見出し画像

光あれ

1950年代、大阪に開校した小学校は
イタリア系のミッションスクール。
木造の小さな教会、細い砂利道をはさんで
木造の小さな修道院、その質素な建物のそばに
鉄筋コンクリートの学び舎、真新しい立派な建物。

”子どもたち”のために―—
ひとクラス三十匹たらずの豆猫に
お勉強を教えて下さる先生と日本人のシスター方
イタリア人のシスターもお一人、”お裁縫のシスター”。

”お裁縫のシスター”は、保健室のお世話も。
転んで膝小僧を擦りむいては、ミィーミィー
―— Poveretta… mia cara bambina!

イタリア語はわからなかったけれど
「バンビーナ」だけはわかったわ! ニャン。
子鹿のバンビのことでしょう?

ある年のクリスマス、
二、三年生のバンビ猫が
英語劇に”出演”することに。

羊飼いに聖誕を知らせる天使たちの役、
衣装はもちろん、”お裁縫のシスター”!
足踏みミシンでカタカタ、出来上がったのは
白や淡いピンクのつやつやドレス。
それに天使ですもの、翼も忘れずに、ね。
針金を曲げて白いオーガンディを張った翼、
二枚をH字状に繋いで、背負えるように肩ベルトも。

翼のランドセルを背負ったバンビたちは
無事、天使猫になりました。
当日は講堂の舞台の上に尻尾をそろえて並んで
上級生演じる羊飼いたちに、元気いっぱい
 You can find Him!

            🎄✨🎄

キリストの聖誕を祝う劇は
中世のイタリアの小さな村で始まったとか。

十三世紀の西欧、村でも町でも
字を読める猫はとても少なくて、
そのうえ、印刷はまだなくて全部手書き
書籍はとっても貴重品。

クリスマスの出来事をみんなで体験して、
いっしょに祝えるといいなあ。
アッシジの聖フランシスコ(1182-1229)の
こんな思いに村猫たちが応えます。

聖書の登場人物に扮して”あの夜”を再現、
馬小屋を設え、飼い葉おけも置いて
ウマさんやウシさん、灰色のロバさん
羊飼いと彼らに連れられたヒツジたちも
みんないっしょに。

中部イタリアの丘の村グレッチオGreccioにて
1223年、クリスマスの夜でした。

十六世紀にはいると、聖夜の情景をうつした
模型が作られるようになり、降誕節中
西欧猫たちは、いまでも教会やお家に
”飼い葉おけ Crèche de Noël " を飾ります。
そばには聖母と聖ヨゼフ、村人や動物たちも。
南フランスなら、素朴なサントン santons、
色あざやかな土人形の聖者たちを!

ねこじゃら荘のクリスマス飾りは
イタリア製の置物、母猫を見送った年に、思いがけず
旧知のシスターから届いたクリスマスプレゼント。

置物の高さは20cmたらず、直径が10cmほどの円形の台座に
赤ちゃんとお母さんとお父さん、それに天使が一体。
古代ローマの遺跡で見たような石積みアーチと
イタリアカサマツ(アッピア街道の並木!)に囲まれて
いっとき足を休める旅の家族……

地面には白やピンク、小さなお花もそこここに描かれて
明るい風が吹きわたる、南欧のクリスマス。

赤ちゃんは飼い葉おけではなく
腰を下ろしたお母さんに抱っこされ、
立ったまま二人を見守るお父さんは
顕現した神秘に心打たれながらも、
幼子と若い母への愛おしみに溢れて。

アーチと地中海の樹木が交わる天辺には、天使。
両腕を広げ掲げた白いリボンには、金の文字で
GLORIA、グローリア、栄光あれ。 

            🎄✨🎄

Gloria in excelsis Deo                                 いと高き天には、神に栄光
Et in terra pax hominibus bonae voluntatis  地には、み心にかなう人々に平和

ルカによる福音書 2.14
  フランシスコ会 聖書研究所 訳注『聖書』

ミサ曲なら、第二曲「栄光の賛歌 Gloria」の冒頭、
このことばで、あの夜、天使たちは赤ちゃんの誕生を
告げ知らせました、王さまや博士猫にではなく
村はずれの野原で夜じゅう働く質朴な羊飼いたちに……。

人の工(たくみ)で点された明りはおろか
満天の星々のきらめきも、
真昼の太陽の輝きさえ凌ぐ光が
そのとき、天地に満ち満ちて―—

はじまりの時

神は仰せになった、「光あれ」。
すると、光があった。
神はその光を見て善しとされた。
                  『創世記』1. 3

フランシスコ会 聖書研究所 訳注『聖書』

大いなる記憶は
歴史の<いま・ここ>に共鳴し
愛の息吹に
言葉は幼子となって
ひとの縁(えにし)の
ただなかに生まれた―—

しかして御言葉は人となり給い   Et Verbum caro factum est     
我らのうちに住み給えり      Et habitavit in nobis                         
                   

Angelus(「お告げの祈り」)より
和訳は『公教会祈禱文』(1960)による。
出典はヨハネによる福音書1.14

光あれ。

天と地のあわい、
不穏の世界に
今日と明日のはざま、
深い夜の底に

いのちの光

きょうこの世界に生まれる
微小の灯(あかり)よ、
母の胸に、ほのぼのと
あたたかくあれ。

スーダンの母子、避難先のテントで。そばで父が見守っていた、と。
2024年 晩秋(毎日新聞webサイトより)

翼のランドセルを背負った
豆猫バンビたちが駆けて来て
声を合わせて、元気いっぱい
You can find Him!

            🔔🎀🔔

猫たちの聖夜、
きらきらモミの木のそばには
クリスマスプレゼント、中身は?
もちろん、カリカリ……の大袋🎶

ジングルベルの調べに
尻尾を逆さU字にして踊ったあとは
まあるくなって見る夢のなか、
「くるみ割り人形」に加勢して
「ねずみの王さま」やっつけて
お菓子の国へ出かけます。

ツリーの電飾も、もう
そろそろ消しましょう。

春に向かって、毎日
ほんの少しずつ早くなる
夜明けのときを
待ちながら…...。