流産絨毛染色体検査のメタ解析
Cytogenetic testing of pregnancy loss tissue: a meta-analysis
要旨
臨床的に認められた全妊娠のうち、約15%が流産します。また流産率は母体年齢に相関し加齢に伴い上昇することが知られています。染色体異常が流産の原因となるのは、流産の約50−70%で、最も多いのが常染色体トリソミー、次いで3倍体、45,Xとなります。日本では、近年、不育症検査のひとつである「流産検体を用いた染色体検査」が先進医療として承認され、特定の条件を満たした場合に保険適用となりました。現在はGバンド法と次世代シーケンサーを用いた染色体検査が対象となります。一方、ESHREのガイドラインでは、流産絨毛染色体検査は、臨床的な利益をもたらすものではないとして、ルーチン検査は推奨されていません。次の妊娠で同じ染色体異常が発生する可能性は低く、染色体異常の多くは散発的に発生すると考えられています。しかしながら、臨床の現場では患者に原因を究明し説明するための手段として流産絨毛の染色体検査は広く行われています。本レビュー論文では、流産絨毛の染色体異常率について、2000年以降に発表された計55件の研究を対象とし、各染色体解析手法(Gバンド, aCGH, SNPアレイ, FISH, MLPA)における染色体異常率について分析しました。
Gバンド
29の研究、18,473検体の解析
検査不良 16%
染色体異常率 47% (20-70%)
常染色体トリソミー 62%、倍数体 16%、45,X 8%、構造異常 4%、その他の染色体異常 3%、臨床的不明 0%
aCGH
15の研究、3,583検体の解析
検査不良 2%
染色体異常率 48% (17-84%)
常染色体トリソミー 58%、倍数体 2%、45,X 10%、構造異常 9%、その他の染色体異常 9%、臨床的不明 0.02%
いくつかの研究ではaCGHで倍数体を検出した(アジレントのCGH + SNPアレイを使用した?)
SNPアレイ
10の研究、5,391検体の解析
検査不良 4%
染色体異常率 60%
常染色体トリソミー 61%、倍数体 9%、45,X 8%、構造異常 7%、その他の染色体異常 9%、臨床的不明 1.27%
FISH (主に13,15,16,18,21,22,X,Yの異数性の調査)
10の研究、3320検体の解析
検査不良 1%
染色体異常率 38%
常染色体トリソミー 60%、倍数体 19%、45,X 13%、構造異常 0%、その他の染色体異常 5%、臨床的不明 0.05%
MLPA (主に全染色体のサブテロメアを調査)
8の研究、1062検体の解析
検査不良 5%
染色体異常率 25%
常染色体トリソミー 61%、倍数体 2%、45,X 16%、構造異常 7%、その他の染色体異常 1%、臨床的不明 0%
*MLPAでは倍数体の検出はできないため、他の手法で確認した
考察
従来のGバンドによる染色体検査は、培養を必要としており、培養不成功や、母体細胞の混入(Gバンドによる検査を行うと、正常核型における46,XX : 46,XYの比率が46,XXが著しく高いことがあります)による検査不良が見られます。一方で、aCGHとSNPアレイは高い染色体異常検出率を誇りますが、臨床的に無関係な所見も特定してしまうおそれがあります。その場合、両親の染色体の解析も実施し無害の染色体異常か調べる必要もあるかもしれません。SNPアレイは流産の原因として見られる染色体異常のうち、常染色体トリソミー、3倍体、45,Xを正確に検出することはできますが、解析費用が高価になってしまいます。FISHは一部の特定の染色体を検査するために、染色体異常検出率は低い傾向にあり、流産絨毛染色体検査には不向きだと考えられます。本論文では、日本でも先進医療として利用可能となりましたNGSによる染色体検査は比較しておりません。NGSによる染色体検査は培養不要で、SNPアレイと比較し安価に行うことができます。また常染色体トリソミーや45,Xを正確に検出し、最小で5-10Mb程のサイズの欠失や重複も検出可能です。一方で流産絨毛でよく見られる倍数体や、UPDの検出が困難です。流産絨毛の染色体検査は、こういった特徴をよく理解した上で検査を依頼する必要があります。
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