NGSで解析するPGT-Aの解釈の標準化の重要性
参照論文
要旨
現在、NGSを用いたPGT-Aが受精卵の染色体診断のゴールドスタンダードとして用いられています。NGSはモザイク感度が高く、低頻度モザイクを正確に検出することができるため、胚盤胞期に多くのモザイク胚(染色体正常細胞と染色体異常細胞が混在する状態)が存在することを明らかにしてきました。モザイク胚が健常児を出生する可能性が十分にあることが、これまで多くの論文から報告されてきました。またモザイク胚移植の妊娠率や出生率においては、正常胚に次ぐとされていたり、他の論文では低モザイク胚は、正常胚と同等の妊娠率や出生率を持つとも言われています。これまでに「PGDIS」や日本では「胚診断指針」でモザイク率を20-80%のモザイクの範囲をモザイクとすると見解を発表しています(図を参照)。
一方で、低レベルモザイクと技術的なアーチファクトやノイズを区別するのは困難であり、一部ではモザイク率を30-70%で診断することもあるようです。そこで本研究では、モザイクの判定基準を変更した際に、胚の判定がどう変更するか調べました。過去にも同様の論文を紹介していますが、その記事をすっかり忘れていました。
方法
2018年1月-2020年12月の間にPGT-Aを受けた患者のレトロスペクティブ研究です。2,079個の胚盤胞をNGS(ThermoのReproseq)で解析しました。PGT-Aの結果の解釈を次の3つに分類しました。STANDARD(モザイクの閾値が30%から70%)、STRICT(モザイクの閾値が20%から80%)、EXCLUDING(モザイクを報告しない)。3つの異なる基準を用いて、すべての胚の再判定しました。各基準で得られた胚の正常胚、異常胚、モザイクを比較しました。
結果
3つの異なる基準を適用すると、STANDARDおよびEXCLUDINGでは、STRICT(783/2,079)に比べて92個多い正常胚(875/2,079)が得られました。
STRICT、STANDARD、EXCLUDINGで1周期あたりのPGT-A結果を評価すると、正常胚率はそれぞれ34.0%、38.4%、38.4%(p<0.001)となり、異常胚率はそれぞれ59.0%、55.8%、61.6%(p<0.001)、モザイク率はそれぞれ7.0%、5.8%(p<0.047)でした。移植に利用可能な正常胚の平均数は、STRICTでは、1.54±1.67個でしたが、STANDARDまたはEXCLUDINGを用いた場合は1.72±1.78個でした(p<0.001)。
まとめ
モザイク感度のブレ幅について、検査機関の要因として、使用するNGSのプラットフォームや解析に使用するデータ量(リード数)に左右することが知られています。そのため各検査機関は、機関内で検証実験を行い、その結果を公表して、20-80%や30-70%をモザイク判定とする根拠を提示した上で、基準を決めてほしいと思います。すべての検査期間が同じ手法で検査しているのならまだしも、異なる手法で検査しているのであれば、学会などが一律にモザイク率に基準を設けるのは、誤った診断を誘発するかもしれません。前回の記事でもまとめに書いていますが、STANDARDやSTRICT、EXCLUDINGの基準での移植率や妊娠率・出生率のデータが欲しかったところです。
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