減数分裂と体細胞分裂の異数性が着床前胚の分割停止を促す
査読前のBioRxivの論文ですが、興味があったので取り上げてみました。本論文では、体外で胚盤胞期まで発育するのは受精卵の約半数に過ぎず、残りは分割停止により胚盤胞期にまで到達しない。分割停止の原因を調べるために、胚盤胞生検と分割停止胚におけるさまざまな異数性の発生率を比較し、またタイムラプスイメージングにより、受精後の最初の2回の体細胞分裂を追跡し、分割停止の原因を調べています。
結果
1232個の2PNの受精卵のうち、622個(50.5%)の受精卵が胚盤胞にまで到達し、残りの610個(49.5%)の受精卵は胚盤胞に到達する前に分割が停止した。胚盤胞と分割停止胚の909個の胚の染色体を調べた結果、分割停止胚の異数性発生率は94%であり、胚盤胞の69%に比べ高かった。減数分裂の異常はchr15, 16, 19, 21, 22が多く(これは今までのデータと一致)、体細胞分裂の異常は全ての染色体に満遍なく発生していた。
減数分裂および体細胞分裂の異数性は、胚盤胞期胚と比較して分割停止胚に多く見られたが、その影響は減数分裂 (OR = 1.62, 95% CI [1.20, 2.20], p = 0.0012)と比較し、体細胞分裂(OR = 6.02, 95% CI [4.40, 8.28], p = 4.22 x 10-33) の異数性で非常に強かった。さらに細かく解析するために、染色体核型を5つのカテゴリーに分けた(1.Euploid, 2.Meiotic only, 3. Meiotic plus mitotic and/or seg, 4.Mitotic only, 5.Mitotic and/or seg)。Euploid胚は分割停止胚:胚盤胞 =6%:31%で、特筆すべきはMeiotic plus mitotic and/or seg胚は分割停止胚:胚盤胞 =47%:19%、Mitotic only胚は分割停止胚:胚盤胞 =11%:5%と、分割停止胚は体細胞分裂異数性が高頻度に見られた。さらに複数の染色体に異常を持っているほど分割停止する傾向にあった。
843個の胚の最初の2つの体細胞分裂をタイムラプスイメージングで観察した。その結果、219個(26.0%)の胚が第1体細胞分裂異常を示し、82個(9.7%)の胚が第2体細胞分裂異常を示した。このうち85個(10.1%)は、Tripolarを起こしていた。異常細胞裂胚の51%が体細胞分裂の異数性を有していたのに対し、正常細胞裂胚では23%に過ぎなかった(OR = 3.41, 95% CI [2.50, 4.67], p = 6.93 x 10-16)。細胞分裂異常と減数分裂の異数性の間には、相関が見られなかった(OR = 1.20, 95% CI [0.89, 1.62], p = 0.217)。さらに、異常な細胞分裂は分割停止と強く関連していた(OR = 10.86, 95% CI [7.67, 15.50], p = 2.72 x 10-50)。胚が分割停止する確率は、第1および第2細胞分裂の結果に強く依存した。第1、2体細胞分裂正常の場合、分割停止する確率は12%(染色体正常胚)、34%(染色体異常胚)に対し、第1、2体細胞分裂異常の場合、75%(染色体正常胚、染色体異常胚ともに)に上昇した。
考察
受精卵の分割停止の主要な原因は体細胞分裂異数性であり、これは第1または第2細胞分裂異常に強く関連し、同時に複数の染色体に影響を与える傾向がある。これらの結果から、割球期から胚盤胞期への移行は、着床前に多数の異数性胚が排除される強力なボトルネックとして働く可能性が示唆された。IVFで使用する培地は生体内を完全に再現しているわけではなく、受精卵にストレスがかかっているかもしれない。もし受精卵にストレスのない培地を作ることができたら体外受精胚の細胞分裂異常を減らし、その結果、分割停止胚を減らすことができるかもしれない。