染色体正常胚移植の妊娠率は母体年齢に影響しない
論文
要旨
母体年齢が進むにつれて、妊娠率が低下することは広く知られています。それは母体年齢が進むにつれて、染色体異常率が高くなるためだと考えられています。
では、PGT-Aによって染色体正常と判定された胚を移植したらどうなるでしょうか?一般的に、PGT-A後の染色体正常胚を移植した場合の妊娠率は、論文によりますが、50-70%とされていることが多いです。本論文では、PGT-Aで染色体正常と判定された凍結胚移植(FET: Frozen Embryo Transfers)における妊娠率(OPR: Ongoing pregnancy rate)に対する母体年齢の影響を調査しました。
方法
本研究は、2017年4月から2023年8月までに行われた1923件のFETサイクルにおけるレトロスペクティブスタディです。
対象は、自然周期またはホルモン補充療法周期でのFETサイクルを受けた女性1464人です。主要なアウトカムは妊娠12週以降の妊娠率です。
結果
1464組のカップルから1923胚の移植が行われ、そのうち990胚(51.48%)が妊娠しました。卵子採取時の女性の年齢が高くなるにつれて妊娠率が低下する傾向は有意ではないことが示されました(P=0.679)。また移植時の女性の年齢についても同様に、有意な低下傾向は見られませんでした(P=0.866)。詳細は下記のとおりです。
卵子採取時の母体年齢ごとの妊娠率
35歳以下: 51.4%
36-37歳: 49.1%
38-40歳: 53.3%
40歳以上: 52.3%
移植時の母体年齢ごとの妊娠率
35歳以下: 51.8%
36-37歳: 47.4%
38-40歳: 52.3%
40歳以上: 52.8%
胚移植が成功するのに重要でない因子
胚移植時の母体年齢(P=0.609)。
卵子採取時の母体年齢(p=0.816)。
卵子採取時の男性の年齢(P=0.146)。
AMH濃度(P=0.578)。
および胚の凍結期間(P=0.997)。
胚移植が成功するのに重要な因子
BMI(正常体重と比較して、過体重および肥満の女性は妊娠率が低下)(P<0.001)。
胚の質(良好胚ほど妊娠率が高い)(P<0.001)。
FETの種類(自然周期FETの方が妊娠率が高い)(P<0.001)。
以前に少なくとも一度妊娠したことがある女性(P<0.001)。
まとめ
本研究では、母体年齢は染色体正常の凍結胚移植における妊娠率に有意な影響を与えないことを示しました。つまり、染色体正常胚の移植の成功率は母体年齢に関係なく、ほぼ同程度(50-70%)になることが予想されます。一方で、BMI、胚の質、以前の妊娠歴、内膜準備プロトコルなどは、染色体正常胚の移植の成功率に影響を与えることが明らかになりました。