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【AI小説】数百光年先の友 #2

第2章「数百光年のメッセージ」

 異星からの電波信号を受信してから二日後の深夜、アタカマ砂漠を覆う漆黒の空に、かすかな月明かりが差し始めていた。管制室のモニターには無数の波形が揺れ、天文学者たちの会話がひっきりなしに飛び交う。ごく普通の研究施設だったはずのここは、今や世界中から注目を浴びる「未知への窓口」となりつつあった。
 誰もが、その興奮を隠し切れない。だが同時に、未知と向き合うという覚悟も迫られている。もし、これが本当に“人類以外の知的生命体”による呼びかけだとしたら──想像を絶する未来が、すぐ眼前にまで迫っているのかもしれない。その思いが、かすかな恐れと熱い期待を織り交ぜ、深夜の管制室を独特の熱気で包み込んでいた。

新たに解読される言語データ
 電波天文学者・桐生遥は、モニター上の波形を凝視しながら、唇をかみしめていた。先日受信した「規則性のある信号」が既知の天体とは一致せず、なおかつ精緻に組み立てられたパターンを持つと判明した瞬間から、彼女の頭の中には一つの可能性が浮かび上がっていた。

これは、異星文明からの通信かもしれない

 最初こそ自分の思い込みではないか、と何度も疑った。だが、同僚である技術者の佐々木健太が周波数特性を解析し、言語学者のエレーナ・ロマネンコが未知の記号の組成を分析するうち、次第にその可能性が高まっていった。さらに彼女自身のノイズ除去アルゴリズム「桐生フィルター」が、他の研究チームが見落としかねない微弱なパターンを抽出してくれた。
 そうしてついに導き出されたのは、「我々は平和を望む。あなた達と交流を」という、明確なメッセージを示唆する一連の符号。

「桐生さん、こちらも確認終わりました」
 管制室の隅から声をかけてきたのは、佐々木だった。彼は疲れきった表情を浮かべながらも、その目には興奮の光が宿っている。
「異星の言語、いや“言語体系”と呼ぶべきかどうかもまだ分かりませんが、とにかくこれは人工的に作られた高度な符号だ。周波数や変調方式、どれを取っても自然界にはありえない特徴を持っています」

「こっちも大きな進展があったわ。素数や黄金比といった数学的要素が頻出するから、ある程度の法則性を推測できるの」
 エレーナが新しいデータを指し示す。
「だけど、まだ“交流”とか“平和”といった概念を完全に訳せたわけじゃないのよ。単語の候補が複数あって、たまたま文脈としてそう読み取れる可能性が高いという段階。仮説の域は出ないけれど、少なくとも彼らは敵意ではなく、友好的な何かを意図していると考えられるわ」

「十分な進歩だと思うよ」
 遥はそう応じながら、安堵のため息をついた。この研究室で育まれているのは、長年にわたる地道な観測と解析によって鍛え上げられた“科学者の目”だ。彼らはロマンに酔うのではなく、事実を一つずつ積み重ねながら未知へと近づいている。
 だからこそ、もし本当に“異星文明”がこの信号を送っているとしたら、そこには何らかの意図があり、それが友好の示唆である可能性が高い。今は、そう信じるしかなかった。

人類史上最大級の発見か
 ところが、その大きな発見が明るみに出ると同時に、国際連合の宇宙開発機関(UNSA)や各国政府、さらには巨大企業までもが動き始めた。
 ALMA管制室では、たった数日のうちに多くの専門家や顧問、そして政治家の代理人らしき人物が殺到し、あちこちでミーティングが開かれている。研究者同士の静かな議論の場だったはずの場所は、一挙に「世界の注目を浴びるステージ」と化した。

「本当は、もっと慎重に進めたいんだけどね」
 高まる喧騒を横目に、佐々木が苦笑する。
「プロトコルとしては当然だけど、上層部への報告を済ませた途端、あっという間に“これは人類史上最大級の発見かもしれない”という噂が広まってしまった。メディアにはまだ情報規制しているらしいが、いつどこから漏れるかわからない状況だよ」

「国際協力で進められればいいけど、横槍が増えれば増えるほど、意見がまとまらなくなるかもしれないわね」
 エレーナが肩をすくめる。
「何しろ、もし本当に異星文明の実在が確定したら、政治的にも軍事的にも大問題だもの。コミュニケーション一つで、世界のパワーバランスが変わりかねないし、企業にとっては技術や知的財産の争奪戦にもなりうるわ」

