4PN胚を移植した健常児を出生した症例報告
参照論文
要旨
IVF(体外受精)において、正常な受精は通常、2つの前核(2PN)の出現によって示されます。これは、1つは卵子から、もう1つは精子から生じるものです。
前核数が2以外の受精卵が得られた胚は、通常、染色体の倍数体異常を持つと考えられ、着床不全や流産、胞状奇胎などのリスクが高まるため移植は避けられます。しかし最近ではPGT-A実施時に遺伝子型を見ることで、1PNや3PNなどの異常前核数を持つ胚から、染色体正常胚が得られることがわかってきました。本論文では、PGT-Aにより4PNが明らかとなった胚を移植し、健常児の出生に至った例を紹介します。
症例
無精子症を持つご夫婦の治療で、合計11個の成熟卵子が得られました。顕微授精を行ったところ、受精後19時間の観察時に、正常な2PN胚は1つしか得られませんでした。他には3PN胚が4つ、4PN胚が1つでした。受精過程をタイムラプスで観察してみると、多核の原因は母体由来であることが分かりました。
PGT-A
まずは2PNを示した胚を培養3日目で新鮮胚移植をしましたが、妊娠には至りませんでした。残りの胚について、ご夫婦と相談したとこと、次の周期に進まず、まずは今回得られた胚について、PGT-Aにより異数性と倍数性を同時に調べることにしました。PGT-Aで遺伝子型を調べる方法は、ヒトゲノムの2690個のCommon SNP領域をMultiplexPCRで増幅し、NGSで遺伝子型を調べます。PGT-Aにより異数性と倍数性を調べた結果、3PN由来の胚と4PN由来の胚で2倍体の結果が得られた。しかしながら、3PNの胚は22番染色体のモノソミーを持っていました。4PNの胚は染色体正常でした。残りの胚(3PN)は倍数体異常でした。
移植、出生
これらの結果をふまえて、染色体正常の4PNを移植しました。妊娠した場合に羊水検査を勧めましたが、ご夫婦は出生前診断を受けないことを決めました。そのため超音波によって妊娠経過観察を続け、妊娠40週6日目に健常児を出生しました。
この卵子提供者は以前から治療を受けていますが、受精結果はすべて正常でした。
今回、異常受精(2PN以外)が多い結果となったのが、特定の卵子集団における細胞質の成熟過程が最適でなかったことに関係していると考えられます。
まとめ
先行研究では、2PN以外の前核数を持つ胚の移植はリスクが高いとの認識がありました。しかし、この研究は、遺伝子型を調べるPGT-Aにより倍数体異常の有無を調べることで、これらの胚でも正常な染色体構成が確認できる場合があることを示しています。2PN以外の異常受精由来の胚のみが利用可能な場合において、次の治療サイクル、もしくは倍数体異常も検出可能なPGT-A(より高額になることが多いです)を提案することになると思います。顕微授精で得られた3PN胚のおよそ半数は二倍体(染色体正常)と言われていますが、体外受精では3PN由来の二倍体胚の割合は50%を大きく下回るようです。対照的に、体外受精で授精された1PN由来の胚は、顕微授精由来の胚(50%以下)と比較して、大部分が2倍体になる傾向があるようです。0PN胚の高い割合が二倍体と言われており、顕微授精で授精された0PN胚の75.5%が二倍体との報告があります。これらの過去の報告を踏まえて、2PN以外の異常受精卵が得られたときに、PGT-Aを実施するか次の治療サイクルに進むか、提案したいと思います。