僕とお姉ちゃんと、妖精。
この写真は、岩手に遊びに行ったときのこと、車の後部座席から見ていた風景を切り取ったものだ。
車の運転席と助手席には、大学時代からの友達がそれぞれ座っていて、彼らは楽しそうに、くだらない話をしていた。僕もそれにつられて笑いながら、外に広がる景色を眺めていた。初めて見る景色だった。だけど、なぜか親しみを感じる景色だった。
目の前に広がる景色を見て、僕は自分が4歳くらいだった頃の出来事を思い出した。当時僕が住んでいた辺りの風景とどこかしら似ていて、あの頃のことを連想させたのだ。
後部座席から、左側の窓の外を眺める姿勢のまま、いつの間にか僕はタイムスリップしていた。
僕の家の近所には、3つくらい年上のお姉ちゃんが住んでいて、断片的にしか覚えていないが、僕はそのお姉ちゃんと毎日のように一緒に遊んでいたのだと思う。僕が6歳くらいの時に、僕の家が引っ越してしまうまで。
思い返してみると、印象深い思い出ばかりだ。一緒に小川の生き物を探したこと。お姉ちゃんの友達の家に一緒に遊びに行ったこと。あれこれ。
フィルムの短い切れ端に過ぎないけれど、鮮明な映像として、いくつかのシーンが、僕の胸の奥にある宝箱に大事に仕舞ってある。
そして、それら一つひとつのシーンは、暖かな春の日の午後、草の上に寝そべり日向ぼっこをしているときのような、僕をそんな気持ちにさせてくれる。
この風景を見て思い出したのは、そのお姉ちゃんと2人で、近所の公園で夕方まで遊んでいた時のことだ。陽が傾いて、辺りがだんだん暗くなり、僕らの世界のあらゆるものの輪郭がぼんやりし始めていた。
そのとき急に、お姉ちゃんが公園にある樹の方を指差して、「あそこに妖精がいる!」と僕に言った。指差す方を見てみたが、僕にはただの樹しか見えず、妖精が居るなんて信じられなかった。だけど、お姉ちゃんは、真剣な様子だった記憶がある。
あれから、僕は大人になって、改めて振り返ってみたけれど、あのとき、お姉ちゃんは本当に妖精を見ていたんだなと思う。
きっと、これは僕が死ぬまで忘れることのない印象的なシーンの一つだ。
2人並んで笑顔でピースをして写っている写真のことは、今でもしっかりと覚えている。
あなたがどこかで、元気で幸せに暮らしていること、本気で願っています。