均衡転座保因者におけるPGT-SRの有用性

参照論文

Yamazaki et al. Preimplantation genetic testing using comprehensive genomic copy number analysis is beneficial for balanced translocation carriers. J Hum Genet. 2023 Oct 23.

要旨

均衡型染色体転座は染色体構造異常の1つで、一般集団の0.212-0.522%で観察されます。染色体転座が原因で遺伝子が壊れたりしない限り、均衡転座保因者の表現型に異常をもたらすことはありませんが、不妊症であったり自然流産のリスクが高まります。そのため、反復流産の患者では均衡転座保因者の割合は4.5%にもなります。本研究では均衡転座保因者(相互転座、ロバートソン転座、腕間逆位)を、PGT-SRした結果、染色体異常を持つ割合を算出し、PGT-SRの有用性を検証しました。

方法

827名の患者からPGT-Aが697名(解析数3269)、PGT-SRが130名(解析数894)に分けてデータを分析しました。母体の平均年齢は、PGT-Aが40.8歳、PGT-SRが37.2歳です。PGT-SRはさらに相互転座(解析数718)、ロバートソン転座(解析数136)、腕間逆位(解析数40)に分けています。PGTの解析方法はGenetiSure Pre-Screen Microarray KitでCGHアレイにより染色体コピー数を解析しました。

結果

PGT結果を次のカテゴリー(A:染色体正常、B:モザイク異常、C:異数性、D:診断不可能)と分類しました。
PGT-Aでは、A: 20.0%、B: 4.4%、C: 75.5%。D: が0.1%
PGT-SRでは、A: 17.4%、B: 4.1%、C: 78.1%。D: 0.1%

となり、母体年齢はPGT-SRの方が低いにも関わらず、染色体正常胚の比率はPGT-Aよりも低い結果となりました。

ロバートソン転座、相互転座、腕間逆位での結果を比較すると、
ロバートソン転座では、A: 23.5%、B: 2.9%、C: 72.8%。D: 0.7%
相互転座では、A: 16.3%、B: 4.3%、C: 79.1%。D: 0.3%
腕間逆位では、A: 17.5%、B: 5.0%、C: 77.5%。D: 0.0%

PGT-SRをさらに3グループに分類してPGT-SRの結果を確認しますと、ロバートソン転座では染色体正常の比率が高い結果となりました。

さらに、C:異数性の内訳を見ますと転座染色体の異常と他染色体の異常の比率は、下記のようになりました。
ロバートソン転座では、転座染色体 : 他染色体 = 53.5% : 46.5%
相互転座では、転座染色体 : 他染色体 = 72.9% : 27.1%
腕間逆位では、逆位染色体 : 他染色体 = 22.6% : 77.4%

まとめ

本論文の研究は、均衡転座保因者の性別データが利用できなかったようです。均衡転座保因者は性別によってPGT-SRの染色体正常の発生率は異なります。一般的に男性保因者の方が染色体正常の発生率は高い傾向にあります。そのようなデータを載せていないことは残念に思います。またロバートソン転座は以前の記事にもありますように、数種類のロバートソン転座があり、それぞれ染色体正常の発生率は異なる事が知られています。本論文では症例数が少な卯からでしょうか?転座ごとに分類する事なくまとめて報告しているのは残念です。
一方で逆位保因者では、逆位を持つ染色体の異常の頻度はロバートソン転座や相互転座と比較して非常に低かったです。となれば逆位保因者は、逆位を持つことによって発生する染色体異常が原因で流産を繰り返したりするのではなく、他の原因があるのではないでしょうか?本論文の結果は、均衡転座保因者に対するPGTの利用を通じて、より効果的な治療戦略の策定に役立つ可能性がありますが、もう少し詳細な解析と報告が待ち遠しいです。

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