小児稀少疾患のゲノム診断

参照論文

Wright CF et al. Genomic Diagnosis of Rare Pediatric Disease in the United Kingdom and Ireland. N Engl J Med. 2023 Apr 27;388(17):1559-1571. doi: 10.1056/NEJMoa2209046. Epub 2023 Apr 12.
GenomeWeb

はじめに

今回はPGTの話ではないですが、今回は小児希少疾患の遺伝子診断の論文を紹介したいと思います。というのも第一子が先天性疾患を持って生まれてきた場合、遺伝子診断によって疾患の原因が明らかとなり、第二子はPGT-Mを希望される家族も予想されます。日本でも前回の記事で紹介しましたようにIRUD研究が行われており、原因不明の遺伝性疾患の遺伝子解析が大規模に行われており、今後はPGT-Mを希望する患者さんも増えてくることが予想されます。というわけで現在の遺伝子診断の実力といいますか、診断率など勉強してみたいと思います。

要旨

今回の論文は、Deciphering Developmental Disorders(DDD)研究の一環として、イギリスとアイルランドの24の地域から、重度の単一遺伝病ではあるが診断が困難な発達精神障害を持つ患者を対象に、エクソーム解析や染色体マイクロアレイなどの遺伝子診断を紹介します。

方法

DDD研究では、これまで診断のつかなかった重度の発達障害を有する13,449人の患者(そのうち親子3人のトリオ解析は9859人)を対象としました。

結果(遺伝子変異の内訳)

遺伝学的、臨床症状の両方の観点から患者の約41%(5,502/13,449人)に診断がつきました。そのうち、臨床症状の観点から診断のついた4,484人について、3,599人が親子3人のトリオ解析で、2750人(76%)が病原性のDe novo遺伝子変異を有していました。また患者の22%(2,997/13,449人)は、疾患に強く関連する遺伝子に、重篤性が不明な遺伝子変異を有していました。13,449人の患者のうち4,020人(30%)は遺伝子変異が報告されていませんでしたが、4,945人(37%)は、良性の可能性が高い遺伝子変異のみ(866人)、または重篤性が不確定な遺伝子変異(4,079人)を持っていました。
常染色体顕性(優性)遺伝のDe novo遺伝子変異が最も高い診断能を示し、報告された遺伝子変異の79%が臨床的に病原または病原の可能性があると診断されました。
一方、報告された遺伝子変異の常染色体潜性(劣性)遺伝子の32%、X染色体の23%、常染色体優性遺伝子の11%は罹患親から遺伝した、もしくは親からの遺伝が不明なもので、臨床的に病原性または病原性の可能性が高いと診断されました。
遺伝子変異の内訳を調べますと、変異の大部分はエクソーム解析を使用して検出された一塩基塩基置換と小さな挿入または欠失でした。71%がミスセンス変異、19%がナンセンス変異、3%が非翻訳領域の変異です。
構造異常はエクソーム解析と染色体マイクロアレイを併用して特定しました。そのうち、6%がコピー数変異、1%がその他の構造異常です。
平均して、親子3人のトリオ解析では1.0個、患者のみの解析では2.5個の疾患の候補遺伝子変異が報告されました。

診断率に影響を与える要因

正の効果

  • 親子3人のトリオ解析(OR:4.70, 95%CI:4.16-5.31)

  • 症状が知的障害または発達遅延(OR:2.41, 95%CI:2.10-2.76)

  • リクルート期間が長い(1年ごとにOR:1.25, 95%CI:1.20-1.30)

  • 家系の中で唯一罹患している(OR:1.74, 95%CI:1.57-1.92)

  • 特定の症候群を示唆する特徴を持つ(OR:1.23, 95%CI:1.12-1.34)

  • 症状を持つ組織の数が多い(1組織ごとにOR:1.08, 95%CI:1.06-1.11)

負の効果

  • 妊娠22週から27週の早産(OR:0.39, 95%CI:0.22-0.68)

  • 抗てんかん薬への胎内曝露(OR:0.44, 95%CI:0.29-0.67)

  • 糖尿病の母親を持つ患者(OR:0.52, 95%CI:0.41~0.67)

  • 患者が男性(OR:0.72、95%CI、0.67~0.79)

  • 近新婚(OR:0.72, 95%CI:0.62~0.83)

  • アフリカ系の患者(OR:0.51, 95%CI:0.31~0.78)

まとめ

本研究における診断率は保守的な推定値でして、疾患の原因となる遺伝子変異を判定するのいは厳しい基準を設けています。またエクソーム解析とマイクロアレイ解析は、ほとんどの非翻訳領域の変異を同定できませんし、複雑な構造異常や組織特異的モザイク遺伝子変異を検出することはできません。今後、全ゲノム解析が第一選択検査として実施された場合には、より高い診断率が期待できます。全ゲノム解析による診断率の向上がどれほどになるか期待しています。

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