分割停止した胚の原因は染色体異常?

参照論文

McCoy RC et al. Meiotic and mitotic aneuploidies drive arrest of in vitro fertilized human preimplantation embryos. Genome Med. 2023 Oct 2;15(1):77.

要旨

体外受精したあと、受精卵は子宮に移植するまでに体外で5-7日間培養します。その間に受精卵は2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実胚、胚盤胞と細胞分裂の度にステージが進んでいきます。しかしながら、ARTでは約50%の受精卵が胚盤胞にまで到達せず、途中で発生が停止します。それを本論文では分割停止と呼んでいます。この分割停止は以前の論文で、母体年齢と共に分割停止率が高くなり、胚盤胞到達率が減少する傾向があることを報告しています。

本論文における、分割停止胚の定義

培養開始後7日目までに胚盤胞期まで発育しなかったか、直前24時間のタイムラプス画像解析で変化が見られなかった場合、分割停止としました。分割停止胚は、以下のように初期、中期、後期のいずれかに分類しています。
初期停止:1細胞から6~10細胞までの、胚形成後~胚ゲノムの活性化までの期間
中期停止:10細胞超~コンパクションまでの期間
後期停止:胚盤胞形成まで

方法

全1232個の受精卵から622個(50.5%)の胚が胚盤胞期まで発育し、一方で610個(49.5%)の胚が胚盤胞にまで到達せず分割停止しました。612/622個(98.4%)の胚盤胞と、297/610個(48.7%)の分割停止胚の合計909個の胚について、NGSで染色体コピー数解析しました。

分割停止率

母体年齢ごとの分割停止率を調べた結果、母体年齢が上がると胚盤胞に到達せずに分割が停止する傾向にあることが分かりました。

NGS 染色体コピー数解析の結果の解釈

染色体異常について減数分裂由来体細胞分裂由来について分類しました。減数分裂由来の染色体異常は、卵子や精子を作る減数分裂の際のエラーに起因します。この場合、胚の全ての細胞が染色体異常を持ちます。PGT-Aでは、Aneuplidや異数体と呼んでいます。体細胞分裂由来の染色体異常は、受精後の体細胞分裂のエラーに起因します。この場合、異常が発生した細胞から分裂した細胞のみが染色体異常を持ち、一部の細胞のみが異常のモザイク異常が形成されます。

減数分裂由来と体細胞分裂由来の染色体異常

合計909個の胚のうち、206個(22.6%)は染色体正常でしたが、703個(77.3%)の胚は何かしら染色体異常を有していました。減数分裂由来の染色体異常は15、16、19、21、22番染色体に特に多くみられていましたが、体細胞分裂由来の染色体異常はすべての常染色体で同様の頻度を示しました。減数分裂由来の染色体異常は母体年齢の増加に伴い、発生頻度の増加が見られましたが、一方で体細胞分裂由来の染色体異常は母体年齢との相関は見られませんでした。同一胚で異なる染色体に発生する減数分裂由来と体細胞分裂由来の染色体異常の共発生は観察されなかったことから、これらの異常の発生メカニズムは独立しているだろうと考えられます。

胚盤胞と分割停止胚の染色体異常

下記表にありますように分割停止胚は染色体正常率は胚盤胞と比較し非常に低く、また興味深いことに減数分裂由来の染色体異常を持つ胚も分割停止胚では低い結果となりました。一方で、分割停止胚では、減数分裂由来の異常 + 体細胞分裂由来の異常や体細胞分裂由来の異常が高い結果となりました。

細胞分裂異常と体細胞分裂染色体異常

タイムラプスイメージングを使って、受精後の843個の胚について、最初の2回の体細胞分裂を観察しました。その結果、219個(26.0%)の胚が1回目の細胞分裂異常を示し、さらに82個(9.7%)の胚が異常な2回目の細胞分裂異常を示しました。細胞分裂異常と体細胞分裂染色体異常には強い相関が認められ、細胞分裂異常胚の51%が体細胞分裂染色体異常を有していたのに対し、細胞分裂正常胚の23%しか体細胞分裂染色体異常を有していませんでした。

まとめ

この研究で、分割停止は母体年齢が高いほど起きやすいことがわかりました。これは胚盤胞到達率が母体年齢とともに減少する結果と一致しています。また分割停止胚は染色体異常を持つことが多く、分割停止に寄与する染色体異常は体細胞分裂由来の染色体異常が多いことが分かりました。特に第一体細胞分裂の分裂で異常が見られた際には分割停止が起きやすく、染色体異常を持ちやすいです。そのため、第一体細胞分裂の分裂で異常が見られた胚の移植優先度は下げることを提唱しています。


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