ロバートソン転座における染色体分離パターン
論文
ロバートソン転座
ロバートソン転座は、アクロセントリック染色体(13、14、15、21、22番染色体)の短腕が失われ、2つの長腕が融合して1本の染色体が形成される染色体異常の1つです。約800人に1人がこの転座を持っており、特にrob(13;14)とrob(14;21)が最も一般的です。ロバートソン転座保因者は通常、遺伝子量が変わらないため、表現型に影響がない「均衡型転座」として扱われますが、生殖には影響を及ぼす可能性があります。正常な子供を持つことが可能ですが、不妊や流産、21トリソミーや13トリソミーの子供を持つ可能性があります。
要旨
研究の目的は、ロバートソン転座保因者に対するPGT-SRの結果を通じて、ロバートソン転座における染色体分離パターンのデータを集積し、ロバートソン転座保因者への遺伝カウンセリングに役立つ情報を提供することです。以前のnote記事にも、ロバートソン転座の分離パターンを記した記事がありますが、本論文では、より多くのデータを集積していますので、ロバートソン転座保因者の方や医療関係者にとって、このデータは重要な知見となることと思います。
方法
2011年4月から2023年5月にかけて、ロバートソン転座保因者を対象にPGT-SRを行い、各ロバートソン転座の分離パターンを検証しました。PGT-SRにはIllumina CytoSNP-12bマイクロアレイを使用しました。
ロバートソン転座の種類、サイクル数、胚盤胞数
296組のロバートソン転座保因者のうち、女性保因者が55.1%(163/296)、男性保因者が44.9%(133/296)でした。合計2,151個の胚盤胞が得られ、それらをPGT-SRで検査し、そのうち96.2%に有効な結果が得られました。各ロバートソン転座の保因者数は下記のテーブルの通りです。
ロバートソン転座保因者の1サイクルあたりの胚盤胞数
テーブル2では、rob(13;14)、rob(14;21)、および全てのロバートソン転座を合わせた場合の1サイクルあたりの胚盤胞数を示しています。母親が保因者の場合の胚盤胞の数は、父親が保因者の場合と比べて有意に少なく(4.60 : 5.49)、この差は主にrob(13;14)で顕著でした(4.60 : 5.61)。これは、女性の年齢による生殖能力の低下とは関係がないように見えます。
ロバートソン転座保因者の分離パターン(性別ごとに)
PGT-SRの結果、男性保因者は、交互分離が多く、男性保因者で84.8%、女性保因者で62.8%(P < 0.00001)でした。rob(13;14)とrob(14;21)に限定した分析でも、男性保因者が正常、もしくは均衡型の胚を持つ交互分離の割合が高いことが示されました。3:0分配と呼ばれる染色体分配異常は、全体の1%の胚に見られましたが、主に女性保因者からの胚で発生していました。
ロバートソン転座における分離パターン率(本研究と最近の研究を参考に)
rob(13;14)およびrob(14;21)における本研究の染色体分離分離パターンの観察結果を、最近の2つ論文と比較してみました。どの論文でも、rob(13;14)、rob(14;21)ともに、男性保因者は交互分離の割合が高く、女性保因者の方が低い結果となりました。またロバートソン転座保因者の年齢は分離パターンに影響しないことが考えられます。
まとめ
ロバートソン転座の男性保因者では、隣接分離や3:0分離による染色体異常胚が女性保因者に比べて少なく、これは精子形成過程での選択が関与している可能性が示唆されています。つまり、男性保因者の場合、染色体異常がある場合にその胚が自然淘汰される傾向があり、結果として、正常胚、もしくは均衡型の割合が高くなります。
本研究と最近の研究によって、ロバートソン転座保因者に対しては、PGT-SRが有用であることが示されました。特に、男性保因者は染色体異常胚の割合が低いため、妊娠の成功率が高くなる可能性があります。特にrob(13;14)やrob(14;21)では、正常、もしくは均衡型胚の胚の割合を予想することができます。この研究は、遺伝カウンセリングにおいて重要な指針を提供するものであり、PGT-SRを通じてロバートソン転座保因者に対する妊娠および出生転帰の改善に寄与することが期待されます。
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