PGT-A後の出生前診断にNIPTは適しているか?

ACMGが定めるNIPT(NIPS)のガイドラインから、PGT-A後の出生前診断にNIPTが適しているか考えてみようと思います。PGDIS2021のstatementでは、PGT-A後の出生前診断は、全ての妊婦と同じように出生前診断の情報は提供すべきとあります。出生前診断の手法については、NIPTと羊水検査についての記載がありあります。NIPTでは、日本を含む多くの国で採用されている13, 18, 21, X, Y染色体のみの異常を見る方法は適していません(PGT-Aでは先述の染色体以外にも異常が見られるため)。全染色体を見ることのできるゲノムワイドNIPT*であれば、PGT-Aの確認に用いることができるかもしれませんが、PGDIS2021ではゲノムワイドNIPTにおける、13,18,21番染色体トリソミー以外の稀な常染色体トリソミーの感度・特異度などの記載はありません。
*日本ではゲノムワイドNIPTは認められていません。

参考論文
Dungan JS et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2022 Dec 13:S1098-3600(22)01004-8.
Rose NC et al. Systematic evidence-based review: The application of

ACMGは、トリソミー13,18,21について、単胎妊娠の全妊婦に従来のスクリーニング(NT肥厚や血清マーカーなど)よりもNIPTを推奨する

これまでの論文の報告から各トリソミーの精度は下記の通りで、NIPTは単胎妊娠における胎児トリソミー21, 18, 13の検出において、従来のスクリーニング手法よりも高い診断精度を有しています。

  • トリソミー21(T21)の感度98.80%、特異度99.96%、陽性的中率91.78%、陰性的中率100.0%、偽陽性率は0.04%です。

  • トリソミー18(T18)の感度98.83%、特異度99.93%、陽性的中率65.77%、陰性的中率100.0%、偽陽性率は0.07%です。

  • トリソミー13(T13)の感度100.0%、特異度99.96%、陽性的中率37.23%、陰性的中率100.0%、偽陽性率は0.04%です。

参考論文
Rose NC et al. Systematic evidence-based review: The application of noninvasive prenatal screening using cell-free DNA in general-risk pregnancies. Genet Med. 2022 Jul;24(7):1379-1391. doi: 10.1016/j.gim.2022.03.019. Epub 2022 May 24. Erratum in: Genet Med. 2022 Sep;24(9):1992.

ACMGは、双胎妊娠においても、従来のスクリーニングよりもNIPTを推奨する

双胎妊娠におけるNIPTは、単胎妊娠と同等の診断精度を示しています。

  • T21の感度98.18%、特異度99.93%、陽性的中率94.74%、陰性的中率99.98%、偽陽性率は0.07%です。

  • T18の感度90.00%、特異度99.95%、陽性的中率90.00%、陰性的中率99.95%、偽陽性率は0.05%です。

  • T13の感度80.0%、特異度99.93%、陽性的中率81.75%、陰性的中率99.97%、偽陽性率は0.07%です。

ACMGは、性染色体の異常(SCA: sex chromosome abnormalities)について、単胎妊娠の患者にNIPTを推奨する

SCAに対するNIPTの診断精度は、4つの一般的なタイプ(45X、XXX、XXY、XYY)すべてにおいて高いことが示されています。SCA全体の感度99.6%、特異度99.8%ですが、NIPSの陽性的中率(PPV)は、45XのPPV29.5%、XXXのPPV54%、XXYのPPV74%、XYYのPPV74.5%です。

ACMG は、22q11.2欠失症候群に対するNIPTを提供することを推奨する

最も代表的なsegmental aneuploidisである22q11.2欠失症候群(22q11.2DS)は、990-2148人に1人の割合で存在すると推定されています。22q11.2DSに対するSNPベースのNIPTにより、18,289件のコホート研究において、12例中10例の22q11.2DSを報告しました。陽性的中率は52.6%、偽陽性率0.05%でした。

現時点では、22q11.2DS以外のCNVの定期的なスクリーニングを推奨する十分な証拠はない

いくつかのゲノムワイドNIPTは、7Mbを超える染色体コピー数異常の検出を目的として設計されています。しかしながら、出生前の染色体アレイによって検出されたsegmental aneuploidiesの多くは、7Mbよりも小さいサイズであったと報告されています。このサイズはNIPTでは検出限界以下になるため、NIPTによる微細なsegmental aneuploidiesは検出が困難だと予想されます(PGT-Aの検出は5-10Mbほどのsegmental aneuploidiesのため、PGT-Aで検出されたsegmental aneuploidiesのいくつかは、NIPTでも検出可能かもしれません)。

現時点では、Rare Autosomal Trisomies(RAT)の検出にNIPTを推奨または推奨しないことを示す十分な証拠がない

非モザイク状態で発生したRATのほぼ全てが早期流産に至るため、妊娠10週前後に確認されるRATは通常モザイク状態になります。絨毛検査時に確認されるモザイクは、妊娠の1-2%に発生します。 その大多数は胎盤にのみ染色体異常を持ち、胎児側は正常の限局性胎盤モザイクと言われています。52,673例の胎盤絨毛検査を行った研究では、316例中8例(2.53%)のみが胎盤絨毛時に確認されたモザイクRATが胎児側(羊水)にも確認されたと報告があります。ACMGでは、RATの検出にNIPTを使用することを支持するエビデンスは不十分としています。

まとめ

上記のACMGのガイドラインを読みますと、PGT-A後の確認にNIPTを用いるのは適していないように思います。PGT-Aでは(着床前の胚盤胞期)、13, 18, 21, X, Y番染色体以外のトリソミーやモノソミー、5-10Mb以上のSegmental aneuploidiesが検出されます。一方でNIPTは13, 18, 21, X, Y番染色体の異常であれば、高い診断精度を持ちますが、他の常染色体の異常(特にモザイク異常)になりますと、その診断精度は未知であり、またNIPTで染色体異常を検出したとしても、羊水検査では正常となる可能性もあります。それならば、PGT-A後にも出生前診断を強く推奨するご夫婦については、全ての出生前診断の情報は提示する必要がありますが、胎児の染色体を見る羊水検査が最も適しているのではないでしょうか?

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