消費の”裏側”がなくなってきた

劣悪な環境で約千匹を繁殖していたとしてブリーダーが摘発されたというニュースがまた飛び込んできた。法律が改正された今年の6月以降、この手のニュースを見ることが目に見えて増えて来た感がある。

この類のニュースをネットでみると、コメントの負の熱量は凄まじく、かなり過激なコメントも多く散見されるが、単に摘発された繁殖者を叩く事では何も解決しない。それよりも、なぜこうなったのか、その背景や経緯をイメージすることが大切だと思う。

「好き」が度を越して個人宅で猫が数十匹に増えてしまったような多頭飼育崩壊とは違い、これは完全に営利目的で繁殖されていた犬達だ。そして、営利目的ということは、当然売れるから産ませるわけで、産まれる数が多ければそれに比例して売上が上がるので、「産めよ増やせよ」の儲けの欲求スパイラルにハマり、そのうちに適正な飼育の分別が麻痺してしまったのだと思う。

ここで考えないといけないこと、それは、1000頭も繁殖していたのであれば、これまでに少なくとも数千匹、いや、繁殖を始めてからの出産総数を考えると数万頭の子達をペットショップ経由で買った人達がいるわけで、その人達がこの繁殖者を買い支えてきた、という紛れもない事実。

清潔な店内で気持ちの良い接客で盛り上がり、フワフワでいい匂いのする子犬を抱っこした瞬間、運命を感じて購入を決めた瞬間は、この子の両親がどんな環境でどんな繁殖者によって「生ませられた」子なのか、まで想像を巡らせる人はまずいないだろう。

見たくなかったことは見なかったことにする、知りたくなかったことは知らなかったことにする。それが通用する時代はとっくに過ぎ去り、サービスやプロダクトの裏側にある背景も考慮してその価値を判断する時代が到来している。

例えを出すときりがない。

●昔は高級なアウターの代名詞だったミンクのコート。ただただ皮を剥がされるために人知れず山奥で繁殖させられるミンク達の存在を問題視され、今は殆ど見かけなくなった(買う人がいなくなった)。

●高級車の内装には必須の革シート。近年は人工の合成素材のヴィーガンレザーを使うメーカーも登場し、自然の革シートを選択しないユーザーも増えてきている。

●ダイヤモンド。店頭に並ぶ姿は華麗そのものだが、実はアフリカの鉱山で多くの子供達が奴隷さながらに働かされて発掘していたり、ゲリラの資金源になっていることが暴かれ(ブラッド・ダイヤモンドという映画にもなっている)、そんなバックグラウンドを背負ってまで美しい石を身につけることの意味に疑問を持ち始めた人達は人工ダイヤモンドを好んで選択するようになった。

●バッテリー。これもダイヤモンドと同じく、アフリカで多く採れるコバルトという原料を掘り起こすのに多くの子供達が肺を壊しながら働かされており、コバルトを使わないコバルトフリーのバッテリーの開発が進んでいる。

●ジェット燃料。石油から生成されるジェット燃料を燃やし、地球を温め続ける事でしか飛べない飛行機で移動することを見直し、「飛び恥」という言葉まで生まれた。また、ジェット燃料に変わる燃料としてCO2排出量が低いバイオ燃料を一定の割合で使う試みもあり、航空業界も大きな変革の時代が到来している。

このように、業種を問わず、受けるサービスや購入するモノそのものだけではなく、その背景や生産の過程がトータルで評価される世の中になってきたということはもはや疑いようのない事実で、この波はこの先さらに大きな波になっていくことは間違いない。

「可愛い」というだけでショーウインドウに並んでいるペットを購入する時代はいつまでつづくのか。経済的には先進国である日本がぶっちぎりでペット後進国である本質的な原因は、実は殺処分の問題よりも「消費の裏側を見ようとしない事」のほうが根深いのかもしれない。






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