Zymotによる精子選別が胚盤胞期における染色体正常率に影響するか?


論文

Godiwala P et al. The impact of microfluidics sperm processing on blastocyst euploidy rates compared with density gradient centrifugation: a sibling oocyte double-blinded prospective randomized clinical trial. Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):85-94.

要旨

胚の異数性は主に卵子に起因するとされていますが、近年、精子の染色体異常やDNA損傷も胚の発育不良や異数性の原因と考えられています。そのため、より高品質な精子の選別が胚の異数性改善に寄与する可能性があります。本研究では、体外受精における精子選別法「ZyMōt」「密度勾配遠心分離法」の胚盤胞期における染色体正常率を比較調査しました。

ZyMōtは、流体力学を利用して運動性の高い精子を選別する技術であり、これにより精子のDNA損傷を低減できるとされています。本研究の目的は、ZyMōtが従来の密度勾配遠心分離法と比較して胚の染色体正常率を向上させるかを検証することです。

Zymotとは

ZyMōt Sperm Separatorは、精子の運動性と特殊なフィルターを用いて、質の高い精子を短時間で回収する技術です。この方法では、通常の遠心分離を用いた密度勾配遠心法に比べ、精子への物理的ダメージが少なく、精子DNAの断片化を抑えることが可能と言われています。従来の方法では、遠心分離の衝撃により精子のDNAが損傷することがありましたが、ZyMōtではフィルターを精子が自ら泳いで通過することで、運動性の高い良好精子のみが選別されます。
精子調整のプロセスもシンプルで、精液と培養液をZyMōtプレートにセットし、37℃のインキュベーターで30分間保管するだけで、運動良好な精子が回収チャンバーに集まります。この手法により、胚発育や着床率、妊娠率が向上するデータも報告されており、活性酸素や白血球によるDNA損傷リスクも低減できるため、より質の高い精子を得たい場合に有用です。ただし、回収される精子量が従来法より少ない場合があるため、体外受精から顕微授精が必要になることもあります。

方法

対象は18~42歳の女性で、IVFの治療サイクルを受け、PGT-Aを行った患者です。各患者の精子はZyMōtと密度勾配遠心分離法の二つに分け、卵子を同じ患者内で無作為に割り当てました。主な評価項目は、胚盤胞期における染色体正常率とし、受精率、凍結胚数、高品質胚の割合などを評価しました。

結果

胚盤胞期における染色体正常率はZyMōt処理群と密度勾配遠心分離法群の間で有意な差は見られませんでした(ZyMōt : 密度勾配遠心分離 = 53.0% : 45.7%)。
ただし、受精率はZyMōt群で有意に高く(ZyMōt : 密度勾配遠心分離 = 76.0% : 69.9%)、精子の運動性や濃度が改善されることが示唆されました。また、凍結胚数(ZyMōt : 密度勾配遠心分離 = 2.5 : 2.8)、胚の高品質化率(ZyMōt : 密度勾配遠心分離 = 38.1% : 39.4%)についても両群間で有意差は認められませんでした。

まとめ

本研究では、ZyMōt処理によって精子の受精率が向上する一方で、胚の染色体正常率に関しては従来の方法と変わりがないことが示されました。以前の研究では、ZyMōt処理が精子のDNA損傷を減少させ、胚の染色体数異常の減少に役立つ可能性が指摘されていましたが、本研究ではその効果は確認されませんでした。
本研究の残念な点として、染色体の解析手法として、胚盤胞期の染色体を調べています。胚盤胞では、母体側の染色体異常もありますので、精子側の影響は減少してしますのではないでしょうか?染色体正常率の比較は、選別後の精子で調べて欲しかったです。精子の染色体解析は、WGA時のCell Lysisのステップで、通常の方法とは異なり、少しmodifyすることで精子の染色体を調べることはできます。
また最近の論文では、マウス初期胚で、(おそらくDNA損傷があるために)複製遅延が発生した箇所で、染色体分配異常が引き起こされることを報告しています。もしかしたら、ZyMōtの選別により、DNA損傷の多い精子の受精を開始できれば、モザイク染色体異常率は減少するかもしれません。今回の論文では、モザイク染色異常率は(ZyMōt : 密度勾配遠心分離 = 3.5% : 5.3%)でした。今後、大規模研究が実施されれば、このような事象も明らかになっていくことを期待しています。

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