「……」
 遥は黙って二人の会話を聞いていた。彼らの言うことは正しい。この発見は大きすぎる。研究者としては純粋に“未知の知的生命体と対話する”ことに胸を躍らせるが、それだけでは済まされない事柄があるのだ。
 しかし、そうした大人の思惑に振り回されている間にも、解析は進めなければならない。実際、異星からの電波信号にはまだまだ数多くの謎が残されており、言語の解読も端緒に過ぎない。地球外生命体と本当に対話するには、さらに多面的なアプローチが必要だった。

第二の暗号──「こちらへ来て欲しい」
 とりわけ、遥のアルゴリズム「桐生フィルター」は既存の研究ではノイズとみなされかねない微弱な変動を捉えられる。このフィルターを使って精緻に解析を繰り返す中、ついに新たな“パターン”が姿を現した。
 それは、先に解読されかけた「平和」「交流」とは別の意味を持つ可能性が高い符号列だった。

「これは……?」
 深夜、管制室のモニターを見つめたまま、遥は思わず息を呑んだ。佐々木とエレーナにも確認してもらい、三人が総力を挙げて追加分析を行う。すると、驚くべき仮説が浮かび上がる。
 その符号が示すのは、どうやら“招待”あるいは“呼びかけ”を意味しているようなのだ。翻訳がまだ不完全で誤差はあるが、“こちらへ来て欲しい”という意味合いが最も有力だという。

「来て欲しい……つまり、彼らが私たちを呼んでいるのか?」
 佐々木の声には、興奮と戸惑いが混在していた。異星文明が友好を示すだけでなく、実際に人類を“招いている”としたら、次元の違う話になる。地球と異星の間には途方もない空間距離があるはずだが、その制約さえも越えて“来い”と言っているのだろうか。

「もし本当にそうなら、彼らは私たちの航行技術を見越しているの? あるいは、ワームホール通信のような新技術があるのかもしれない。まだ憶測の域を出ないけど」
 エレーナがモニター上のデータを指し示す。そこには星図らしき数列も含まれ、座標系のようなものが断片的に示されている。だが、地球の天文カタログと照合しても、完全には一致しない星座や位置関係を示すらしく、どの座標を指しているか確定できていない。

「いずれにせよ、“呼びかけ”と解釈できる以上、この情報をどう扱うかは重大な問題ね。これまでは単なる交信の意思表示があっただけだけど、“来て欲しい”なんて言われたら、そりゃ政治家や企業が黙っていないわ」
 エレーナは頭を抱えるように言う。連日の徹夜作業が続き、彼女の声にも疲労感が滲んでいる。

 遥は、再びモニターを見つめながら唇を引き結んだ。
「……公表しないわけにはいかないわね。いずれ、この部分も公にして“次の手段”を検討しなければならない。私たちがどれだけ情報を留保しても、必ずどこかで漏れてしまうでしょうし、隠すことが得策だとは思えない」

 二人は顔を見合わせてうなずいた。これほど大きな発見を、一研究チームだけで抱え込むのは無理があるし、万が一それが明るみに出たときの社会的反発も大きいだろう。

「ただ、公表するにしても、この“第二の暗号”をどう説明するか、そして解析がまだ不完全だという前提をどう伝えるか、慎重に考えないと。また余計な混乱が生まれかねない」
 佐々木が指摘するように、“こちらへ来て欲しい”という仮説は、誤訳の可能性がゼロではない。しかし、それが事実なら、相手は単なるメッセージを超えて、具体的な接触へのステップを望んでいることになる。

「この先、政府間や企業間の駆け引きはますます激しくなるだろうね。もしかすると、“危険性”を理由に接触を阻止しようとする勢力も出てくるかもしれない。私たちが敵と味方を区別しながら進まなくちゃいけなくなるなんて、考えただけでも気が重いよ」
 佐々木の言葉に、エレーナもうなずく。

「それでも、やるしかないわ」
 遥は視線を落とし、静かに言葉を続ける。
「もし私たちが真実を探求せず、政治的な波に流されてしまえば、せっかく“彼ら”が差し伸べてくれたかもしれない友好の手を振り払うことになる。これはもう、私自身の責任として、最後まで向き合わなくちゃならないと思うの」

 二人はその言葉に何も言わず、ただ静かに同意のまなざしを向けた。すでに三人の間には固い信頼関係がある。どんな圧力がかかろうとも、科学者として、このメッセージの真偽や意味を探り続ける──それが自分たちの使命だと信じている。

