モザイク胚:そろそろ報告をやめるべきか?

論文

Campos G. PGT-A mosaicism based on NGS intermediate copy numbers: is it time to stop reporting them? J Assist Reprod Genet. 2023 Dec;40(12):2925-2932.

要旨

モザイク胚は実際に存在しますが、その高い発生率と未解明の臨床的意義は、遺伝カウンセリングとPGT-A結果の管理に負担をもたらします。NGSによる染色体コピー数プロファイルからモザイクを推定することは合理的な解釈かもしれませんが、増幅バイアス、コンタミネーション、生検技術、解析アルゴリズムなど、他の技術的な原因も考慮すべきです。またTE(胎盤側、生検箇所)とICM(胎児側)の一致率を考慮すると、モザイク胚はICMの染色体構成とはあまり相関せず、TE生検の高モザイクでは主にICMでは異数性、TEの低モザイクでは主にICMでは染色体正常が示されることが多いという報告もあります。これはモザイク結果の過大評価を意味します。モザイク判定は不正確で誤解を招く可能性があるため、診断の特異性が向上し、その臨床的意義が明らかになるまで、研究室はモザイクの報告を控え、正常と異常の予測に限定すべきかもしれません。

TE生検を用いた診断の信頼性と限界

TE診断の価値は、生検した細胞が胚全体の染色体構成とどの程度相関しているかに依存します。しかし、胚の初期発達中に生じるモザイク染色体異常は、TE生検による診断は必ずしも胚全体の染色体構成を正確に反映していない可能性があります。しかしながら、モザイク胚はTEと胚との間には低相関となり、TE生検によるモザイク診断は限定的な臨床的価値しか持たないかもしれません。実際にTE生検でPGT-Aを行なった結果、モザイクと診断された胚の再検査では29%が染色体正常、28.4%が染色体異常と診断され、モザイク胚の57.4%が異なる結果を示しという報告もあります。さらなる調査では、高モザイクでは胚の大部分が染色体異常を示す可能性が高く、低モザイクでは、胚の大部分が染色体異常を持たないとされています。

NGSによるPGT-A染色体解析

現在のPGT-Aでは、NGSを用いた解析が主流となっています。NGSは、旧来のaCGHに比べて高い解像度を持ちますが、生検や全ゲノム増幅の過程の問題により、シグナルと技術的ノイズを区別することが困難になることがあります。染色体正常と異数性の間のカットオフ値が設定されており、染色体コピー数がその間にプロットされる場合、モザイクと診断されます。モザイクの発生率は一般に5-15%と言われていますが、クリニック間や解析施設間での変動が大きいと報告されています。

モザイクカットオフ値

モザイクのカットオフ値は、染色体正常と異数性の間の技術的ノイズを基に設定されており、これらの閾値の設定はモザイクの発生率に大きな影響を与えます。多くの検査機関では20-80%の範囲で設定されていますが、より30-70%のカットオフ値を採用する検査機関もあります。20-80%のカットオフ値を使用すると、染色体正常と異数性の胚をモザイクとして判定されることがあります。実際に20-80%のカットオフ値を使用するとモザイク率は40.2%と高く、30-70%のカットオフ値では20.2%となり、20-80%のカットオフ値では、全体的にモザイク率は高くなりました。しかしながら再生検の結果、同じようにモザイクと判定される胚は非常に少なく、偽陽性モザイクが57.8%から79.5%へと増加するため、20-80%をカットオフ値とする利益は少ないように思えます。では、50%カットオフ値(モザイクを報告せず、正常胚と異数性胚のみ判定)にするとどうなるでしょうか?特異性は50%カットオフ値が98.2%、30-70%のカットオフ値では81.9%、20-80%のカットオフ値では54.5%となりましたが、感度はわずかに増加するにすぎません(それぞれ94%、97.7%、98.2%)。この結果から、50%カットオフ値の判定は、臨床的に不利な結果を持つ可能性が高い異数性を正確に判定するには優れた方法であることを示しています。

まとめ

モザイク胚は確かに実在する現象ですが、しかし、NGSプロファイルでの推測されるモザイク診断の実際の影響とその臨床的関連性は不明確であり、困難なデータ解釈と臨床管理につながっています。モザイクの診断は、胚本体は染色体正常または異数性である可能性が高いにもかかわらず、胚を低モザイクや高モザイクと分類する不正確な仮定に基づいています。モザイクの過剰診断は、真の正常または異数性の胚の誤分類につながります。モザイク胚の移植は、新生児の先天異常の頻度を高めるかどうかについての懸念がありますが、これまでの研究では、モザイク胚移植後の妊娠で確認されるモザイク染色体異常は非常に低いことが報告されています。知る限りこれらの2報(1, 2)だけです。実際、PGT-Aを行わない「盲目的な」胚移植の結果、IVFからの妊娠でモザイクが自然妊娠よりも一般的であるという証拠はありません。モザイク胚の診断は、観察されるだけでなく、その明らかな臨床的重要性のために報告されるべきです。患者は情報を知る権利があると主張されるかもしれませんが、臨床的価値がほとんどないデータを共有することは、専門家の間で混乱を引き起こし、その管理に苦労し、健康な胚の廃棄や、追加の遺伝カウンセリング後の意思決定に伴う不安や不必要な出生前検査のリスクなど、患者に不利な影響を及ぼしかねません。
この論文の著者は、PGT-Aによるモザイク診断は、臨床的な意義が不明確であり、出生に至る正常な胚の排除につながる可能性があるため、報告をやめるべき時期が来ている可能性があるという主張をしています。PGT-Aにおけるモザイク診断の現状とその問題点を詳しく分析し、今後の研究と臨床的適用における方向性を示唆しています。

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