PGT後に出生前診断は必要?
参考論文
着床前胚染色体異数体検査における胚診断指針
Preimplantation Genetic Testing: ACOG Committee Opinion, Number 799. Obstet Gynecol. 2020 Mar;135(3):e133-e137.
ESHRE PGT Consortium Steering Committee; Carvalho F et al. ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the organisation of PGT. Hum Reprod Open. 2020 May 29;2020(3):hoaa021.
先日、「PGT-Aにおけるモザイク胚の管理」というタイトルでnoteに記事を書きました。その中でモザイク胚を移植する際の出生前診断は、ほぼ全ての学会の見解では羊水穿刺による出生前診断を推奨しています。では、正常胚移植した場合のような、一般的なPGTでは出生前診断は不要なのでしょうか?今回は日本の「着床前胚染色体異数体検査における胚診断指針」、ACOGの「Preimplantation Genetic Testing: ACOG Committee Opinion, Number 799」、ESHREの「ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the organisation of PGT」の見解/勧告をまとめて比較してみたいと思います。
着床前胚染色体異数体検査における胚診断指針
まず胚診断指針ですが、「出生前検査を受けられるご夫婦が心配しておられる染色体の変化は、すでに PGT-Aによって一定の確率で除外されていると考えられるため、自然流産の時期を乗り越えれば、出生前診断としての胎児染色体検査を行う意義は少なくなっていると考えられます。」、また「PGT-Aを経て妊娠が成立したあとは、通常の妊婦健診において超音波検査等で胎児の発育状況を確認し、万が一胎児がなんらかの異常所見を示した場合には出生前検査も検討するという一般的な対応で十分と考えます。不安が強いご夫婦に対しては、別途出生前遺伝カウンセリングをお勧めします。」とあり、PGT-A後の出生前診断は一般的な対応に留まりどうしても不安に感じる方のみに勧めています。
モザイク胚移植後の出生前診断については、「移植した胚のPGT-Aのデータによっては、G分染法で観察する細胞数を増やして低頻度モザイクの有無を分析することを希望される場合もありますが、低頻度モザイクは胎児の表現型に影響しないことが多いと考えられています。また、移植胚によってはSNPアレイによる片親性ダイソミーの有無の検討が考慮される場合がありますが、海外の大規模な研究データでは異数性モザイク胚の移植で片親性ダイソミーの発生は報告されていません。」とあり、モザイク胚移植後も特に出生前診断を推奨することはないようです。
ACOG Committee Opinion
次にACOGでは、PGTをPGT-A, PGT-SR, PGT-Mと分けて考えており。PGT-MやPGT-SRでは、「Confirmation of PGT-M(SR) results with chorionic villus sampling (CVS) or amniocentesis should be offered.」とPGT-MやPGT-SRの結果を絨毛や羊水を用いた修正前診断で確認することが推奨されています。一方で、PGT-Aでは、「Traditional diagnostic testing or screening for aneuploidy should be offered to all patients who have had preimplantation genetic testing-aneuploidy, in accordance with recommendations for all pregnant patients.」とあり、PGT-A後の出生前診断は、自然妊娠やnon-PGT-Aの妊婦の方と同様に、超音波検査や血清マーカー、NIPT、羊水、絨毛検査などの出生前診断の情報を提供すべきとあります。
ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the organisation of PGT
最後にESHREでは、「Prenatal diagnosis should be offered to all women who become pregnant following PGT. The discussion about the tests available should be undertaken by a suitably qualified professional to ensure that all available options are presented, including prenatal invasive diagnostic tests, such as chorionic villus sampling and amniocentesis, and prenatal non-invasive diagnostic or screening tests, such as ultrasound scanning or cell-free foetal DNA testing (NIPT screening for aneuploidies or NIPD diagnosis for monogenic disorders and sexing).」とあり、出生前診断は、PGT後に妊娠したすべての女性に出生間診断の情報を提供するべきで、資格を有する専門家が利用可能な全ての検査法から最適な検査方法を提示し、実施しなければならない。とあります。
このようにACOGやESHREでは、出生前診断はPGTを受けた全ての患者に、情報を提供すべきとあります。一方で日本では、超音波検査等で胎児の発育状況を確認しつつ、不安が強いご夫婦に対しては、別途出生前遺伝カウンセリングをお勧めしますとあります。各学会などで考え方が異なるために、異なる指針が提示されているのだと思います。
また「Aneuploidy screening after preimplantation genetic testing: a national survey of physician knowledge and practice: PGT-A後の出生前診断:アメリカでの調査結果」という論文では、PGT-A後の出生前診断について、ACOGの勧告の普及率について調査した結果をまとめています。この論文では、合計178施設からアンケートの回答が得られ、集計に用いています。以下に設問とその解答を示していますが、日本でも同様の調査を行って、着床前診断や出生前診断に関わる医療者の回答を見てみたいです。
参考論文
設問1: PGTを利用した患者における出生前診断に関して、ACOGは何を推奨しているか?
67%(n=120)は、PGTの結果に関わらず出生前診断の情報を提供するというACOGの勧告を正しく認識した。
21%(n=38)は、ACOGの勧告が何であるか分からないと回答した。
8%(n=15)は、PGT後の出生前診断について ACOGの勧告はないと回答した。
2%(n=3)は、ACOGは出生前診断は適応されないと回答した。
1%(n=2)は、35歳以上の患者にのみ出生前診断を行うことを推奨していると回答した。
設問2: 出生前診断に関する勧告がPGTとnon-PGTで異なるか?
62%(n=111)は、勧告に違いはないと回答した。
13%(n=23)は、2 つの患者集団の間で勧告が異なると回答した。
25%(n=44)は、 "その他"と答えた。
設問3: PGTを利用した患者に対する出生前診断の情報を提供するか?
66%(n=118)は、PGTを利用した全ての患者に出生前診断の情報を提供していると回答した。
16%(n=29)は、ケースバイケースで出生前診断の情報を提供していると回答した。
5%(n=9)は、PGTを利用した全ての患者に出生前診断の情報を提供しないと回答した。
1%(n=2)は、35歳以上の患者にのみPGTを利用した患者に出生前診断の情報を提供すると回答した。
11%(n=20)は、"その他"と回答した。