保存期の糖尿病性腎症患者への中薬は長期転帰と関連しますか
はじめに
慢性腎臓病(CKD)は、併存疾患および死亡率の高さから、世界的な負担となっています(Bikbovら) 。CKDは症候群と考えられており、様々な病因に起因する可能性があります(Vallonと Komers、2011)。糖尿病性腎症はCKDの主要な原因の一つであり、CKD患者の20~30%を占めています(SoldatosとCooper、2008)。2010年のU.S. Renal Data Systemの報告によると、糖尿病患者10,000人あたり、毎年20人の患者が末期腎不全(ESRD)と診断されています(Greggら)。 一方、保存期はESRD発症前の最も重要な段階の1つです(Singhalら、2014)。それにもかかわらず、保存期のCKD患者に対する安全性や有益性については、RAS阻害薬やケトアナログ系サプリメントなど、一部の薬剤しか研究されていません(Wuら、 2013; Liら、 2019a)。保存期の糖尿病性腎症患者に関する情報は、はるかに少ないものです。
一方、中薬、鍼治療、または推拿を含む中医学の使用は、台湾を含むアジアの集団では珍しくありませんが、保存期のCKD患者に中薬が使用出来るかどうかは依然として不明です。ほとんどの臨床研究や臨床試験で、中医学の使用はCKD患者に有益である可能性が示されていますが、特定の段階や長期的な転帰に関する情報が不足していました(Chenら)。 これまでの研究では、中薬が腎機能を改善し、腎代替療法の開始時期を遅らせるのに有用である可能性が証明されています。例えば、6種類の生薬を含む煎剤である六味地黄丸は、2型糖尿病患者の腎不全発症を1年遅らせました(Hsuら )。
中薬はESRD発症前のCKD患者において腎保護作用を有する可能性があることが示唆されています(Linら、2015)。また、病院データに基づく分析では、加味逍遙散と補陽還五湯がCKD患者に処方される煎剤の上位2つであり、腎機能低下を安定化させることができると結論づけています(Yangら、2014;Chenら、2018)。さらに、9つのデータベースから2,719人の患者を対象とした20の研究を含む系統的レビューとメタアナリシスの研究では、中薬の使用下でアルブミン尿が改善し、RAS阻害薬とともに中薬を使用することで推算糸球体濾過量(eGFR)が向上することが示されていますが、長期転帰は分析されていません(Zhangら、2019)。
著者らは以前、保存期糖尿病性腎症患者に中薬が使用出来るかどうかは不明であるものの、すべての糖尿病性腎症患者において中医学治療がより良い転帰と関連する可能性があることを報告しています(Chenら)。 今回紹介する研究は、全死亡やESRDの発生など、保存期糖尿病性腎症患者の長期転帰と中薬の使用との関連を評価することを目的としています。加えて、保存期糖尿病性腎症患者に処方された処方を分析し、これらの患者に使用されたコア中薬を明らかにしています。
エビデンス
保存期の糖尿病性腎症患者における中薬使用と長期転帰との関連: レトロスペクティブ集団ベースコホート研究
【背景】慢性腎臓病は、合併症が多く死亡率が高いために世界的な負担となっている。糖尿病性腎症はCKDの主要な原因の一つであり、保存期は末期腎不全に至る前の最も重要な段階の一つである。一般的に中薬の使用は珍しくないが、保存期の糖尿病性腎症患者に中薬が使用出来るかどうかは依然として不明である。
【材料と方法】2004年1月1日から2007年12月31日までの間に発生した保存期の糖尿病性腎症患者における中薬使用の長期転帰を研究するために、台湾の国民健康保険研究データベースから検索した人口ベースのコホートを分析した。全患者を5年または死亡発生まで追跡した。死亡およびESRDのリスクの推定は、それぞれCox比例ハザードモデルおよび競合リスクモデルを用いて行った。さらに、中薬ネットワーク分析を用いて中薬処方とコア中薬を実証した。
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