染色体逆位保因者にPGT-SRは必要か?


論文

Tong J et al. Do chromosomal inversion carriers really need preimplantation genetic testing? J Assist Reprod Genet. 2022 Nov;39(11):2573-2579.

要旨

日本では染色体逆位保因者もPGT-SRの対象となっています。以前に染色体相互転座保因者ロバートソン転座保因者のPGT-SRについて記事にしましたように、本論文では、染色体逆位保因者におけるPGT-SR有用性を評価することを目的としています。

方法

2018年1月から2022年1月までの間に、38歳未満の女性を含む57組のカップルからの71サイクルが分析されました。PGT-SRの結果は、逆位保因者の性別、逆位のタイプ(腕間逆位(pericentric inversion) or 腕内逆位(paracentric inversion))、および男性保因者の精液パラメータに基づいて3つのサブグループに分けられました。

PGT-SRの結果

283個の胚のPGT-SRの結果、48.4%(137個)が染色体正常、27.9%(79個)が染色体異常、23.7%(67個)がモザイク異常と判定されました。染色体異常の胚のうち32.9%(26個)とモザイクの胚のうち1.5%(1個)が逆位染色体由来の染色体異常でした。

保因者の性別による染色体異常率の違い

逆位保因者の性別が逆位染色体由来の染色体異常率に与える影響を評価するため、女性保因者と男性保因者のPGT-SR結果を比較しました。染色体正常(51.2%対46.1%)、染色体異常(25.6%対29.9%)、モザイク(23.2%対24.0%)の割合には有意な差はありませんでした(p=0.653)。しかし、女性保因者は男性保因者よりも逆位染色体由来の染色体異率が有意に高いことが示されました(45.5%対23.9%、p=0.044)。

腕間逆位と腕内逆位による染色体異常率の違い

逆位の種類が親由来の染色体異常の発生率に与える影響を評価するため、腕間逆位保因者と腕内逆位保因者のPGT-SR結果を比較しました。染色体正常(50.3%対45.8%)、染色体異常(26.1%対30.5%)、モザイク(23.6%対23.7%)の割合には有意な差はありませんでした(p=0.677)。また、腕間逆位保因者と腕内逆位保因者の間で、逆位染色体由来の染色体異常率にも有意な差はありませんでした(27.9%対38.9%、p=0.301)。

男性不妊要因と染色体異常率

男性逆位保因者の男性不妊と非不妊間で、PGT-SR結果を比較しました。染色体正常(44.4%対46.8%)、染色体異常(33.3%対28.4%)、モザイク(22.2%対24.8%)の割合には有意な差はありませんでした(p=0.827)。また、逆位染色体由来の染色体異常率にも有意な差はありませんでした(40.0%対16.1%、p=0.075)。

逆位染色体由来の染色体異常率

26個の逆位染色体由来の染色体異常のうち、15個は女性保因者から、11個は男性保因者です。また12個は腕間逆位保因者、14個は腕内逆位保因者です。腕間逆位保因者のPGT-SRの結果、染色体異常の内訳は、25%(3/12)は染色体数的異常、16.7%(2/12)は染色体部分的異常、58.3%(7/12)は逆位染色体由来の染色体異常で、逆位染色体の両染色体腕(短腕と長腕)の部分的異常でした。腕内逆位のPGT-SRの結果、染色体異常の内訳は、35.7%(4/15)は染色体数的異常、42.9%(6/14)は逆位染色体由来の染色体異常で、どちらかの染色体腕の部分的異常、7.1%(1/14)は両染色体腕の部分的異常、14.3%(2/14)は染色体逆位とは関係ない部分的異常でした。また、唯一の親由来のモザイクは、女性の腕内逆位保因者でした。

まとめ

染色体逆位保因者におけるPGT-SRの結果、染色体逆位由来の染色体異常率は予想よりも低いもので、染色体逆位保因者の受精卵における染色体異常率は、非保因者とほぼ同じか、僅かに高い程度かもしれません。そのため、正常な精子量を持つ男性染色体逆位保因者と38歳未満の女性パートナーを持つ場合ですと、自然妊娠と出生前診断を組み合わせた選択肢も考慮に入れたほうがいいかもしれません。

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