第3章:最初の一歩
次の日、教室に入ると、いつもと変わらず賑やかな雰囲気が広がっていた。クラスメートたちはそれぞれのグループで話し、笑い合っている。大輝は自分の席に急ぎ、内心の不安と戦いながら深呼吸をした。
(誰かに話しかけないと…でも、無視されたり変な目で見られたりしたらどうしよう)
一瞬、そんな考えが浮かんでくる。だがすぐに、大輝は頭を振ってその思考を追い払った。これは他人の課題だ。自分ができることは話しかけることだけであり、相手がどう反応するかはその人の問題だ。
(自分の課題に集中しよう)
隣の席に座っている伊藤さんが、机の上でノートを開いているのが目に入った。彼女とはあまり話したことがないが、ここで一歩踏み出さないと何も変わらない。
大輝は意を決して、小さな声で話しかけた。
「伊藤さん、おはよう。」
伊藤さんは顔を上げ、大輝を見た。普段は黙って席に座る大輝の挨拶に、少し驚いた表情を見せたものの、すぐに自然な微笑みを浮かべて返事をしてくれた。
「あ、おはよう、田中君。今日は早いね。」
その瞬間、大輝は胸の中で不安が溶けるような感覚を覚えた。自分の行動が認められたような安心感が広がる。しかし、その安堵も一瞬だ。すぐに大輝は、また他人の反応を気にし始めてしまう自分に気づいた。
(このまま会話を続けたほうがいいのか?それとも黙っていたほうがいいのか…)
心の中で葛藤が渦巻く。しかし、相手の反応を気にしすぎるのは、自分の課題を見失っている証拠だ。
(自分の課題はただ話しかけることだった。それはもう達成したんだから、相手の反応に執着しなくていい)
「うん、今日はちょっと早く来たんだ。」
大輝は自然な感じで話を切り上げ、自分の課題を終えたことに満足感を覚えた。伊藤さんがどう感じるか、それは彼女の課題だ。大輝にとって重要なのは、初めて自分の意志で話しかけるという行動を取ったことだ。
休み時間が来ると、大輝は再び考えた。次はもう少し積極的に行動してみよう。自分の行動に焦点を合わせ、他人の反応を過度に気にしないようにしようと心に決めた。
休み時間、大輝は周囲を見渡し、少し離れたところで友だちと話している佐藤君たちのグループに目を向けた。いつもなら、ただ黙って時間が過ぎるのを待つところだが、今日は違う。大輝は自分に言い聞かせながら、一歩踏み出した。
(佐藤君たちに話しかけることが自分の課題。相手がどう思うかは、彼らの課題だ)
「佐藤君、何話してんの?」
大輝が声をかけると、佐藤君は振り向いて笑顔を見せた。
「おお、田中じゃん。昨日のサッカーの試合の話してたんだよ、お前、見た?」
会話は自然に始まった。以前の大輝なら、自分がどう思われているかばかりを気にして緊張していたはずだが、今日は違う。他人の反応をコントロールしようとせず、自分の行動に責任を持つことができた。
その夜、大輝は図書館で借りてきたアドラー心理学の本を開いた。実践することで「課題の分離」の重要性が理解できた気がした。他人の反応を気にせず、自分の課題に集中することで、少しずつ周囲との関係性が変わり始める予感を感じることができた。
コラム:課題の分離チェックリスト
「課題の分離」を実践するために、以下のチェックリストを使って、自分がどれだけ他人と自分の課題を分けて行動できているか確認してみましょう。
他人の反応に執着していないか?
他人がどう感じるか、どう思うかはその人の課題です。自分の課題は行動することです。自分の目標に集中しているか?
他人の期待や評価に振り回されず、今自分が何をすべきかを意識していますか?他人の問題を引き受けていないか?
他人の問題に過剰に巻き込まれていませんか?その人の課題を自分が解決しようとしていませんか?行動に対して自信を持てているか?
他人の反応に怯えることなく、自分の行動に責任を持ち、自信を持って取り組めていますか?感情に左右されていないか?
不安や恐れに押し流されず、冷静に自分の課題に集中して行動できていますか?
このチェックリストを使って、日常の中で「課題の分離」を意識し、他人の課題と自分の課題をしっかり分ける習慣をつけていきましょう。それによって、余計なストレスから解放され、より充実した日々を送ることができるはずです。
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