専門チームとの連携
 翌朝、ALMA施設の管制室には、UNSAの専門家や政府機関から派遣された調査官たちが次々と顔をそろえた。遥たちはフロアの一角にあるブリーフィングルームへ案内される。そこには、総勢十数名におよぶ様々な分野の研究者、言語学者、政治アナリストなどが待ち構えていた。
「おはようございます。私、UNSA特別調査官のエリック・ガードナーと申します」
 スーツ姿の中年男性が名乗りを上げる。冷静な目元に知的な光を湛えており、研究者気質も持ち合わせていそうな印象だ。
「桐生博士、あなたの解析報告には目を見張るものがありました。特に“桐生フィルター”によるシグナル抽出は画期的ですね。私もさっそく、その手法をUNSAの解析班に導入したいと考えています」

「ありがとうございます」
 遥は軽く会釈する。自分のアルゴリズムが認められるのは嬉しいが、今はそれよりもこの場がいかに混乱なく進むかが気がかりだった。
 ブリーフィングが始まると、まずは遥やエレーナ、佐々木らがこれまでの解析結果を順に発表する。最初のメッセージである「平和」や「交流」、そして今回の“第二の暗号”とされる「こちらへ来て欲しい」という部分についても、現時点の仮説として丁寧に説明した。

「……以上が、我々が把握している範囲の内容となります。ただし、言語の全容解明には至っていませんし、この“来て欲しい”という解釈も、誤訳の可能性を完全に排除できたわけではありません」
 遥が結論を述べると、ブリーフィングルーム内が一瞬静まり返った。前列に座っていた何人かの研究者が、食い入るように資料を読み込み、何度も首を傾げたり、小声で周囲と意見を交わしたりしている。

「いやはや、まるで夢のような話だ」
 ガードナーが感嘆の声を漏らす。
「私も長い間、異星文明の探査に携わってきましたが、ここまで明確に“意思疎通”を示唆する通信を目にしたのは初めてです。これは本当に歴史的な瞬間になり得る。政府や企業の動きが慌ただしくなるのも当然と言えるでしょう」

「だからこそ、慎重かつ科学的に進めるべきです」
 遥はそう念を押した。事を性急に進めるあまり、間違った解釈や政治的な利用が先走ってしまえば、取り返しのつかない事態につながるかもしれない。

「もちろん。そのために私たちも現地入りしたのです。まずは科学的な検証を最優先に進め、世界へ情報を出す段階や外交的手続きについても、国連や主要国と協議しながら方針を決定することになるでしょう」

 ガードナーはそう答えたが、彼の背後に座る、いかにも官僚的な雰囲気を漂わせる人物が小さくうなずく様子を見る限り、一筋縄ではいかなそうだった。

多様な思惑の交錯
 ブリーフィング終了後、管制室周辺はさらに賑わいを増した。研究者や官僚だけでなく、巨大企業の代理人らしき人々も姿を見せ始める。なかには火星資源開発を握る“ライジング・フロンティア社”の幹部も含まれているという噂を、エレーナが耳打ちしてきた。
 その企業は、遺伝子操作技術やワームホール理論の研究でも先端を走っており、莫大な資金力と影響力を持つことで知られている。もし異星文明の技術情報を少しでも手に入れれば、さらに大きな権力を握ることになるかもしれない。

「科学者が増えるのは歓迎だけど、企業や政府の上層部が絡むと、また別の騒動が起きるかもしれないな」
 佐々木がコーヒーカップを片手にぼやく。
「とはいえ、桐生さんが言ったように、もう隠すわけにはいかない話だ。僕らとしては粛々と研究を続けて、確かな情報を提示するしかないね」

 エレーナも同意するように頷く。
「そうね。だけど、このままどんどん外部の人間が増えていけば、管制室のセキュリティや運用管理がどこまで保てるか、不安な面もある。データ流出のリスクも高まるし……」

「フェルナンデス所長には、そのあたりもしっかり管理してもらわないと」
 遥は一瞬、管制室の奥にいる所長の姿を探す。彼は新たに到着した調査団への対応に追われ、次々と人を捌いているようだ。心労も大きいだろうが、運営責任者としては踏ん張ってほしいところだ。

 そう考えていると、再びモニターから通知音が鳴った。
「また何か検出されたの?」
 佐々木が素早く近づく。そこにはごく微弱な位相変化が記録されているらしい。解析ソフトが自動的に振り分けた結果、ノイズの可能性もあるが、一定の周期性が見られるという。

