四畳半神話体系

○概要
自分の可能性を追い求める男子大学生を描いたパラレルもの。あったかもしれない「今」を追う主人公は、大学入学時のサークル選択を分岐点に、ないものねだりを繰り返して平行世界を渡るが、自分が今ある「今」をぞんざいに扱っていることに気づく。
本作の特徴は演出手法の幅広さにあり、特に現実世界と混じる部分はエヴァンゲリオンTVシリーズに似ているように思う。演出の見本市のような本作は、見ていて飽きることがなく、背景の文字から色合いに至るまで、明確な意図が込められている点が魅力的である。ファン当人が作品をかみ砕き、自分なりの解釈を持つことで作品への愛着が生まれるが、本作の考察要素の多さは、そうした愛着の強いコアなファン層の獲得に長けているように思う。

○感想
「可能性という言葉を無尽蔵に用いてはいけない」「今ここにいる君以外、他の何者にもなれない自分を認めなくてはいけない」師匠の言葉に尽きる。個人での発信が一般化し、誰でも何にでもなれる世界で何者にもなれないと感じる所以を、的確に示しているのではないか。人は経験が蓄積された結果として存在しているモノであり、その蓄積には常に自覚的でなければならない。過程を重んじ、過去を大切に、過去の関係性の蓄積である周囲との人間関係も大切に、そして全ての蓄積の結果である今のあるがままの自分も大切にする。経験を蓄積することが自己俯瞰に繋がり、人間の厚みをもたらすように思った。

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