複雑な染色体構造異常に対するPGT-SR
論文
要旨
複雑な染色体構造異常(CCR: Complex Chromosomal Rearrangements)は3箇所以上の切断点を持つ染色体構造異常で、CCR保因者に対しても染色体転座や腕間逆位と同様にPGT-SRが適用されますが、データは限られています。本研究は、CCR保因者におけるPGT-SRの臨床結果を評価しました。
方法
15組のCCR保因者が本研究に参加しました。女性保因者が9名で自然流産や誘発流産を経験していました。男性保因者は6名で、そのうち3名が乏精子症と診断され、残りの男性は正常な精子パラメーターを示しました。またPubMedに報告されているCCR保因者を対象としたPGT-SR研究のデータを収集しました。PGT-SRの効果について、女性の年齢(35歳未満または35歳以上)、生検時期(3日目または5/6日目)、CCRのタイプ(タイプA, B, C, 下図参照)、保因者の性別で評価しました。
結果
15例で合計337個の卵子が採取され、そのうち300個(89.0%)が受精可能でした。230個(76.7%)が2PNに発育し、そのうち100個の胚盤胞(44.6%)が5/6日目に生検とPGT-SRに適した状態となりました。タイプA、B、Cそれぞれの2PNの割合は、74.5%(35/47)、79.2%(103/130)、74.8%(92/123)であり、これらの間に有意な差は見られませんでした(χ2 = 0.85, p = 0.655)。同様に、胚盤胞形成率にも有意差はありませんでした(タイプA: 59.4%、タイプB: 40.0%、タイプC: 44.6%、χ2 = 3.68, p = 0.159)。PGT-SRの結果、16.0%(16/100)が均衡型または正常型、79.0%(79/100)が異数性、5.0%(5/100)がモザイク胚と診断されました。正常胚盤胞の割合は、タイプAで最も高く26.3%(5/19)、次いでタイプCが17.1%(7/41)で、タイプBは最も低く10.0%(4/40)でした。しかし、これらの間に統計的に有意な差はありませんでした(χ2 = 2.61, p = 0.271)。正常胚移植後の出生率は63.6%で、モザイク胚の場合は100%でした。
まとめ
著者の所属先では、PGT-SRを受けた患者の1.9%(15/793)がCCR保因者でした。これまで、PGT-SRを受けるCCR保因者の割合は報告されていませんでしたが、この割合は予想以上である可能性があります。本研究と文献から得られたデータを用いて、分析を行った結果、CCR保因者が正常胚を得る確率は10.8%であり、一般的な染色体転座保因者の正常胚の割合(26.8%)よりも有意に低いことが明らかになりました。またCCRのタイプ(タイプB)と保因者の性別(女性)が正常胚の割合を減少させる独立したリスク要因であることが示されました(下表参照)。
CCRをタイプ別に分類することが適切かは不明ですが、CCRのPGT-STのデータは不明ですので、本論文により得られた知見、特に正常胚率などは、複雑な染色体構造異常症例のPGT-SR時の遺伝カウンセリングと臨床管理を最適化するのに役立つことでしょう。