妊娠初期流産における染色体異常率
論文
要旨
これまでにも流産に関する記事は書いてきましたが、今回の論文は流産におけるモザイク異常を詳細に解析しています。本研究では、1,745例の自然流産をGバンドで染色体を解析し、妊娠産物の約半数(50.4%)に染色体異常を持つことがわかりました。Gバンドで染色体正常であった94例の症例に対しNGSを用いたコピー数解析とSNP遺伝子型解析を実施しました。これらの症例のうち、35.1%にGバンドでは検出されなかった染色体異常が認められ、染色体異常率は67.8%に増加しました。また胎盤モザイクのように、モザイク染色体異常が絨毛に限定されることが多い妊娠中におけるモザイク染色体異常とは対照的に、流産症例では絨毛よりもむしろ胚外中胚葉にモザイク染色体異常が多いことを発見しました。
結果
通常のGバンド染色体解析では、1745件の流産症例のうち879件(50.4%)で染色体異常が認められました。染色体異常の内訳をみますと、常染色体トリソミーが最も多く、次いで倍数体、性染色体数的異常(おそらく45X)となっていました。常染色体の染色体異常のなかで、最も多いのが16番染色体異常で、この傾向は以前の報告と一致するものでした。ただし今回は次いで7番染色体の異常が多く、これまでの報告では21番や22番の異常が多くなる傾向とは異なる結果を示していました。また母体年齢が高くなるほど染色体異常率が高くなることは周知の事実でして、本研究でも同様の傾向を示しておりましたが、父親の年齢も高くなるほど染色体異常率が高くなることを示しました。
Gバンドでは染色体正常を示した症例に対して、NGSを用いたコピー数解析とSNP遺伝子型解析を両親、絨毛、胚外中胚葉で行いました。その結果、94件のうち33件(35.1%)にGバンドでは検出されていなかった染色体異常が見つかり、流産症例の約67.8%に染色体異常が見つかりました。
追加で解析した33件の症例のうち、胚外中胚葉と絨毛の異常細胞の割合に10%以上のモザイク率の差がある症例では、胚外中胚葉は絨毛に比べてモザイク率が高いことが示されました。モザイク染色体異常が一般的には絨毛組織に限定される生存妊娠とは異なる結果です。10%以上のモザイク率の差がある症例のうち、モザイク異常の原因は、受精後の体細胞分裂に起因するものが7例、受精前の減数分裂異常に起因するものが2例でした。
まとめ
流産症例において染色体解析を行うのは、流産の原因を知る上で重要なことだと思いますが、従来のGバンドでは検出のできない症例がこんなに多く存在することを示したのは非常に重要だと思います。ESHREのガイドラインに従来のGバンド分析の限界を確認し、NGSによる検査を探求する今後の研究の重要性について述べています。
おまけ
この論文のDiscussionに、「The conventional cytogenetic methods, including microarrays, are unable to distinguish the meiotic and mitotic origins of genomic aberrations and detect low-level mosaicism. 」と書いてありますが、これは誤りだと思います。例えばイルミナ社のアレイでしたら、モザイク率10%程までなら検出できますし、Thermoのアレイもモザイク率20%程は検出できます。またモザイク染色体異常の起源(第1減数分裂由来、第2減数分裂由来、体細胞分裂由来)はSNPアレイで検出可能です。私はこの論文で勉強しました。モザイク染色体異常が減数分裂由来の場合ですと、染色体異常を持たない正常細胞はUPD(Uniparental Disomy)の可能性もあるので、モザイク染色体異常の起源を知ることは重要かもしれません。