撤退し、非電化支線区への直通列車に転用されていくことになった。この時点で輸送の主役が機関車を用いる動力集中式から、Multiple Unitによるに動力分散式に代わったから、常武にもようやく電車の時代が到来したと言えるだろう。
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第一次動力近代化計画は石油危機を受けて修正が必要になり、1974年には早くも第二次動力近代化計画が策定された。第二次計画では常武本線、鹿島線、筑波線、太田線、大子線を交流電化する手はずとなっていたが、常武本線の電化が完了すると想定を超えた支出が明らかになり、計画は下方修正を繰り返すようになる。交流電化は設備を安価で整備できる側面もあるが、交直流電車は部品が高価で全体的には高くつく、そのため、広大な常武線を全て電化することは現実的でないことが徐々に明らかになっていったのだ。結局、今日まで常武本線以外の電化は行われなかった。このような経緯を経て直流電車、交直流電車、気動車の三種類が割拠する現在の常武鉄道が形作られたのである。
1980年代から1990年代は旧さと新しさの混じり合った時代である。
この時期を通じて常武は三つの大事業を行った。はじめに千葉ニュータウン延伸、次に東京駅乗り入れ、そして成田空港乗り入れである。
三つの事業を通じて常武鉄道は在京私鉄で唯一東京駅への乗り入れる私鉄となり、また成田空港への空港連絡鉄道としての役目も果たすことになった。三つの事業に並行して常武本線の複々線化と客車列車の置き換えが行われ、ダイヤの密度がより高密度化した。また空港輸送への参入は常武本線の高速化を促した。従来から、直線的な線形で高速志向の常武本線であったが、成田空港乗り入れを開始した1991年からは最高時速130km運転を開始した。130km運転は私鉄で初の試みであり全国の在来線として見てもJR常磐線に次いで二番目の事例である。更に、2000年からは西白井-成田空港間で160km運転も開始した。在来線における160km運転は常武と北越急行の二事例のみである。このように80~90年代は路線の拡大とスペックの向上が同時に進んだ変革期といえるだろう。
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拡大路線を採った常武であるが、同時に衰退も迎えていた。まず、千葉ニュータウンの開発は居住者が想定の40%程度に留まり、端的に言って失敗した。ニュータウン事業に多額の投資をしていた常武として、これは痛手であった。更に茨城県や鹿島地域ではモータリゼーションが進行しており、常武線はマイカーやバスとの競合に後れを取って利用者が低下していたのだ。それまで沿線一帯の移動を独占していた常武は不採算路線を抱えながらどのように経営するかという新たな問題に直面したのである。
こうした経営課題の影響で車両の更新頻度は低下し、旧型車の置き換えまで手が回らなくなった。とはいえ常武の電車は前述のとおり全車が新性能車かつ冷房車で統一されていたため、接客面では旧型車と新型車に大きな差が生まれなかった。これは短期的には車両の置き換えを先延ばしにできる点で有利であったが、2000年代に入ると古い電車を延々と使い続けていることに利用者が違和感を持ち始め、企業イメージを低下させる原因に繋がってしまった。
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21世紀の常武は過去20年間に生じた問題の解消が焦点となった。電車の面では1970年代以前に製造された電車の置き換えを本格的に開始したほか、それまでの赤を基調としたコーポレート・アイデンティティを改め、新たに青基調の新デザインを採用した。新カラーは新型車に限らずほぼすべての車両に施行され、「古臭い」「暗い」といったマイナスイメージの払しょくに力が注がれた。昨今はインバウンドの増加に伴って空港輸送が好調であり、電車に対しても多言語案内、ラゲッジスペースの設置など訪日外国人向けの設備投資が行われている。
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