均衡型染色体構造異常保因者における複雑な染色体構造異常の頻度とPGT-SR


論文

Cheng, D., Ibrahim, H., Luo, K. et al. Characterization of cryptic complex chromosome rearrangements in balanced chromosomal rearrangement carriers and their PGT-SR clinical outcome assessments. Sci Rep 14, 20705 (2024).

要旨

つい最近も同じような論文を紹介しましたが、今回の論文も、複雑な染色体構造異常を持つ方のPGT-SRの臨床的評価をした論文になります。複雑な染色体構造異常(CCR: Complex Chromosomal Rearrangements)は3箇所以上の切断点を持つ染色体構造異常です。相互転座などが2箇所の切断が必要なのに対し、CCRは3箇所以上の切断を要するために、頻度の低い染色体異常となり、PGT-SRの効果もまだ不明なところもあります。

方法

不妊症の患者や流産を経験した患者でGバンドによる染色体検査の結果、均衡型染色体構造異常保因者と判定した1,264名(転座1,225名、逆位37名、挿入2名)で、PGT-SRを希望した患者に対して、研究が行われました。染色体構造異常の詳細な解析は、NGSで全ゲノムシーケンスによって調べました。均衡型染色体構造異常保因者とCCRの保因者でPGT-SRの臨床評価をしました。

結果

CCRの頻度

Gバンドによる染色体検査の結果、1,264名の均衡型染色体構造異常保因者のうち、NGSでWGSを行い詳細に解析した結果、3.6%(45名)がCCRであることが判明しました。これらのCCRキャリアのうち、8.1%(3/37)は染色体内での逆位を持ち、他の染色体に影響を及ぼさないが、微細欠失重複が確認されました。残りの42名は他染色体でのCCRを持ち、そのうち26.2%(11名)は染色体転座とは別の染色体も関与していることが分かりました。

CCR保因者における100kb以上のコピー数異常(CNV: Copy Number Variation)の頻度

45名のCCRキャリアのうち、51.1%(23名)でGバンドでは確認の困難な100kb以上のCNVが確認されました。微細欠失は100kbから8Mbの範囲で見られ、微細重複は100kbから400kbの範囲で確認されました。17名のCCRキャリアで、少なくとも1つの疾患関連遺伝子が含まれる微細欠失が確認されました。

CCR保因者は遺伝的リスクが増加する

均衡型の染色体構造異常保因者の1,219名では、平均0.17の疾患関連遺伝子がDisruptされていたのに対し、CCRキャリア45名では平均0.40の疾患関連遺伝子がDisruptされていました。これにより、CCRキャリアは均衡型の染色体構造異常保因者よりも遺伝的リスクが高いことが示されました。

CCRの切断点数

45名のCCR保因者のうち、30名のCCR保因者の染色体構造を明らかにしました。その結果、平均6.4(3~25)の切断点を持つことが確認しました。

1~2染色体に関与するCCRのPGT-SR臨床結果

CCRが1~2染色体に限定されている場合、PGT-SRによる移植可能胚の割合は均衡型の染色体構造異常保因者とほぼ同等(31.0% vs. 32.2%, p > 0.05)である一方、3染色体以上が関与している場合には移植可能胚の割合が大幅に低下(7.5% vs. 31.1%, p < 0.01)することが確認されました。

まとめ

本研究は、均衡型の染色体構造異常保因者におけるCCRの頻度とPGT-SRの臨床結果への影響を評価しました。CCRは均衡型の染色体構造異常保因者の3.6%に見られ、遺伝的リスクが高くなることが確認されました。PGT-SRでは、1~2染色体に関与する場合は均衡型の染色体構造異常保因者と同等の結果が得られますが、複数染色体が関与する場合、移植可能な胚の割合が低下します。

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