「……今度はなんだろう」
 遥は口元を引き結び、桐生フィルターを走らせる準備を始める。異星からの信号は、一度きりで途切れるような単純なものではなく、継続的に何かを発信し続けている可能性がある。
 ひょっとすると、さらに新たなメッセージ──あるいは、より詳細な呼びかけ──が含まれているのかもしれない。

 胸の奥に、不安と高揚感が同時に芽生える。もし“こちらへ来て欲しい”の続きがあるのだとしたら、どんな言葉が並ぶのだろう。あるいは、行き方や時期、具体的な手段まで示されるのか。そんな期待が膨らむ半面、それは容易ならざる事態を招くかもしれない。

 夜空の果てから届く微かな声は、意外にも明快に私たちを呼んでいるようだ。そして、人類が本気で応じるとき、大きな変化が訪れるのは間違いない。
 遥は自分に言い聞かせるように、深く息を吸う。周囲では雑多な議論が行われ、政治や利権のキーワードが飛び交うが、今は“科学者の責務”に集中しよう。

「佐々木さん、エレーナ。二人とも、もうしばらく徹夜になるかもしれないけど、付き合ってくれる?」
 遥が振り返ると、二人は同時に笑みを浮かべた。

「もちろんだよ。僕らがやらなきゃ、誰がやるんだ」
「ええ。ここで逃げたら、私たちが星々に憧れた理由がなくなってしまうもの」

 こうして三人は、再び解析装置の前に陣取り、未知なる記号の海へと身を投じる。そこには危険も不安もある。だが、それを乗り越えた先に、真の対話の可能性があると信じる限り、彼らは歩みを止めない。

終わりなき探求のはじまり
 夜が更けても、管制室の照明は絶えることなく、各モニターの表示が忙しなく移り変わる。慌ただしい気配が続く一方、妙な静寂感が漂うのは、誰もが“これが歴史を塗り替える瞬間”かもしれないと感じているからだ。
 いずれ世界規模で公表されるのは時間の問題。やがて大々的な議論が巻き起こり、人々は未知との遭遇に対して様々な反応を示すだろう。歓迎の声もあれば、恐怖や拒絶をあらわにする者もいるに違いない。

 そして何より、今回の発見を利用して利益を得ようと暗躍する勢力も出てくるだろう。すでにその気配はある。遥が願うのは、どうかこのメッセージが純粋に“人類の進化”と“世界の平和”につながる形で活かされること。しかし、その道は決して平坦ではない。

 深夜を回っても終わらない作業の合間に、遥はふと、静かな想いに駆られた。
「平和を望む」と語りかけてくる彼らの“声”は、一体どんな姿をしているのだろう。もし会えるのなら、どんな言葉を交わしたいのか。彼女自身の、幼い頃から抱いてきた孤独と憧れが、今にも温かく結び合うかのように感じる瞬間がある。

 だが、それと同時に、少しばかりの恐怖も拭えない。人知を超える存在が招いているのだ。そこにどんな意図や歴史が潜んでいるか、誰にもわからない。彼らと手を取り合うために、人類は試されるのかもしれない──自らの倫理や、欲望や、未来への意志が。

 遠方にそびえるパラボラアンテナ群の向こうには、果てしない星海が広がる。その星海から届く微弱な声が、今や確かに私たちに呼びかけている。
 その呼び声に応えるかどうかは、私たちの選択次第。もし応える道を選ぶなら、その先に待つのは未知なる世界との“本当の交流”だ。失敗すれば、取り返しのつかない惨事を招くかもしれない。

 それでも、遥は心に誓う。
「これは私の、そして私たち人類の宿命なのだ」

 そうして、新たなメッセージの解析に没頭し始める。やがて、予期せぬ事態を引き起こすだろう重大な扉を、彼女たちは知らず知らずのうちに少しずつ開きはじめていた。
 孤独な観測者だったはずの桐生遥は、今や“人類と異星文明を結ぶ鍵”を握る立場へと変わりつつある。それがどれほど重い責任を伴うかも知らずに。

 数百光年先であれ、あるいはもっと遠い場所であれ、そこには確かに私たちに手を伸ばす者がいる。
 そして、この夜はまだ、始まったばかりなのだ。


すみません、書き直し版になります。
今回から、ChatGPTo1を使っての執筆になります。

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