卵巣刺激における採卵数と正常胚率の関係
Relationship Between Number of Oocytes Retrieved and Embryo Euploidy Rate in Controlled Ovarian Stimulation Cycles
ARTの究極の目的は、生児出生率を最大化することです。しかしながら、母体年齢が高い女性は、生児獲得するのが困難な染色体異常胚の可能性が高く、生児出産が可能な正常胚を持つ機会が減少することが知られています。多くの卵子を採取すれば、正常胚数が多くなち、生児獲得に繋がると考えることと思います。そのためART治療において、採卵数を増やすために卵巣刺激を行っています。しかしながら、卵巣刺激の副作用として卵巣過剰刺激症候群のリスクがあります。卵巣過剰刺激症候群のリスクは、中度が3-6%、重度が0.1-2%と推定されています。またマウスなどの動物モデルを使用した実験では、卵巣刺激後に胚発生の遅れや、形態異常な胚盤胞の増加、減数分裂時の異常分離による染色体異常の増加などが示されています。もちろんマウスとヒトにおいて、一貫して見られるものではありませんが。。。一方で、採卵数は染色体正常率や生児獲得率に影響しないことを示唆する証拠もあります。本研究の目的は、種々の卵巣刺激を受け採卵した卵子数が染色体異常率影響するかを調べています。
結果
本研究では2017-2019年にかけて治療を受けた、902人の患者のデータ(採卵数と染色体正常率)を用いています。採卵数は1-63個で、今回のコホート研究では、採卵数と染色体正常率に統計学的に有意な差は認められませんでした(P=0.1025)。
しかしながら、全体のデータをグラフ化してみますと、採卵数と染色体正常率の間には負の傾向が観察され、また採卵数が少ない方が、良好胚の割合が高い傾向にありました。
考察
採卵数と染色体正常率に有意な差は見られませんでしたが、採卵数が多いと胚の形態学的な質や染色体正常率に負の影響を与える可能性を示唆していました。この結果から、卵巣刺激は、最大数の卵子を採卵することを目的とするのではなく、患者の年齢やリスクなども考慮して、適切な数の卵子を得ることを目的とすべきではないでしょうか?卵巣刺激を調整することで、生児獲得の可能性を高め、同時に卵巣刺激によるリスクを低減することができるかもしれません。
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