第10章: 狂い始めた時の歪み
カズマたちデータガーディアンズは、不正アクセスやデータ改ざん問題に取り組む中で、予想外の異常に気づき始めていた。治験に使用している複数の端末で、収集されたデータのタイムスタンプにズレが生じていたのだ。初めは端末のバッテリーが不安定なための誤動作だと考えられていたが、その頻度やタイミングが不自然に一致していたため、単なる技術的問題とは思えなかった。
「見て、この患者の記録は本来朝の9時に行われたはずなのに、なぜか12時間ずれている。しかもこのタイムスタンプは未来の日付だ。」
ハルカが目を見開いて言った。
「これは単なるバッテリー切れでは説明できない。端末が一斉にこういったエラーを起こすことなんて、普通あり得ないだろう。」
カズマは冷や汗をかきながら、端末ログのタイムスタンプを慎重に確認した。
「しかも、このズレは1台や2台ではなく、特定の時間帯に発生している。端末自体の問題ではなく、システムのタイムスタンプ管理が何者かに操作されているのではないか?」
リョウが険しい表情で言った。
カズマたちは、異常が発生したタイミングをさらに詳しく調査するため、過去数週間のデータログを徹底的に洗い直すことにした。調査を進めるうちに、異常が発生したのは、端末の電力消費の激しいタイミングやデータの集中送信が行われている時期と一致していることが判明した。
「これは…誰かがこの時間帯を狙って、端末のタイムスタンプを操作している可能性が高い。データの収集が正確に行われているという信頼を揺るがそうとしているのかもしれない。」
カズマは言葉に緊張をにじませた。
データ改ざんだけでなく、タイムスタンプのズレによって治験データの信頼性が損なわれることは、試験全体の結果を不確実なものにする。カズマたちは、このタイムスタンプのズレが単なる技術的な問題ではなく、黒幕が試験を破壊するために仕掛けた最後の罠だと確信した。
「どうやら、黒幕は私たちのデータ収集システムを攻撃するために、端末の一時的な電力不足や故障を利用しているようだ。」
エリカがログを詳細に分析しながら言った。
「このままでは、治験結果そのものが無効になりかねない。」
タカが息を呑みながら続けた。
カズマは鋭い眼差しでメンバーたちを見回し、意を決した。
「私たちがやるべきことは、すべての端末とシステムを再確認し、試験データの完全性を確保することだ。タイムスタンプの不正を阻止するための対策を緊急に施さなければならない。」
カズマたちは、異常が発生した特定の端末に対して、エラー防止プログラムを導入することを決定した。また、データ収集のタイミングを監視し、端末のバッテリー状態やタイムスタンプが異常を示した場合は、即座に警告を出す仕組みを強化した。
さらに、リョウが提案した方法で、タイムスタンプがずれる可能性のあるデータセットをすべて洗い出し、異常が発生していないかを調査することにした。エリカとハルカは、システムに組み込まれた監査証跡を見直し、どのタイミングで誰がアクセスしているのかをリアルタイムで追跡できるよう設定を強化した。
「これで準備は整ったわね。」エリカが力強く言った。
しかし、カズマたちは未だ見ぬ黒幕の存在に対する不安を拭い去れないでいた。端末のタイムスタンプを操り、システムを混乱に陥れた謎の人物。彼の目的は一体何なのか、そして最終的に治験データをどう扱おうとしているのか。
「最終決戦が近い。彼らがどんな手段で攻撃してこようと、こちらも全力で立ち向かう覚悟だ。」
カズマは静かに決意を固めた。
コラム: タイムスタンプの重要性と不具合への対策
臨床試験データの信頼性確保には、タイムスタンプの正確性が欠かせません。しかし、端末のバッテリー切れや技術的な不具合が、データのタイムスタンプに関わるエラーを引き起こす可能性があります。これにより、データが意図せず未来の日付で記録されたり、逆に時間が巻き戻されたりすることなどがあり、試験結果に重大な影響を与えかねません。
こうしたリスクに対処するためには、以下の方法が有効です:
1. バッテリーモニタリングの導入
端末のバッテリー状況を常に監視し、電力が低下した際に自動的にアラートを出すシステムを導入することで、タイムスタンプの異常が発生する前に対処できます。
2. リアルタイムのデータ転送チェック
データがシステムに入力される際、転送元端末のタイムスタンプと受信側のシステム時間を自動で照合し、異常があれば即座に警告を出すことで、データの信頼性を確保します。
3. 監査証跡の活用
監査証跡により、データが入力されたタイミングや誰が操作を行ったかの記録を追跡し、タイムスタンプが改ざんされた場合に迅速に対応できる体制を整えます。
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